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2021年12月21日  - No.12 - 3

蹄葉炎の検査と治療について見識を深める研究(アメリカ)【獣医・診療】


 ペンシルベニア大学のニューボルトンセンターとフロリダ大学は蹄葉炎に関わる遺伝経路のマッピングに重要な進展をもたらし、血液検査による蹄葉炎の早期診断につながるバイオマーカー(指標となる生体内物質)を特定した。

 フロリダ大学食糧農業科学研究所の馬生理学の准教授であるサマンサ・ブルックス氏は、「蹄葉炎は馬とその所有者にとって厄介な問題です。研究蓄積の中にはこの疾病を治療する手段がほとんどありません。症状・痛み・機能的不安定性を治療することはできますが、原因を特定するものはまだありません」と述べた。

 蹄の組織に特化した遺伝子情報の不足により、これまでの蹄葉炎の研究には足かせがあった。そのため、科学者たちはニューボルトンセンターの蹄葉炎発見データベースを利用してきた。このデータベースは、2008年から集められた自然発生の蹄葉炎の症例から得たデータと検体のアーカイブである。両大学の最新の共同研究報告によると、研究者たちはこのデータベースを用いて、蹄葉炎の治療を受けたサラブレッド20頭の36個の組織を調べた。

 蹄葉炎には3つのタイプがあり、すべてが馬の脚の構造と機能を損傷させる。今回の研究では、2006年ケンタッキーダービー(G1)優勝馬バーバロの命を奪った負重性蹄葉炎(supporting limb laminitis)に焦点を当て、蹄の活性経路と機能のスナップショットを提供した。

 ブルックス氏は、「私たちは蹄葉炎発現のきっかけとなる状況を理解しています。しかし、蹄の中で何が生じているかについてよく分かっていません。今回の研究では、蹄葉炎の初期の進行過程がとても包括的に観察されています」と語った。

 研究者たちは遺伝子発現解析を用いて、20頭の遺伝子転写の変化を分類した。健常な脚の馬もいれば、発症の初期段階にある馬や、重症の馬もいた。研究者たちは疾病プロセスにおける傾向を特定した。

 ペンシルベニア大学獣医学部ニューボルトンセンターの蹄葉炎研究の上級研究員であるハンナ・ガランティーノ-ホマー氏はこう述べた。「私の研究室のデータベースを利用し、ブルックス博士の馬遺伝学とトランスクリプトーム解析に関する比類のない専門知識を組み合わせることで、細胞ストレスと炎症反応の新しい有望な経路を特定し、負重性蹄葉炎とその疾病プロセスに関する理解を大幅に深めることができました」。

 研究の結果、3つの重要な発見があった。

 1つ目は毛髪や爪、馬の蹄などの構造的完全性を維持するのに重要な構造タンパク質、ケラチンに関するもの。この研究は、蹄葉炎進行中のケラチンファミリーの変化を調べた最初の研究の1つである。ケラチン関連の遺伝子や細胞製造プロセスの調節機能の一部は症状が出だすと減少し始めた。研究者たちはこの変化を"車がパンクしたとき"に例えた。まだ走っているかもしれないが、しかるべき機能が失われ減速するのだ。

 蹄葉炎でよく研究されている別のタイプの細胞機構はメタロプロテアーゼと呼ばれる酵素の一群であり、細胞骨格の維持を助ける。これらの酵素は慎重にバランスを保たなければならない。蹄は馬体重下で成長して割れないようにしなければならない。そのためには、蹄の再生と内部組織の形成との間でのバランスが要求される。メタロプロテアーゼが活発になりすぎると、蹄の構造的強度が失われ始める。これまでの治療理論は、これらの酵素が活発になりすぎるのを阻止することだった。しかしこれらの酵素を標的にすると、蹄の成長が止まりさらなる問題が生じる可能性がある。

 ケラチンが低下すると、蹄の中で炎症が起こり蹄葉炎になる。科学者たちはこの炎症を引き起こす原因となる遺伝子の集合体を発見した。そして、将来的には炎症の治療薬開発につながる可能性があると考えた。これらの遺伝子は研究者たちに、"人間の自己免疫疾患のための炎症治療薬の一部は、蹄葉炎を患った馬に効果があるかもしれない"と信じさせるようになった。

 病変組織における遺伝子発現の変化は、疾病の進行に伴い血液中で検出できるタンパク質の変化にしばしば反映される。たとえば今回の研究では、外傷性脳損傷を受けた人間の血液中で増加する特定のタンパク質もしくはバイオマーカーは、蹄葉炎を患った馬から採取した検体で発現が増加していた。医師たちは画像診断やさらなる侵襲的検査を行わずに、これらの化合物を用いて人間の外傷の重症度を把握している。ブルックス氏は、これが馬の蹄葉炎の進行を監視するツールとして使えるのではないかと期待している。

 ブルックス氏はこう述べた。「馬が重度の蹄葉炎を患っていることに、事態がかなり悪化するまで気づかないことがあります。初期の症状を監視するツールや疾病と闘う方法は、刺激的な発見でした。しかし、これらの新たなツールが現場で使えるようになるまでにさらなる研究が必要です」。

 ブルックス氏は、今回の研究がこれらの新たな蹄葉炎関連のバイオマーカーを検出するための血液検査や、この疾病を患う馬にとって経済的で効果的な薬の開発につながることを期待している。

 ガランティーノ-ホマー氏はこう語った。「最終的にこれらの新たな発見は、私たちに対して今後の調査のためにより的を絞ったアプローチを指し示します。今後の調査が、この衰弱性疾患の予防と治療のための新たな解決策を見つけ出すのに役立つことを期待しています」。

 またブルックス氏は、「これは蹄葉炎に対する理解を深める上で大きな一歩となるでしょう。蹄葉炎は10年前にはまったく治療できないようなものだったかもしれません。しかしこれから10年後には、早い段階で介入してこの疾病というものを大きく変えてしまうことになるかもしません」と付言した。

By Blood-Horse Staff

[bloodhorse.com 2021年12月1日「Study Yields Insight Into Laminitis Testing, Treatment」]

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