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2022年03月23日  - No.3 - 5

獣医師と騎手の顔をもつフェリン・ピーターソン(アメリカ)【その他】


 フェリン・ピーターソン(Ferrin Peterson 29歳)は2つの情熱を満たそうとするのに最高の場所をついに見つけたと思っている。

 将来有望なピーターソンは、殿堂入りジョッキーのジュリー・クローンを東海岸に移住させしばらくエージェントを務めてもらうほどの才能に恵まれている。彼女は騎手としての目標を達成するためだけではなく、2つ目の天職である獣医師として馬を治療できるような活動拠点を探していたのだ。

 ケンタッキー州こそがその場所だ。この州で馬を治療するための免許を新たに取得したことで、昼はフェリン・ピーターソン獣医師(獣医学博士・動物鍼療法士)、夜は"獣医ジョッキー"または"ドクタージョッキー"として活躍している。

 米国サラブレッド生産界の中心地であるレキシントンでは獣医師の仕事は豊富にあるが、ピーターソンは今でも騎手としてのキャリアを築くことを一番重要なこととして考えている。

 「卒業後にフルタイムのジョッキーでありつづけたいと決心したとき、両方を合体させる方法を見つけなければならなかったのです。どのようにして、どこでそれをするか考えつくのにしばらく時間がかかりましたが、ケンタッキー州レキシントンに勝るところはないと思ったのです」。

 「毎朝6時から10時まで競馬場で馬を調教して、木曜日から土曜日まではターフウェイパーク競馬場でナイターがあります。現在は免許を取得しているので、それ以外の時間は獣医師の仕事をしています」。

 「今後はこのサーキット(開催日が重ならないように日程を合議して決めた競馬場の一群)を拠点にしてケンタッキーでの活動を展開するつもりです。1つの小さな地域にたくさんの牧場があり、2ヵ月に一度ほどの頻度でセリが行われています。私が力を入れたいと思っている分野が両方あるのですから、本当に完璧なのです」。

 しかし騎手生活が上位にあることに議論の余地はない。ピーターソンはこう語った。「獣医師たちも、私が何よりも騎乗活動を大事にしていることを理解してくれています」。

 「騎乗活動のあいだは症例について問い合わせる電話はしないとまで言ってくれました。完全に戦闘モードに入る必要があります。それに厳密に実践している運動・ダイエット・適切なバランスの維持に集中するために、毎日十分な時間を残しておかなければなりません」。

 ピーターソンはカリフォルニア州北部のサクラメントで育ち、学生時代は棒高跳びのチャンピオンで、いつも高い志を持っていた。動物科学の学位を取得したのち、名門カリフォルニア大学デーヴィス校獣医学部で 獣医学博士と動物鍼療法士を取得した。そして日本、香港、ドバイ、全米各地でインターンを経験した。

 同時にカリフォルニア州で見習騎手として騎乗し始め、最初のうちは多くの勝利を挙げなかったにしても、その独自の経歴から注目を浴びた。しかし米国競馬史上最も成功した女性騎手であるジュリー・クローンの注意を引いたときにすべてが変わった。

 ピーターソンはこう振り返る。「人気薄の馬ばかりに乗っていて、成績は伸び悩んでいました。しかしジュリーは私を見て、才能があると見抜いてくれたのです。ただ良い馬に乗れなかっただけです。出会ったときはそういった状況でした。彼女に『ジュリー・クローンさんですよね?』と言うと、『そう、あなたは獣医ジョッキーですよね?』と答えてくれました。私のことを気にかけてくれていたなんて、まったく衝撃的でした」。

 ピーターソンの夏のあいだのエージェントとなったクローンは、2020年に彼女を東海岸へ連れて行った。ニュージャージー州のモンマスパーク競馬場にピーターソンの拠点を置くためだ。そこはクローンの輝かしいキャリアの足がかりとなった場所だった。

 ピーターソンはこう語った。「モンマスに移ってようやくチャンスが巡ってきて、より刺激的な馬に乗るようになったのです。持ち直した瞬間、その波に乗らなければと思い、そこから調子を上げていきました」。

 「ジュリーは私のために東海岸に移住しました。夏のあいだは娘さんを連れてきて、みんなで大きな家に住んで、とても楽しい時間を過ごしました」。

 「モンマスパークはジュリーにとってニューヨークに行くための足がかりでした。私にとっては、ケンタッキーに行くための足がかりになればいいと思っています。ジュリーはずっと師匠であり続けていますね。本当に才能のある指導者なのです」。

 ピーターソンは2020年に順当に50勝を挙げ、その年のモンマスパーク開催の騎手ランキングで2位となった。

 昨年は冬にアケダクト競馬場(ニューヨーク州)、春から夏にかけてモンマスパーク競馬場で騎乗し、同時にスタテンアイランド(ニューヨーク州)の獣医診療所で犬や猫の治療を行いその分野での技術も維持しつづけた。

 ニュージャージー州ではその頃、馬を奮起させるための鞭使用が禁止されており物議をかもしていた。ピーターソンはそのルール変更をチャレンジと思っていたと述べ、「自分としては前向きにとらえていこうと考え、そのおかげで騎手としての腕を磨くことができたのだと思います」と説明した。

 そしてこう続けた。「あらゆるものを使って馬を扶助することができます。馬上では足首でバランスを取っているだけなので限界があると思いますが、体重や声を使ってできることは本当にたくさんあるのです」。

 「騎乗者として、すべての馬に対してつねに既成概念にとらわれない考え方をすべきですね。鞭の代わりに手を使うだけで、すごく力強いゴールができるようになるのです。騎手たちは鞭ではなく手を使うと余計に疲れてしまうと言うでしょうね」。

 キャリア100勝が目前に迫っているピーターソンは、ケンタッキーでより質の高い馬に騎乗することを望んでいる。朝の調教で、グラハム・モーション厩舎、ジャック・シスターソン厩舎、ラスティ・アーノルド厩舎の馬に乗るだけでは物足りない。

 彼女はこう述べる。「ケンタッキー州のサーキットはとても高い評判を得ています。トップクラスの馬と騎手がたくさんいます。一流の馬や騎手と競うことで、自分も一流になれると思うのです」。

 「キャリアを軌道に乗せるのはなかなか大変なことだと考えていたのですが、実はすぐに、調教師たちはチャンスを与えてくれていると思ったのです。レースでトップホースに乗れなかったとしても、重要な前哨戦のためにそれらの馬の追い切りに乗せてもらえるようになっていました。ケンタッキーでは初騎乗で勝利を挙げたくらいですから、たとえ騎乗回数が多くなくとも、勝率はかなり上がりつつあると感じています」。

 そのため、ケンタッキー州に移ってから彼女は2つの役割にとても満足している。「これからもこういう状態が続けば良いと思っています。この2つの役割は互いに補い合うものだと考えます。医療の現場で馬を治療するのはいつも騎乗するときの助けになり、同様に騎乗することは獣医師としての助けになります」。

 「馬から学べることはたくさんありますので、さまざまな方法でアプローチできるのは素晴らしいことです。獣医学部に通いながら見習騎手になり、周りからは"燃え尽きてしまうよ"と言われ続けましたが、獣医学部にいる頃は目標を達成するのに役立ちました。仕事だと感じませんね。燃え尽きると思ったことは一度もありません」。

 それでも彼女は2つの仕事に一線を引いており、現役馬の治療に関わるような獣医師の仕事はしていない。

 彼女はこう語った。「利益相反行為にあたるといけないので、競馬場での仕事は一切していません。しかし、私の騎手生活で大きな役割を果たしてくれた馬が引退して繁殖牝馬や種牡馬になったときに、いつか治療することが長年の夢です。ここはそれが実現できる場所でしょうね」。

By Jon Lees

[Thoroughbred Racing Commentary 2022年2月13日「Scrubs or silks? Ferrin Peterson is enjoying the best of both worlds in the bluegrass state」]


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