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2021年03月19日  - No.3 - 3

サドラーズウェルズとガリレオを手掛けた種牡馬管理者(アイルランド)【生産】


 サドラーズウェルズとその最も影響力のある後継種牡馬ガリレオは、過去30年間にわたり種牡馬ランキングにおいて支配的な力を保ち続けてきた。2頭合わせて162頭のG1馬を送り出し、合計26回リーディングサイアーに輝き、あらゆる種類の記録を打ち立ててきた。

 いくぶん驚くべきなのは、現代のサラブレッドの根幹を形成するこの2頭の引き手綱を握っているのが同じ人物であるということだ。それはクールモアの種牡馬管理者、ノエル・ステープルトン氏である。

 最近還暦を迎えたステープルトン氏は、クールモアで働き始めて今や35年になる。同氏は、叔父が半血種を生産するために繋養していたアイリッシュ・ドラフトホースの牝馬を管理するようになって、初めて馬の世界に足を踏み入れた。

 ステープルトン氏は1984年、デミ・オバーン(Demi O'Byrne)氏が運営する繁殖厩舎で働くことになった。オバーン氏は、バリードイル(クールモアの調教拠点)のヴィンセント・オブライエン厩舎で働いているときに、アレッジド・エルグランセニョール・ストームバード・ニジンスキーのような名馬を担当したことで有名な獣医師である。またクールモアの馬購買チームの主要人物となり、キャメロット・ドクターデヴィアス・モンジューなどを手に入れてきた。ステープルトン氏はまさにそのオバーン氏の庇護の下で、最初に手腕を磨いた。

 同氏は、「デミ自身、数々の名馬を購買してきたこと、そして現場の獣医師として活躍してきたことでレジェンドになっています。クールモアに来る前に、デミのところでしっかり教育を受けました。実際のところ、ここで働くために私を推薦してくれたのはデミです」と語った。

 同氏は1986年にクールモアに転職し、その2年後に種牡馬管理チームに入った。それはサドラーズウェルズの初年度産駒が2歳となってデビューした年だった。

 鹿毛の馬体ではっきりとした白斑が顔にあるサドラーズウェルズは、種牡馬としてすぐに成功を収めた。この年にデビューした初年度産駒の中には、デューハーストS(G1)で同着の1位となり父の才能を知らしめたプリンスオブダンスとシーニックがいた。その後、この2頭と同世代のブラーシー・フレンチグローリー・インザウイングス・オールドヴィックがG1優勝を果たし、供用2年~3年目の産駒にはサルサビル・オペラハウス・ラニョン(Runyon)・サドラーズホールが含まれていた。

 サドラーズウェルズ(父ノーザンダンサー)が偉大な種牡馬への道のりを歩みつつあったときに、クールモアは同馬をずっと世話する任務をステープルトン氏に与えた。

 ステープルトン氏はこう語った。「サドラーズウェルズの重要性は増し始め、クールモアはほぼ四六時中彼に付き添う人を探しており、たまたま私が担当させられることになりました」。

 「それはちょうど彼が絶頂期に差し掛かり始めたときでした。クールモアは彼を担当する人を求めていました。そうすれば、担当者はこの馬とその振舞いに慣れているので、もし何かが起こりそうになったらすぐに気付くでしょう」。

 しかしそのような幸先の良いスタートを切ってもなお、サドラーズウェルズの種牡馬キャリアが辿る新時代を開くような道のりを、誰一人として予見できなかっただろう。

 ステープルトン氏でさえも、「サドラーズウェルズには傑出した種牡馬になる素質があり、たくさんの勝馬を送り出していました。それでも、彼が残すであろうレガシーについては誰も予見していませんでした。彼はますます影響力を発揮していくばかりでした。驚異的な種牡馬でした」と述べた。

 ステープルトン氏に担当されているあいだに、サドラーズウェルズはG1馬73頭(実頭数)を送り出した。サドラーズウェルズ産駒には生来の卓越性だけでなく勇気と誠実さが植え付けられていた。サドラーズウェルズがクールモアにいるときは毎日、同じ特性が示されていたと、ステープルトン氏は語った。

 「サドラーズウェルズはとても穏やかな気性で、かなり扱いやすい馬でした。人々を楽しませようと思っている馬で、何でも協力してくれました。また、どの産駒にも同じような性格を伝えています。たくさんの当歳馬と1歳馬の中からサドラーズウェルズ産駒をすべて探し当てることができるでしょう。なぜなら、彼が自身の特徴を存分に産駒に伝えているからです」。

 「サドラーズウェルズはガリレオにもその能力を引き継いでおり、2頭とも素晴らしい振舞いをしており、そうした性格こそが鍵です。競走馬は調教、そして毎日のルーティンワークに耐えられる性格でなければなりません」。

 「2頭が優れていたことは、決められた日課をこなす姿勢です。運動メニュー、運動時間、そして給餌時間まで、すべてが前日とまったく同様であることを好むのです」。

 ガリレオは2002年にクールモアの種牡馬群に加わった。そしてサドラーズウェルズが2008年5月半ばに種付生活から引退するまでの丸6年間、父の傍らで供用された。ステープルトン氏はガリレオを到着時から担当するチームの一員である。

 「ガリレオは父のサドラーズウェルズとそっくりでした。とても利口で、父よりも聡明かもしれません。いつでも彼が何をするのか把握できます。騒ぎ立てることなど決してありません。種付場に連れてくると、まさに我々が望むように働いてくれます」。

 「それこそ、彼が産駒に伝えているものであり、産駒もそのように同じことを繰返しこなす性格と素質をもっていて、ストレスをためることなくレースに出走し、調教に励んでいます」。

 G1優勝産駒を世界最多記録である89頭送り出しているガリレオは、今年23歳となり、20年目の種付シーズンを始めたばかりである。ステープルトン氏は、リーディングサイアーに12回輝いた同馬が一年の最繁忙期を迎えるにあたり素晴らしい状態であることを報告した。

 「ガリレオはとても調子が良いので、今年も素晴らしい種付シーズンを過ごしてほしいと思っています。彼の毎日の運動メニューは、朝に1時間外で運動させ、11時30分に手綱を引いて放牧地を歩かせ、午後2時に再び運動させ、その後はまた放牧して牧草を食べさせます。基本的に種付けをするのに十分ふさわしい体を作らなければなりませんが、彼はそれを行いやすい馬です。なぜなら彼は依然としてアスリートだからです」。

 これらの種牡馬の功績の大きさを考えれば、サドラーズウェルズとガリレオのような馬を世話することの責任感が担当者の肩に重くのしかかっただろう。ステープルトン氏はその責任感に全く慣れ切っていたが、人々の反応により自身の義務の大きさを痛感したと語った。

 「彼らは驚異的な馬で、たいへんな価値を持っています。そのことは常に念頭に置いています。しかし、そのことを痛切に感じるのは、人々が訪れこれらの馬について話しているのを聞き、その姿に興奮しているのを見たときです。私たちは光栄にも毎日彼らの姿を見ていますが、彼らを目にするのは生涯に一度きりという人々もいます」。

 サドラーズウェルズとガリレオの世話をしながら、ステープルトン氏はサイアーライン(牡系)がどのように根を下ろしていくかをじかに見てきた。ガリレオはすでに、種牡馬となってG1馬の父となった産駒を20頭も送り出している。

 クールモアで供用されている種牡馬群の中だけでも、G1馬の父として実績のあるオーストラリアのほかに、より若くて将来を期待されているチャーチル、グレンイーグルス、ハイランドリールがいる。

 ステープルトン氏はこう語った。「クールモアは種牡馬に恵まれてきました。デインヒル、モンジュー、カーリアンはすべて多くの産駒を送り出しました。サドラーズウェルズが頂点に達した後、それ以上状況が好転するとは想像できませんでしたが、次にガリレオが現れました。そんなふうにレガシーが続くのは信じがたいことでした。しかし今や、競走で活躍し種牡馬となったガリレオ産駒をここにたくさん迎えており、そのレガシーが今後も続くことを望んでいます」。

 今年の種付シーズンには、G1・3勝を達成したマイラー、サーカスマキシマスが父ガリレオのいるクールモアの種牡馬群に加わっている。ステープルトン氏はこの新種牡馬についてこう語った。「クールモアのスタッフはサーカスマキシマスがここに来ることをとても喜んでいます。なぜなら、彼はとてもたくましくて誠実だからです。魅力的な容姿で、大きく歩き、それに調和する素晴らしいファミリー(牝系)に属しています」。

 「必要な要素はすべて揃っていて、私たちは彼に大きな希望を持っています。ガリレオ産駒はすべて同様で、このような性格をしていて、たくましくて誠実です」。

 ステープルトン氏はとりわけサドラーズウェルズ、ガリレオ、そしてその産駒と密接に関わる喜びを感じてきたが、クールモアの種牡馬を世話することはグループとしての努力が大きいと強調した。

 「ここにいるすべての馬を世話するためには私たち全員の努力が必要です。このように素晴らしい仲間と働くことができて恵まれています。この厩舎にいる人々には豊富な経験があり、誰もが自分の得意分野を持っています。ポール・グリーソン氏は私よりも長くここにいて、40年以上の勤務になるはずです。ポールが知らないことなどほとんどありません!」

 ステープルトン氏は、ある程度の危険性を伴いながら肉体労働を要する日程をこなすという役割の本質が、強固なチーム精神を不可欠なものにしていると強調した。

 同氏はこう続けた。「一緒に働いている厩舎スタッフを信頼できなければなりません。馬、とりわけ種牡馬は予測できない行動を取ります。そのため、経験と落ち着いたスタッフが必要です。ここの厩舎スタッフは、馬を怖がらせるようなことはほとんどしません。とは言え、この仕事をしながら常に学び、毎日何か新しいことを覚えています」。

 「馬の世話は年中無休であり、土日もクリスマスや聖ステファノの日(祝日)も馬を運動させなければならず、どのような天気でも外に出なければなりません。しかしそれが好きであれば、これほど素晴らしい仕事はありません。もし好きでなければ、長続きしないでしょう」。

 「たしかに肉体労働であり、健康を保たなければなりません。なぜなら馬は非常に強く、彼らを御せなければならないからです。おそらく全員にはあてはまらないのでしょうが、私は野外も馬も好きです。そうでなければ、こんなにも長く続いていなかったでしょう!」

By James Thomas

[Racing Post 2021年2月18日「Meet the Coolmore stallion man who led Sadler's Wells and Galileo to greatness」]

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