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2023年12月20日  - No.12 - 1

国会で競走馬のアフターケアへの資金提供を提案する発言(イギリス)【開催・運営】


 12月6日(火)の国会での議論を受け、スチュアート・アンドリュー・スポーツ相はBHA(英国競馬統括機構)に対して競走馬のアフターケアのための資金について問題提起することとなった。ジョージ・ユースティス下院議員(元環境相)が国会においてこの議論を取り仕切り、競馬賭事賦課公社(Levy Board 賦課公社)からアフターケア部門に年間1,200万ポンド(約21億6,000万円)を提供するよう求めたのだ。

 ユースティス議員は今年のグランドナショナルで生じた抗議行動を引き合いに出しながら、「ソーシャルライセンス(訳注:産業が活動を継続するには社会に貢献する必要があるという考え方)の維持に依拠して行われる競馬運営のような活動は、このような抗議行動を軽く受け止めたり、動物愛護活動家を退散させたりはできません。常に動物福祉へのアプローチを改善するための努力をしながら活動しなければなりません」と語った。

 ユースティス議員は、自身の選挙区コーンウォール州にある、保護・譲渡活動を行う競走馬救済センター(Racehorse Relief)を訪問したことが今回の発言のきっかけになったと述べる。そして「飼料・乾草などのコストが高騰しているため、この団体をはじめ多くの慈善団体にとって資金調達が困難になっています」と語った。

 競馬界のどの機関がこのような施設への資金提供に責任を負っているのか調べようとしたところ、"雲をつかむような当てのない追求"をしているようなものだったとユースティス議員は述べる。まず賦課公社を皮切りに、"競走馬の再調教(RoR)"、競馬財団(Racing Foundation)、馬福祉委員会(HWB)と渡り歩いたが、これらの団体からは「資金がありません」と言われたという。

 ユースティス議員は、"堂々巡りの標識"に惑わされるような経験だったと非難した。そして「どの組織も私たちを別の組織へとたらい回しにし、最終的にはスタート地点に辿り着いたようなものでした。何かを実行できる組織はたくさんあり、おそらくその何かをすべきなのです。しかし、何もしないで誰かがやるべきだと提案するのがとにかく一番楽だと、誰もが考えているのです」と述べた。

 彼は賦課公社を"賞金からアフターケアに再配分可能な資金を持っている組織"と見なした。そして後に挑発的な意図で行ったと認める発言の中で、「誤解しないでください。レースでの優勝馬関係者への賞金には何の恨みもありません。しかし、優勝カップを贈るだけではなぜダメなのですか?」と述べた。

 選挙区内にチェルトナム競馬場があるローレンス・ロバートソン議員による介入をうけ、ユースティス議員は賞金の重要性を認めたように見えた。しかし、「なぜ競馬産業は賞金を提供してくれるスポンサーを見つけられないのでしょうか?賞金をもらう権利があると見なす一方で、なぜ慈善寄付を求めて物乞いをして回るのはいつも動物福祉部門ということになるのでしょうか?」と続けた。

 また彼はスチュアート・アンドリュー・スポーツ相に向けてこう語った。「今こそスポーツ相がまさに変化を引き起こすことのできる瞬間です。もし慈善団体に年間1,200万ポンド(約21億6,000万円)を提供すべきと言うのが寛大すぎるとお感じなのでしたら、年間数百万ポンドを出すところから始めるべきでしょう」。

 アンドリュー・スポーツ相はまず、英国における競馬の重要性についてのコメントから始め、「賞金は馬主、すなわち少数の億万長者の懐を肥やすためのものだという誤解があります。実際のところ、賞金は広範囲にわたる競馬のエコシステムに資金を注入する手段なのです」と付け加えた。

 しかしスポーツ相は"ユースティス議員は重要な点を指摘した"と述べ、こう語りかけた。「私はBHAのような組織と定期的にミーティングを行っています。次回のミーティングでは、ユースティス議員が強調した問題を必ず提起するつもりです。なぜなら、引退競走馬の福祉と彼が言及した慈善団体のサステナビリティはとても重要だからです」。

 「競馬界全体に課題があることを認識しながら、それらの重要な課題を浮き彫りにするために何ができるか検討してみます」。

 一方、賦課公社は声明においてこう回答した。「賦課公社は長年にわたりRoRへの資金提供者であり、HWBにも資金を提供しています。しかし競馬界は昨年、賦課公社ではなく競馬財団が馬の福祉への資金提供を主導することで合意しました。そして競馬財団は3年間で300万ポンド(約5億4,000万円)の助成を発表しました。それでも賦課公社は、馬の健康と福祉プロジェクトに向けた350万ポンド(約6億3,000万円)の一部として、年間約80万ポンド(約1億4,400万円)をこの分野に支出しています」。

 「今年は競馬界のアフターケア戦略の策定を支援するためにRoRに資金を提供しています。競馬はその性質上、さまざまな財源から資金を得ています。賦課公社の予算を引き上げることに反対しているわけではありませんが、私たちが提供しているものは、競馬界においてすでに大規模な取組みとなったものの一部にすぎません。賦課公社は明確な戦略とプログラムを求めており、それらは十分に費用が賄われる必要がありますが、私どもはそれらの支援のために役割を果たすつもりです」。

 またBHAの広報担当者はこう語った。「本日の国会での議論は、なぜ賦課金制度改革が緊急に必要とされているのかを示すうえでタイムリーなものでした。それは競馬界全体により高い割合の持続可能な財源をもたらすためです。私たちがこの見直しを一貫して歓迎し、競馬界にとって最善の結果を得るために政府と緊密に取り組み続けてきたのには多くの理由がありますが、これはそのひとつです」。

 「過去20年間にわたり、英国競馬界は4,700万ポンド(約84億6,000万円)以上の獣医学研究・教育・馬福祉のイニシアチブに取り組んできたことを誇りにしています。この資金は賦課公社、ここ最近では競馬財団により提供されています。資金のうち550万ポンド(約9億9,000万円)は、競馬界の馬の福祉に関する5年計画『生きる価値のある命(A Life Worth Living)』に割り当てられました。この計画は、馬の安全性・トレーサビリティ(追跡可能性)・福祉・アフターケアの継続的改善を推進する26のプロジェクトを特定しています」。

By Chris Cook

(1ポンド=約180円)

[Racing Post 2023年12月6日「MP calls on government to redirect £12m per year from prize-money towards aftercare for retired racehorses」]


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