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2021年10月21日  - No.10 - 3

ドイツはなぜミドルディスタンスの優良馬を生産するのか(ドイツ)【生産】


 私たちはまたしても、ミドルディスタンスの優良馬を生産するドイツの能力に驚かされることになった。

 デインドリームは2011年の凱旋門賞(G1)を見事に制した。その後彼女がキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(G1)も勝ってしまったときには、私たちはまたもやあんぐり開いた口を閉じなければならなかった。しかも信じられないことに、翌年のキングジョージは彼女の同胞ノヴェリストが制覇した。

 そして今回の単勝73倍のトルカータータッソは、彼のことを真剣に受け止めていなかった人々を撃沈させた。英国・フランス・アイルランドの競馬界に比べてドイツ競馬界がはるかに小さい産業であることを考えると、欧州で最も権威のある2つの平地競走で、彼らは能力以上の仕事をしていると言えるだろう。

 「ドイツのミドルディスタンスレースの水準は非常に高く、それは今も昔も変わりません」と語るのは、レットゲン牧場(Gestut Rottgen)との長い協力関係を誇る生産コンサルタントのジョスラン・ド・ムーブレイ氏である。同牧場は馬主として、2018年独ダービー(G1)をヴェルトスターで制している。ド・ムーブレイ氏が指摘するのは、トルカータータッソが2020年凱旋門賞2着馬インスウープに僅差で敗れた昨年の独ダービーの質の高さである。

 ド・ムーブレイ氏は、「このようなことはよくあるので、それほど驚くことではありません」と続ける。そして、アルピニスタ(マーク・プレスコット厩舎)が8月にベルリン大賞(G1)でトルカータータッソを破ったのは序盤の安定したペースのせいだと言う。しかし3着のウォルトンストリートがカナディアンインターナショナル(G1)を圧勝したことで、このレースの質の高さを証明したと指摘する。「トルカータータッソがどれほどの優良馬であるかに、人々が気づかなかったことこそ不条理だと思います」。

 ドイツ競馬界がいかに予想以上の好成績を上げているかを示すために、ド・ムーブレイ氏は2019年の生産頭数を結びつけている。ドイツは850頭、英国は4,748頭、アイルランドは9,295頭である。ではその秘訣は何だろうか?

 「すぐお分かりになると思います。ドイツで繁殖牝馬を所有するあらゆる生産者が勝ちたいと考えるレースは例外なく独ダービーと独オークスであり、本当にミドルディスタンスの馬にしか興味がないのです」。

 「ドイツで種牡馬を供用したいのであれば、すごく堅実で頑強な馬を持っていなければならず、その馬は3年以上現役を続け、少なくとも10戦していなければなりません。彼らは堅実性を求めています。早熟性などにはまったく興味がないのです」。

 「国際的なレベルで活躍できるドイツ産の3歳馬はかなり稀にしか存在しないということが分かっています。もちろんウィリアム・ハガス調教師が手掛けた馬なら、アレンカーのように活躍できるのです。しかしドイツ調教馬はその目的がより長期的であるため、4歳になってから覚醒する傾向があります」。

 その一方で、英国やアイルランドでスピードや早熟性が重視されていることはよく知られている。ド・ムーブレイ氏は、それには犠牲が伴っていると感じている。

 「英国やアイルランドでは、自国のステイヤーを過大評価する傾向が強いのです。彼らはそれらのレースで切磋琢磨する環境がどれほど弱まっているかをちゃんと実感していないのだと思います」。

 それでは将来の凱旋門賞で、マルセル・ヴァイス調教師、マーカス・クルーク調教師、ハンク・グレーウェ調教師のいっそう多くの管理馬が有力候補として出走することはあるのだろうか?

 ド・ムーブレイ氏はため息をつき、「ドイツ競馬はつねに危機に瀕しています。いろいろな意味で続いているのが不思議なくらいです」と述べる。

 「バーデンバーデンでもケルンでもデュッセルドルフでも、そこに行けばほとんどいつも、しかるべき熱狂的な観客がいるのに、全国的スポーツになっていないことがもどかしいところです。競馬産業にいる人々以外で、全国的スポーツとして競馬を注目している人はほとんどいません。人々は地元の競馬場に行きますが、国の反対側にある競馬場で何が起こっているのか目をくれようともしません」。

 ホッペガルテン競馬場のオーナーであり2016年ロイヤルロッジS(G2)優勝馬ベストオブデイズの生産者であるゲルハルト・シェーニング(Gerhard Schoeningh)氏にとっても、これは身近な問題である。同氏は、積極的な馬券購入者の数を増やす方法を競馬界は見つけなければならないと言う。なぜなら彼が目にした調査によると、ドイツでは25万人が毎年どこかの時点で競馬に行くが、1万5千人しかオンラインで定期的に馬券を購入していないからだ。

 シェーニング氏はこう語った。「競馬に行って楽しい時間を過ごし馬券を少し購入する人々はたくさんいます。ただ、私たちは彼らがどんな人たちなのかよく知りません。彼らがオンラインでアカウントを持ち、競馬に行くときも同じアカウントを使えるように、私たちはデジタルウォレットを整備しなければなりません。とても重要な要素だと思います」。

 それは、競馬の財政を支える手段としてシェーニング氏が挙げたいくつかの方法のうちの1つだ。競馬の財政は、馬券購入方法がベッティングショップからオンラインに移行していることでひどいダメージを受けている。

 シェーニング氏はこう続ける。「現在、国内の賭事市場を拡大するための戦略的な見直しを行っている最中です。あらゆることを安定した状態にしなければならず、基本的に競馬を支援したいと思う一部の愛好家をあてにすることは持続可能なモデルではないという認識はあると思います」。

 「競馬はゲーミング市場の1%を下回る小さなシェアしか占めていないので、本当にニッチなスポーツなのです。そこで私たちが持っている資産、"多数の競馬ファン"をまず活用すればよいのです。彼らにオンライン顧客になってもらって、競馬場に行かないときも馬券を購入してもらうのです」。

 それを念頭に置きながら、もう少し多くレースを施行するようにすれば効果が上がるでしょう。「ドイツの競馬賭事市場のうちドイツ競馬は20%ほどしか占めていません。80%は外国の競馬で、フランスが最大の割合を占め、英国もかなり大きな割合を占めます。それは、ドイツでは例年で約160日というかなり限られた日数しか競馬が開催されておらず、ドイツのレースが施行されていない日が多いからです」。

 シェーニング氏はドイツ馬が凱旋門賞で1勝したぐらいでは、デインドリームが優勝したときと同様に大きく状況が変わるとは思っていない。そして「進歩を遂げるために、私たちはおそらく10から15の取組みが必要と考えています」と述べた。

 ドイツの生産コンサルタントであるフィリップ・グラーフ・シュタウフェンベルク氏は、トルカータータッソの栄光の瞬間は実は競馬産業にとって悪いニュースなのではないかと考えている。


 「このような大勝利を収めたことによる不利益は、ドイツ競馬を推進する責任者たちが"じつに素晴らしい。何も変える必要はない"と言うことです」。

 「トルカータータッソが優勝したことは素晴らしいことです。しかしドイツの競馬界や生産界にとっては、変化が必要ですから、良くないことだと思っています。ドイツ競馬を本気で再活性化しようとする人材が存在しないということに尽きるのだと思います。担当する人々は20年も取り組んでいるのに、何も変わっていません」。

 「私たちは産業としてとても悪い状態にあります。繁殖牝馬や産駒の数は減っています。種牡馬についても難しい状況です。アドラーフルークは死にましたし、ソルジャーホロウも高齢になってきています。正直なところ、勢いのある種牡馬が不足していてあまり前向きな気持ちになれないのです。賭事プール全体においてインターネットによる売上げが大きなシェアを占めていて、それは競馬に還元されていません」。

 シュタウフェンベルク氏は、ドイツの大半の競馬場は多くの若者がエンターテインメント施設に期待する水準にははるかに及ばないと考えている。

 ド・ムーブレイ氏もこれに同意し、「ホッペガルテン競馬場はとてつもなく効率的で、彼らは素晴らしい仕事をしていて、大勢の観客を集め、馬券売上げも上々です。一方で、マルセル・ヴァイス調教師が拠点とするミュールハイムのようなさびれた競馬場もあります。ゴーストタウンに来たような気持ちになりますね」と語った。

 最近トルカータータッソを負かしたアルピニスタを手掛けるサー・マーク・プレスコット調教師は管理馬を定期的にドイツに遠征させており、トップクラスのミドルディスタンス馬を生産するドイツの能力を高く評価している。

 「スリップアンカー(1985年英ダービー優勝馬)以降、彼らがどれほど素晴らしい馬を生産することができるかを誰もが知っています。それに彼らは、なかなかの馬をたくさん生産しています。ドイツ競馬は国内で必死にもがきながら、ホッペガルテンには非常に力を入れてきました。誰もが彼らができるかぎり幸運をつかめることを願っていると思います。だからこそ、今回の凱旋門賞はドイツにとって素晴らしい結果となりました」。

 凱旋門賞を制したスワーヴダンサーとモンジューを手掛けたジョン・ハモンド調教師はこう述べている。「ドイツにとって素晴らしい結果でしたが、ドイツが優良馬を生産することを誰もが知っています。ドイツ生産界はミドルディスタンスの3歳馬を重視していますが、英国の生産界では多くの人々が6ハロン(約1200m)の2歳馬を重視しています。ドイツの人々はそういうミドルディスタンスの馬を生産していて、優良馬を生産するときはそれはとびきりの優良馬なのです。それがお家芸なのです」。

By Chris Cook

[Racing Post 2021年10月4日「'Hanging on a thread' - how German racing overachieves despite dire forecasts」]


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