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2024年02月21日  - No.2 - 5

英国のレースの⅔を占める発走遅延に募る不満(イギリス)【開催・運営】


 ますます分断や仲間割れが進む競馬界において人々を団結させるものそれほど多くないが、競馬ファン・ブックメーカー・馬券購入者・TV視聴者は無限にくりかえされる"発走遅延"に対して一様にいらだちを募らせている。

 ITVレーシング(ITV Racing)のメインの実況アナウンサーであるリチャード・ホイルズ氏は昨年12月の本紙(レーシングポスト紙)のインタビューで、「視聴者や競馬ファンの満足度を向上させるために、2024年に競馬界に対して一番望むのは"発走遅延に対処すること"です」と語り、定刻どおりの発走は"地上波TVの絶対神"だとまで言った。

 さらに世界中のワールドプールを通じた馬券購入者の存在がますます重宝されている現在、定刻どおりの発走は英国競馬界の運命にとってさらに不可欠なものになっている。本紙が実施した調査は今や、競馬界がいかにひどい間違いを犯しているのかを明らかにしている。

 過去1年間に英国・アイルランドで施行されたレースの半分以上にあたる56.8%が定刻から1分以上遅れての発走だった。英国ではいっそう深刻であり、発走遅延は61.4%にのぼった。そして何よりも憂慮されるのは、過去5年間のデータを分析した結果、この問題が改善されるどころか悪化していることだ。

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 アイルランドの数字がまだ良いのには、英国よりも障害競走がずっと多く開催されていることが寄与している。ゲート入りが発走を複雑なものにする平地競走と、それがない障害競走とのあいだには大きな隔たりがあるのだ。

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 ただ障害競走であってもすべてがスムーズなわけではない。障害競走にかぎれば英国で43.6%、アイルランドで34.6%の発走遅延が生じている。しかし平地競走での状況はもっとひどく、定刻から1分以上遅れての発走は英国で71.5%、アイルランドで48.1%だった。

 とりわけ平地競走と障害競走の両方を実施している以下のような競馬場において隔たりは大きい。

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 ヘイドック競馬場でおよそ四半世紀にわたり馬場取締委員を務めているカークランド・テルライト氏が説明するように、馬を発馬機に収めるさいの手間が平地レースで発走遅延が頻発する主な原因であることは明らかだ。

 「平地レースの難題は、絶対に定刻よりも早く発走させるようなことはできないということです。早めに馬をゲートに収めて待機するようなことはないのです。つまりゲート入りがうまくいって最後の一頭がゲートインするとすぐに発走するという想定のもとに馬を発馬機に入れるのです」。

 「とりわけ平地競走の騎手は発走地点で長く待たされることを嫌います。発走地点で1頭が暴れて他馬が歩き回っているときほど、災難に見舞われる可能性が高まることはないのです」。

 「結果として、騎手は敢えてできるだけギリギリのタイミングで発走地点に連れて行こうとするのです。そして発走委員が馬を呼び寄せ、腹帯や頭絡をチェックし、ゲートインを承諾する時間だけを考えに入れるのです。しかしそこからは悪い方向にしかいきようがありません。うまくいけば定刻ちょうどに発走できますが、それより良くはなりえないのです」。

 しかし競馬場ごとにデータを分析してみると、すべてのケースでゲート入りの難しさが正当な言い訳にならないことがわかる。そうであれば、競馬場によってこれほど大きな差が出ることはないだろう。発走遅延は必ずしも予期しているような理由では起こらないのである。

 競馬場のレイアウト、とりわけパドックからコースまでの距離が発走のタイミングに影響を及ぼす可能性はある。ただニューマーケットの2つのコース、アスコット、チェルトナム、サンダウンなどは、パドックから発走地点までかなりの距離があるが、定刻どおりの発走という点でいずれも比較的健闘している。実際、ニューマーケットのジュライコースは、46%のレースが定刻から1分以内に発走しており、英国の平地コースとしてはブライトンとグッドウッドに次いで3番目に良い成績をあげている。レースの半分以上が定刻どおりに発走する競馬場は英国においてブライトンとグッドウッドだけである。

 競馬場が発走遅延に対してお手上げであることもある。複数場で開催が行われる多忙な午後には、1場の発走が遅れることでドミノ倒しのように他場でも遅延が生じることもある。概して、発走時刻の衝突や、馬券購入者泣かせである中継映像の分割表示を避けたいという願望がある。それゆえ、競馬場が互いに連絡を取り、前のレースが終了するまで次のレースを意図的に遅らせることになる。

 レーシングTVは英国の35場とアイルランドの全26場のレースを放映している。その親会社である競馬場メディアグループ(RMG)は発走時刻の衝突の矢面に立っており、CEOのマーティン・スティーヴンソン氏は不満を募らせている。

 「発走遅延はTV局にとって、スケジューリングの面で深刻な問題です。また、視聴者の満足感を削ぐものであり、観戦している競馬ファンの馬券購入機会を減らしてしまいます」。

 「ほかの主な競馬開催国は定刻どおり発走することの重要性を理解しています。英国やアイルランドの競馬場で定刻どおりに発走されないと、国内だけではなく世界中の放映スケジュールに影響を及ぼし、世界中の競馬ファンをいらいらさせ、収益に影響を与えてしまいます」。

 「アフォーダビリティチェック(経済力チェック)の実施や一般的な経済情勢を考慮すると、現在競馬産業では馬券売上げの減少は喫緊の課題です。だからレースを定刻どおりに発走させることはきわめて重要であり、おしなべて達成可能なことです。発走時刻の衝突が避けられなかったり、不測の事態により発走遅延が生じてしまったりすることもありますが、それ以外の理由による発走の遅れは避けられることもよくあります」。

 スティーヴンソン氏が深く関わった取組みのひとつは標準的ではない発走時刻の導入である。発走遅延を減らすために、2020年には英国とアイルランドで1日のあいだに、もしくは午後と夕方の時間帯に4場以上の開催となったとき、発走時刻を1時15分ではなく1時12分、3時40分ではなく3時38分に定めた。これはレースが密集したときに柔軟性をもたせ、発走時刻の衝突や遅れを避けることを目的としていた。

 スティーヴンソン氏はこう語った。「定刻どおりにレースを発走させ、発走時刻の衝突が最低限に抑えられるよう、私たちは競馬場や統括機関を支援するために懸命に取り組んできました」。

 「BHA(英国競馬統括機構)はプレミアム化戦略の一環としてこの重要性を認めています。57%にのぼっている発走遅延を減らすために、競馬界が2024年に真の進歩を遂げられることを願っています」。

 しかし過去5年間の発走時刻に関するデータを見てみると、アイルランドで状況が改善されている一方で、英国では悪化の一途をたどっていることがわかる。標準的ではない発走時刻が導入される直前の2019年、英国では46.7%のレースが定刻どおりに発走したのに対し、2023年は38.7%にまで下がっており、とりわけ平地競走で最も急落している。アイルランドでは同期間に定刻発走のレースは50.7%から58.9%に上昇している。

 馬券購入者を代表する団体"競馬賭事客フォーラム(Horseracing Bettors Forum:HBF)"は1月31日にBHAと会合をもつ。勇気づけられることに、そこで発走時刻の問題が取り上げられることになりそうだ。これは長年競馬ファンの不満を募らせてきて、何よりも解決が急がれる問題である。

 HBFのショーン・トリヴァス会長はこう語った。「数百万ポンドが賭けられるスポーツである以上、競馬はもう少しうまく運営できるのではないかと誰もが思うでしょう。私たちはBHAと話し合い、発走遅延の原因がどこにあるかを確認するつもりです」。

 「つねにイライラさせられますね。ベッティングショップで馬券を購入していた頃を思い出しますが、オンライン投票でもまったく同じです。2時30分発走のレースでドリーズガール(Dolly's Girl)の馬券を10ポンド買ったのですが、2時40分発走のレースでさらに10ポンド買うかどうかを決める前にレース結果を知りたいのです。もし7分遅れで発走したらレース結果が分からないので、次のレースを買い損ねることになります。それは私の楽しみを損なうだけではく、馬券売上げも奪ってしまうのです」。

 「すでにアフォーダビリティチェックによって競馬界が大いに問題を抱えているときに、発走遅延を減らせないのは自ら災いを招いているようなものです」。

By Andrew Dietz

[Racing Post 2024年1月18日「Nearly two-thirds of races in Britain last year were off late - and it's a problem that's getting worse and worse」]


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