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2020年06月22日  - No.6 - 3

芝レースの人気上昇により重視される芝馬場の管理(アメリカ)【開催・運営】


 北米で芝レースの人気が高まっている。そのため、馬場の安全性と性能の向上に努める馬場管理者と競馬産業の専門家は、芝コースに重点的に取り組んでいる。

 5月26日のオンラインセミナー(グレイソン・ジョッキークラブ研究財団提供)で、それらの取組みの概要が説明された。このセミナーは、新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となった2020年競走馬福祉・安全サミット(Welfare and Safety of the Racehorse Summit)の代わりの役割を果たしていた。

 競走馬場試験研究所(Racing Surfaces Testing Laboratory)の専務理事でありケンタッキー大学の教授を務めるミック・ピーターソン(Mick Peterson)氏が主催したこのセミナーにおいて、芝馬場の安全性と性能を高めることが新たな焦点として強調された。

 米国ジョッキークラブの事故馬データベース(Equine Injury Database)において、予後不良事故率は過去10年間、減少傾向を辿ってきた。2019年には、全馬場の予後不良事故率は過去最低の1.53件(出走馬1000頭あたり)に到達し、出走馬の99.85%は無事故だった。ただし芝馬場に限れば、予後不良事故率は前年比30%増の1.56件(出走馬1000頭あたり)となった。

 芝馬場の予後不良事故率は2009年から2019年にかけて20%減少しているが、2019年には好ましくない結果となった。ピーターソン氏と馬場管理者たちは、予後不良事故率を再び減少させたいと考えている。

 ピーターソン氏はこう語った。「北米で芝レースの人気が高まっているので、私たちにとって芝馬場は重要です。芝馬場のコンディションについて不満を耳にしたことはありません。"柔らかすぎる"あるいは"硬すぎる"などの意見があれば、エアレーション作業や散水で対処できます」。

 「芝レースに出走する馬の割合が増えているので、芝レースの魅力を理解して、それを存分に引き出せるようにしなければなりません」。

 ジム・ぺンダーガスト(Jim Pendergest)氏はサラブレッドセンター(The Thoroughbred Center レキシントン市郊外の調教センター)の場長であり、2019年9月にキーンランド競馬場の馬場担当理事に就任している。同氏はオンラインセミナーの動画プレゼンで、馬場管理者たちは芝レースの安全性を高めることに重点を置いているとし、優秀な馬場管理者で構成されるNTRA(全米サラブレッド競走協会)の委員会の最近の取組みについて語った。

 「芝馬場について、一層多くの情報・要件・データを記録するように取り組んでいます。芝レースへの注目が高まっている中で、大切なことです。調教師たちは以前よりも芝向きの馬を多く手掛けており、より多くの芝レースが施行されることを望んでいます。芝コースは以前にも増して重要なものになっているからこそ、より重視して取り組まなければなりません」。

 ピーターソン氏は、芝馬場への定期的な試験は強化されてきたとし、次の3つの事柄の向上に努めていると述べた。(1)傷んだ芝を補修する馬場表面の材料についての情報、(2)散水とエアレーション作業についての実証、(3)既存もしくは新規の馬場試験方法。

 同氏によれば、それらの取組み以外では、レースによる馬場の傷みを分散化させるために仮柵等でコースを区切り使い分けることで、芝を良い状態に保つことを重視している。そして、芝生が剥がれた箇所を補修するために上質の混合ソッドを使用している。また、発馬機が置かれる地点などによく起こる芝の損耗を調べる研究も行われている(訳注:ソッドとは、芝生を打ち抜いた平板状のもので土も含まれる)。

 ピーターソン氏は後に、芝生が剥がれた箇所をダートやソッドで埋めるのと同じくらい簡単に使える材料についても研究に値すると指摘した。

 「芝生が剥がれた箇所を埋めるための混合物が、できる限り周囲の材質とマッチしなければなりません。現時点ではそれが課題です。サンタアニタパークなどのいくつかの競馬場においては、その混合物を開発するためにとても賢明な取組みが行われています。私たちもそれを検討する必要があります。馬が同じ箇所をキックしたときに吹き飛んでしまう砂のようなものであってはいけません」。

 競馬においてレース中の予後不良事故は極めて稀になっているが、人々はさらにその数を減らすために懸命に取り組んでいる。ピーターソン氏は、ソッドを使う補修や発馬機が置かれる地点など、些細と思われることについての議論が効果を生むだろうと述べた。

 「いくつかの競馬場を見てみれば発馬機が置かれている地点の馬場の損傷は軽微なものだと分かるので、競馬場間でベストプラクティス(最良の実践方法)を共有することが役立ちます。発馬機を芝コースに出し入れする一連のプロセス・発馬機のデザインと装置・芝の上に設置する際に発馬機のタイヤの下に板を敷く作業などについても情報を共有したいと思います」。

 オンラインセミナーでの発表は、競馬界がこれまでに取り組んできた馬場に関する諸問題をはじめ幅広い分野を実証した。ピーターソン氏は、トラックに搭載された含水率を測るセンサーのような技術を通じて、データ収集が一層オートメーション化されたことで、より正確でリアルタイムの情報が入手可能であると述べた。そして馬場管理者が馬場の性能と安全性を高めるにあたり、それが役立つと信じている。

 ピーターソン氏は、競馬界が有する馬場に関するデータと見識について、「10年~15年前に尋ねられていたなら、競馬は他のスポーツと比べてかなり遅れていると答えていたでしょう。今では、他の産業と比べても最高級の手順や基準を実践し、データも持っています。競馬のために獲得してきたそのデータは、どのスポーツとでも張り合うことができるでしょう」と付言した。

By Frank Angst

[bloodhorse.com 2020年5月26日[Efforts to Improve Safety of Turf Surfaces Continue]]

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