グランドナショナルの変更をレジェンドたちが支持(イギリス)【開催・運営】
ルビー・ウォルシュ元騎手とバリー・ジェラティ元騎手は、競馬界全体からのグランドナショナルの大幅変更を支持する声をリードした。ジェラティ元騎手は、「看板レースのひとつを守るには必要なことです」と述べている。
2003年にモンティズパスとのコンビでグランドナショナルを制したジェラティ元騎手は、このレースの障害を飛越する馬の安全を確保するためにエイントリー競馬場とそのオーナーであるジョッキークラブが講じた措置を称賛した。同じくこのレースで優勝しているウォルシュ元騎手やルシンダ・ラッセル調教師もこれに倣った。
総賞金100万ポンド(約1億8,000万円)のグランドナショナルの主な変更点は、出走頭数の上限を40頭から34頭に引き下げ、最初の障害を発走地点に60ヤード(約55m)近づけ、発走をウォーキングスタートではなくスタンディングスタートに変えるというものである。
ジェラティ元騎手はこう語った。「ジョッキークラブとエイントリー競馬場は馬の福祉を最優先してこのような変更を行っているわけですから、賛辞を贈らなければなりませんね。出走頭数を減らすことは万人に受け入れられるものではありませんが、どうしてそのようなアイデアが出てきたのかは分かりますね」。
「3つの変更はすべて、レース序盤のスピードを抑えようとする積極的な試みなのです。グランドナショナルの壮観さを保つためにこのような変更を行わなければならないのであれば、それはとても重要なことです。看板レースとして守っていかなければならないのです」。
ウォルシュ氏は、「これらの変更案がグランドナショナルというレースを強化し、その将来を確かなものにすると信じています」と語った。そして今年のグランドナショナルで顕著だったようなコース内側への馬の密集が、これら変更により減ることを期待している。
パピヨンとヘッジハンターでグランドナショナルを制しているウォルシュ氏はこう付け加えた。「スピードが緩やかなほど安全なのです。馬は負けじと競い合いますが、今回の変更は馬と騎手を落ち着かせるのに役立つはずです」。
「小さな積み重ねが大きな進歩につながることを願っています。このプロセスには多くの着想と努力が投入されています。適切かつ徹底的な見直しです」。
「変化を嫌う人はたくさんいますが、あらゆるスポーツは変化するものです。サッカーは30年前、あるいは15年前と同じゲームではありません。それにラグビーワールドカップを見ても、ラグビーもまた進化してきています。競馬も同じで、その未来のために進化しなければなりません」。
今年4月に施行されたグランドナショナルでは、動物愛護活動家たちが前代未聞の馬場侵入を行なったために発走時刻が14分遅れた。その後数週間にわたってこの出来事についての議論が続いた。マージーサイド警察はその日、118人を逮捕した。警察の広報担当者は今週、捜査は続けられているものの起訴された者はいないと述べた。
しかしながら今回の大幅変更は多くの人を驚かせるだろう。グランドナショナルというレースの独自の地位や魅力を損なわせ、ほかの長距離障害競走との差別化を難しくさせるのではないかという不満の声も競馬ファンのあいだでは上がっているのだ。
エイントリー競馬場の馬場取締委員であるスレカ・ヴァルマ氏は、出走頭数の上限を40頭から34頭に引き下げたことについてこう説明した。「研究論文や障害競走の内部分析から、出走頭数と落馬や転倒のリスクには直接的な相関関係があることを認識しています。しかし、出走頭数を減らしすぎるとスピードが速くなってしまい、安全面で悪影響を及ぼす可能性があることも考慮しなければなりません」。
3年前にこの変更が行われていたら、女性のグランドナショナル優勝ジョッキーはまだ現れていなかっただろう。2021年にレイチェル・ブラックモア騎手が優勝に導いたミネラタイムズのゼッケンは35番だった。
グランドナショナルの発走時刻はここ数年午後5時15分とされていたが、馬場が乾燥するのを防ぐため午後の早い時間帯になる。新たな発走時刻はまだ決定されておらず、その協議にはITVが参加する予定である。
出走馬は馬場入り後のパレードで厩務員に連れられて歩くことはなく、馬道の終わりの地点で解放されることになる。これにより"馬が自らのリズムに合わせて返し馬ができるようになること"が重視されるようになるが、発走地点に行く前にスタンド前をキャンターで走ることはこれまでどおり求められる。
放馬をいち早く捕獲できるようにするために内ラチの配置が変更され、11号障害の高さが2インチ下げられ、着地側の落差も縮められる。すべての障害に発泡スチロールとゴム製の踏切板が取り付けられ、パドックの馬道は広くなり、散水装置にもさらに投資されることになる。
最後に、各出走馬の適性を評価するグランドナショナル調査委員会は、過去8戦のうち4戦以上で障害飛越に失敗したと指摘された馬をとりわけ重点的に調べるように要請される。
ジョッキークラブは、これらの変更が4月の動物愛護活動家の馬場侵入に屈してのものであることを否定した。そして広報担当は、「グランドナショナルが施行されるたびに見直し、証拠に基づいたプロセスの結果として常に変更を行っています。このプロセスはすべて、馬と騎手のケアと安全を何よりも優先させるという私たちのたゆまぬ努力の一環なのです。グランドナショナル当日に警備を破って不法に馬場に侵入した者たちの無謀な行動は、このレースに施される変更とはまったく関係ありません」と語った。
過去6年間にグランドナショナルを2勝したルシンダ・ラッセル調教師は、出走頭数の上限を引き下げる決定を"全面的に支持する"と述べた。そしてこう語った。「出走頭数が6頭減ったからといってレースの伝統が変わるとは思いません。前向きな一歩になると思いますし、発走時のごちゃつきが改善されることを期待しています」。
「最初の障害を移動させることに関しては、馬は進めば進むほどスピードを上げるので、理屈上ではゆっくりと1号障害に近づくことになりますね。ジョッキーにとってスピードを加減するのは難しいことだとわかっています。とても重要なレースですし、誰もが好位置を取ろうと争っているのです」。
2018年と2019年にタイガーロールとのコンビでグランドナショナル連覇を達成したデイヴィ・ラッセル元騎手も、スタンド前でのパレードで厩務員に連れられて歩くことの廃止など、変更の大半に満足している。ただ出走頭数を減らすことについては分からないと述べた。
「前向きな面がたくさんあります。ただジグソーパズルのように、すべてのパーツがはまらないとうまくいきません。パレードを無くすのは良いことですし、1号障害までの距離が短くなることも良いことです。でもスタンディングスタートには完全に納得しているわけではありませんね。馬にとって違うものになるでしょうから。馬は慣れていることから離れられないと思うのです。だからスタンディングスタートがあまり有効だとは思えないのですが、見てみないとわかりませんね」。
「出走頭数が6頭減るというのは大きいと思います。おそらく2頭減らすことから始めるべきだったかもしれません。しかしこれはパズルの一部であり、すべてをはめてみることで、馬と騎手にとって走りやすい状態になる可能性があります」。
意外なことに、ジョッキークラブはRSPCA(英国王立動物虐待防止協会)のエマ・スラウィンスキー氏にも変更を承認するコメントを求めていた。そして、「ジョッキークラブが馬の福祉に真剣に取り組み、その結果としてグランドナショナルに変更を加えたことを大変嬉しく思います」とスラウィンスキー氏は回答した。
By Chris Cook
By Peter Scargill
(1ポンド=約180円)
[Racing Post 2023年10月13日「Grand National legends back field size reduction as Aintree unveils major changes to big race」、「Grand National: the key changes to the big race at Aintree」]