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2023年12月20日  - No.12 - 4

張月勝氏が購買してアイルランドに渡った日本の繁殖牝馬(国際)【生産】


 中国の鉱山業で巨額の富を築いた張月勝氏は近年、一流繁殖牝馬の飽くなき追求のために広く網を張りめぐらせている。

 欧州では、昨年のタタソールズ社12月牝馬セールにてG1・4勝馬アルコールフリーを540万ギニー(約10億2,060万円)、今年9月のアルカナ社凱旋門賞セールにて独オークス(G1)優勝馬ムスコカを130万ユーロ(約2億150万円)で購買している。また米国では、デルマーオークス(G1)優勝馬ゴーインググローバルを250万ドル(約3億5,000万円)、BCジュベナイルフィリーズターフ(G1)優勝馬ピッツァビアンカの母ホワイトホットを210万ドル(約2億9,400万円)で購買している。

 張氏の競馬・生産事業体であるユーロン・インベストメンツ社は現在、豪州のセリでも圧倒的な勢いを見せつけている。5月のマジックミリオンズ社ゴールドコースト・ナショナル繁殖牝馬セールだけでも、60頭を購買するために3,350万豪ドル(約31億8,250万円)を費やした。中でもG1・3勝馬フォービドゥンラブ(Forbidden Love)を手に入れるために410万豪ドル(約3億8,950万円)を支払い、ほかにも6頭を100万豪ドル(約9,500万円)以上で落札した。同社の支出はこのセール全体の総売上額のおよそ3分の1に相当した。

 ユーロン・インベストメンツ社のCOO(最高執行責任者)サム・フェアグレイ氏は今年、豪州のフィナンシャル・レビュー紙に対し、同社は繁殖牝馬を豪州に600頭、アイルランドに100頭を所有しており、さらに100頭の購買を目指していると語った。これが実現すると、ユーロン・インベストメンツ社は世界最大の生産事業体の1つとなるだろう。

 優良繁殖牝馬を調達するために張氏がどれほどまで手を広げるつもりなのかは、ウェザビーズ社の『繁殖牝馬報告(Return of Mares)』で明らかになった。そこには、昨年日本で購買した牝馬12頭が繁殖活動のためにアイルランドに輸出され、そのうち11頭が種牡馬ラッキーヴェガのもとに送られたと記されている。ユーロン・インベストメンツ社が所有するこの種牡馬はアイリッシュナショナルスタッド(Irish National Stud)で供用されている。

 これらの牝馬は、張氏自身が2022年10月にノーザンファーム・ミックスセールとジェイエス繁殖セールに初参加したさいに購買したものであり、合計でおよそ2億6,000万円を支出した。日本からアイルランドに輸出された牝馬の中で最高価格だったのはG3勝馬クリスマス(父バゴ 母アラマサスナイパー 母父ステイゴールド)であり、購買されたときにはロードカナロアの仔がお腹の中にいた。半妹には優駿牝馬(G1 日本オークス)3着馬ドゥーラの母イシスがいる。

 クリスマスはエンジェルレーシングにより上場され、5,170万円で購買されたのち、4月にロードカナロアの牝駒を出産した。ロードカナロアはアーモンドアイやパンサラッサなどの傑出馬を送り出している名種牡馬である。その後、クリスマスはラッキーヴェガのもとに送られている。

 このグループにはほかにもリアオリヴィアとレベニューシェアという血統的に目立つ繁殖牝馬がいる。2頭ともディープインパクトの牝馬であり、それぞれの母がBCジュベナイルフィリーズ(G1)優勝馬リアアントニアとリディアテシオ賞(当時G1)優勝馬チャリティーラインである。

 購買価格4,840万円のリアオリヴィアは2月、レイデオロ牡駒を出産した。レイデオロ(父キングカメハメハ)はディープインパクトのファミリー(牝系)を引き継いでいる。また、購買価格3,410万円のレベニューシェアは4月、マインドユアビスケッツ牝駒を出産した。マインドユアビスケッツ(父ポッセ)はドバイゴールデンシャヒーン(G1)を連覇している。

 ユーロン・インベストメンツ社は本物の掘り出し物を手に入れた。ニュージーランドオークス(G1)優勝馬モアザンセイクリッドを935万円で落札したのだ。一方で、吉田勝己氏のノーザンファームにとってはめったにないミスとなった。

 14歳のモアザンセイクリッド(父モアザンレディ)は5月、芝で活躍した米国年度代表馬ブリックアンドモルタルの牡駒をアイルランドで出産した。そのあと英国に輸送され、南半球の繁殖シーズンに合わせてフランケルと交配している。彼女の3歳となった仔ドゥレッツァ(父ドゥラメンテ)は10月、菊花賞(G1)で3½馬身差の勝利を決めた。

 ユーロン・インベストメンツ社が日本からアイルランドに輸送したすべての繁殖牝馬が今年出産している。それゆえアイルランドにいる血統好きは今後、珍しい種牡馬の産駒の活躍を競馬場で、そしておそらく1歳セールで見ることができるだろう。

 ブリックスアンドモルタル・ロードカナロア・レイデオロのほかに、アドマイヤムーン・カリフォルニアクローム・シュヴァルグラン・イスラボニータ・キズナの産駒がいる。また、アイルランド生まれのルヴァンスレーヴ産駒が2頭、マインドユアビスケッツ産駒が2頭いる。

 フェアグレイ氏は本紙(レーシングポスト紙)に対しこう語った。「張氏は現在の多くの人々と同様に、日本の生産と競走成績がいかに世界の舞台で通用するのかを目の当たりにしてきました。最高の血統を手に入れたいと思う中で、日本の何頭かの繁殖牝馬を活用してみるのは理にかなったことなのです」。

 「アイルランドにいる日本産の当歳馬の1歳になるまでの成長具合を見てから、彼らの進路をどうするか決めるつもりです」。

 「何頭かはセールに上場されるかもしれませんが、大半は私たちが所有してレースに出走させることになるでしょう。とりわけ国際的な状況から見てちょっと斬新な種牡馬の産駒もおり、1歳市場では一筋縄ではいかないかもしれません。もちろん競走馬としての将来には影響しませんが」。

 繁殖牝馬12頭のうち11頭をラッキーヴェガのもとに送り込むことで、所有している種牡馬を大胆に支援する作戦を取り続ける。ラッキーヴェガ(父ロペデヴェガ)は2歳時にフェニックスS(G1)を制し、3歳時には英2000ギニー(G1)で3着、セントジェームズパレスS(G1 ロイヤルアスコット開催)で2着に健闘している。当歳の初年度産駒はこれから数週間のうちにゴフス社とタタソールズ社のセリに上場される。

 フェアグレイ氏は、「張氏は常にラッキーヴェガを支援したがっていて、徹底的にそうしてきました。私たちが繁殖牝馬を送り込むことで、ラッキーヴェガには素晴らしいチャンスがもたらされることになるでしょう」と述べた。

 ユーロン・インベストメンツ社は今年もラッキーヴェガに一流の牝馬を送り込んだ。ただ彼らは、コーシード(Khor Sheed)をラッキーヴェガと交配させたときに、彼女がどれほど優れた牝馬なのかに気づいていなかったのかもしれない。

 G3勝馬のコーシード(父ドバウィ)は今年のタタソールズ社2月セールにおいて、BBAアイルランドによりわずか2万8,000ギニー(約529万円)で購買された。そのとき彼女が送り出していた牡馬ウィズアウトアファイトはG3勝馬でしかなかったが、後にコーフィールドカップ(G1)とメルボルンカップ(G1)で力強い勝利を収めることになる。

 フェアグレイ氏はこう報告する。「コーシードはラッキーヴェガの仔を無事に受胎しました。彼女はとても美しいドバウィの牝馬です。彼女を購買したとき、全体的な繁殖成績は振るっていなかったかもしれませんが、今ではかなり見事なものになり、彼女を手に入れたことを喜んでします」。

 ユーロン・インベストメンツ社は、今年生まれたラッキーヴェガの初年度産駒24頭の生産者として登録されている。フェアグレイ氏は、「何頭かを当歳セールに出して、ほかの何頭かを1歳セールに出そうと考えています。そこで1頭か2頭を手元に置き、自家生産馬をきっと私たちの名義で出走させるでしょう」と付け加えた。

 繁殖牝馬群の迅速な拡大に関して、フェアグレイ氏はこう語った。「張氏はクールモア・ゴドルフィン・ノーザンファームのような世界的な生産事業体について調べているだけでなく、それらの少頭数の特化型の繁殖馬群にも注目しています。そして、世界を舞台にそれらの事業体の成功を模倣することを目指しているのです」。

 「それゆえ私たちの種牡馬を今後支えてくれるような本当に質の高い繁殖牝馬を確保してきました。豪州では特に好調で、そこでも選りすぐりの繁殖牝馬を繋養していますが、その勢いは世界中に広がっています」。

 「張氏は生産界を観察してきて、人々がどのように成功してきたかをつぶさに見てきたのです。そして今や、自身の牧場にその作戦を採用しています」。

 どの程度の利益を求めてユーロン・インベストメンツ社を運営していくつもりか聞かれて、フェアグレイ氏はこう答えた。「優良馬を生産することが主な願望であり、将来繁殖牝馬とするために最も優秀な牝馬を数頭、そして種牡馬として魅力的な牡馬をわずかな頭数残すつもりです。ただ、たしかに何頭かはセリに出すことになるでしょう」。

 フェアグレイ氏はまた、欧州のセリ史上2番目の高値で落札したアルコールフリーが現役を引退し、繁殖シーズンに向けて欧州に戻る可能性が高いことも明らかにした。彼女は今年、豪州でほとんど実りのないシーズンを送っていた。

 「彼女は現在、しばらく牧場に戻って休養しているところです。正確なプランは決定していません。来月あたりに決断するつもりです。来年繁殖入りするために欧州に戻るのもまったくありえない話ではありません。実際、その可能性は高いでしょう」。

 ユーロン・インベストメンツ社が昨年購買した日本の牝馬の中には、まだ交配がすんでおらず、アイルランドではなく豪州で向かう将来有望な高額の繁殖牝馬も含まれていた。

 そのグループには4歳のアルモハバナ(父キングカメハメハ 母ドナウブルー 母父ディープインパクト)が含まれている。名牝ジェンティルドンナの全姉でG3勝馬のドナウブルーを母とするこの牝馬は5,390万円で購買された。また、ジャパンカップ優勝馬スワーヴリチャードの半妹であり5,170万円で落札されたルナソル(父ロードカナロア)も含まれている。

 オーストラリア血統書によると、この2頭は北半球の繁殖シーズンに合わせて種牡馬リトゥンタイクーンのもとに送られた。多くの産駒を送り出しているこの種牡馬はヴィクトリア州にあるユーロン社で供用されている。

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By Martin Stevens

(1ポンド=約180円、1ユーロ=約155円、1ドル=約140円、1豪ドル=約95円)

[Racing Post 2023年11月17日「Ireland welcomes some exotic foals thanks to big stud's Japanese buying mission」]


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