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2020年05月21日  - No.5 - 4

香港競馬史における名馬10頭(香港)【その他】


 近年、香港競馬は飛躍的な発展を遂げている。そのためここに挙げる名馬10頭は、香港国際競走(毎年12月にシャティン競馬場で開催される競馬祭典)の創設により、香港競馬が世界の舞台に向けて歩き始めてから現在までの約30年間の活躍馬に限られている。

 そのため、鎖国状態だった初期の香港競馬界のヒーロー、シルバーライニング(Silver Lining 1977年・78年&80年の年度代表馬)、コタック(Co-Tack 1982年&83年の年度代表馬)、クイックンアウェイ(Quicken Away 1988年&89年の年度代表馬)はリスト入りしなかった。いずれにせよ、当時と現在の競走馬の能力を数字で比較するのは不可能だが、近年はこれまでになく優良馬の層が厚くなっているので、常識では近年の競走馬のほうが優れていると言える。

 それでも、この"近接バイアス(直近の出来事が印象に残る傾向)"にもかかわらず、リストから除外するのが残念な世紀末以降の一流競走馬は山のようにいる。

1. サイレントウィットネス(Silent Witness)

[1999年- せん・鹿毛]

父El Moxie -母 Jade Tiara

調教師: アンソニー・クルーズ

騎手: フェリックス・コーツィー

馬主: アーサー・アントニオ&ベティ・ダ・シルバ夫妻

生産者:I・K・スミス(豪州)

通算成績:29戦18勝

2003年~2005年IFHA世界最優秀スプリンター

2004年&2005年香港年度代表馬

 香港競馬界の伝説に他ならない。真に偉大なスプリンターであるサイレントウィットネスは、デビューから3年間(2003年~2005年)で17戦17勝を達成し、世界トップスプリンターの評価を得た。

 同馬は、香港スプリント2勝やチャンピオンスプリントシリーズ(ボヒニアスプリントトロフィー/センテナリースプリントカップ/チェアマンズスプリントプライズ)の完全連覇などの快挙を果たした。香港スプリントでは2戦とも単勝1倍台の1番人気で臨み、世界中から遠征してきたトップホースを破った。同馬が初めて敗北を喫したのは競走距離を伸ばした時である。2005年5月にチャンピオンズマイルで優良馬ブリッシュラック(Bullish Luck)に僅差で敗れた。

 海外遠征でも恵まれていた。日本の最高峰の短距離戦スプリンターズS(G1)に臨んだサイレントウィットネスはピークを迎えて、難攻不落とも言える強さを見せ、その戦績にさらなるG1勝利を加えた。同馬への評価は大変高く、香港ジョッキークラブ(HKJC)は専用のウェブサイトを開設したほどである。

2. ビューティージェネレーション(Beauty Generation)

[2012年- せん・鹿毛]

父Road To Rock -母Stylish Bel

調教師: ジョン・ムーア

騎手: ザック・パートン

馬主: パトリック・クォック・ホー・チュン

生産者:ネアルコスタッド社(NZ)

通算成績:37戦20勝

2019年IFHA世界最優秀マイラー

2018年&2019年香港年度代表馬

 長きにわたり世界トップマイラーに君臨するビューティージェネレーションは、2017年~2019年においてシャティン競馬場でほぼ負けなしだった。次々に爽快な勝利を収めて、ますます力をつけていった。中でも最も記憶に残る勝利は、衝撃的なパフォーマンスでライバル馬を造作もなく下した香港マイルの2勝目だろう。

 2018年と2019年に年度代表馬に選ばれたのは、その間ほぼ無敗だったのでお決まりのパターンだろう。同馬は2018年4月~2019年10月に10連勝を達成し、その間に香港競馬史上初めて1シーズンで8勝を挙げた馬となった。

 また1億42万2,500香港ドル(約14億592万円)を獲得し、香港最高賞金獲得馬にもなった。2018年には、公式レーティング127をマークし、これまでの香港調教馬の中で1位タイとなっている(もう1頭はエイブルフレンド)。

 全盛期ほどの勢いはなくなったが、4月26日に行われるチャンピオンズマイルでの現役最後となるかもしれない勝利をファンは期待している。そのレースで優勝したならば、3度目の年度代表馬候補となれるだろう[訳注:ビューティージェネレーションはチャンピオンズマイルの最後の直線でサザンレジェンドと接戦を繰り広げたが、惜しくも短頭差で敗れた。なお、同馬は来シーズンも現役を続行する]。

3. セイクリッドキングダム(Sacred Kingdom)

[2003年- せん・鹿毛]

父Encosta Da Lago -母Courtroom Sweetie

調教師: リッキー・イウ

騎手: ジェラルド・モッセ、ブレット・プレブル

馬主: シン・カン・ユク

生産者:N・F・カルヴァート夫人&エステート・オブ・ザ・レイト・A・M・カルヴァート(豪州)

通算成績:36戦17勝

2007年~2009年IFHA世界最優秀スプリンター

2010年香港年度代表馬

 偉大なセイクリッドキングダムは数シーズンにわたり活躍した。年末に発表される公式ワールドランキングでは、スプリンターとして3年連続で最高レーティングを獲得したほどだ。

 同馬は、豪州から香港に渡り、3歳で5戦5勝を果たした。その翌シーズンには、驚異的なパフォーマンスで香港スプリントを制し、評価を確立した(6歳でも同レースで優勝)。故障により競走生活の中断を余儀なくされたが、5歳で再び全盛期と同様の勢いを取り戻し、シンガポールの高額賞金競走クリスフライヤー国際スプリント(クランジ競馬場)で地元のスーパースターであるロケットマン(Rocket Man)を破って、海外でも勝利を挙げた。

 2012年に8歳で引退するまで地元のトップスプリンターと競った同馬は、香港チャンピオンスプリンターに4回、最も人気ある馬に3回選出された。シャティン競馬場で樹立した1000mのコースレコード54秒70は、2019年にエセロ(Aethero)が1/100秒縮めるまで12年以上破られなかった。

4. フェアリーキングプローン(Fairy King Prawn)

[1995年- せん・鹿毛]

父Danehill - 母Twiglet

調教師: リッキー・イウ、アイヴァン・アラン

騎手: ロビー・フラッド、スティーヴン・キング

馬主: ロー・サク・ホン夫妻

生産者:キャサリン・レッドモンド(豪州)

通算成績:26戦12勝

2000年&2001年香港年度代表馬

 香港競馬史上最も人気のある馬の1頭フェアリーキングプローンは、2000年安田記念でゴドルフィンのディクタット(Diktat)を1¼馬身差で下して画期的な勝利を収め、海外のG1競走を制した初めての香港調教馬となった。

 同馬は1999年に第1回香港スプリントを制し、香港の様々なG1競走で勝利を挙げていたことで、その能力の高さをすでに示していた。

 また、2度の惜敗によって同馬の評価は高まった。1度目は、2000年香港マイルでニュージーランドの万能牝馬サンライン(Sunline)をとらえようとしたものの短頭差で敗れたとき。2度目は、ドバイデューティフリーでサンラインをとらえることができたが、ジムアンドトニック(Jim And Tonic)に首差で敗れたとき。サウスチャイナモーニングポスト紙の当時のシニアレーシングライターであったローレンス・ウェイディ(Lawrence Wadey)氏は、「フェアリーキングプローンは、香港スポーツ界の巨像である」と書いた。

5. リヴァーヴァードン(River Verdon)

[1987年-2005年 せん・鹿毛]

父Be My Native - 母Tuyenu

調教師: デヴィッド・ヒル

騎手: ジョン・マシアス、ジェラルド・モッセ、バジル・マーカス、ジョン・マーシャル

馬主: サー・オズワルド・チュン&ロナルド・アーカリ

生産者:ロナルド・アーカリ(アイルランド)

通算成績:38戦16勝

1991年&1992年&1994年香港年度代表馬

 香港競馬史のレジェンドであるリヴァーヴァードンは、1990年代の香港のトップホースだった。香港中距離三冠を唯一達成した馬であり、年度代表馬に3回選出された。6シーズンにわたって勝利を挙げ、その中には香港ダービー優勝、香港ゴールドカップ2勝、香港チャンピオンズ&チャターカップ4連覇などが含まれる。さらに1991年香港招待カップ(現 香港カップ)では四大陸から集まったライバルを撃破した。

 同馬は地元で高い評価を受け、香港調教馬として初めて海外G1に挑戦することとなった。出走した1992年アーリントンミリオン(11着)と1994年メルボルンカップ(20着)では精彩を欠いた。しかし、同馬の草分け的な海外遠征のおかげで、その後の数十年において多くの香港調教馬が海外で成功を収める道が開けた。

6. ヴェンジャンスオブレイン(Vengeance Of Rain)

[2000年-2011年 せん・鹿毛]

父Zabeel -母Danelagh

調教師: デヴィッド・フェラリス

騎手: アンソニー・デルペッシュ

馬主: チャウ・チュー・メイ・ピン&R・G・チャウ

生産者:K・ブリッグス・エンタープライズほか

(ニュージーランド)

通算成績:27戦10勝

2007年香港年度代表馬

 2007年ドバイシーマクラシック[当時、総賞金500万ドル(約5億2,500万円)で世界最高賞金芝レースの1つだった]でトップクラスのライバル馬を破って大勝利を収めたことで、香港をまさに競馬の世界地図に載せた馬の1頭である。敗れた馬の中には、英ダービー馬サーパーシー(Sir Percy)やBCターフ優勝馬レッドロックス(Red Rocks)が含まれていた。しかし、ヴェンジャンスオブレインは2005年に香港ダービー、クイーンエリザベス2世カップ、香港カップを制して、ワールドレーシング・チャンピオンシップ(1999年~2005年に開催)の優勝馬に輝いており、ずっと前からその才能を存分に示していた。香港カップでは、凱旋門賞2着のプライド(Pride)を首差で破るという記憶に残る勝利を果たした。

 ニュージーランドで生産されたヴェンジャンスオブレインは、豪州でサブスクライブ(Subscribe)という馬名で競走生活を始めた。同馬はその活躍ぶりから驚くに値しないが、2007年~2010年の3年間、香港の最高賞金獲得記録を保持していた。

7. エイブルフレンド(Able Friend)

[2009年- せん・栗毛]

父Shamardal - 母Ponte Piccolo

調教師: ジョン・ムーア

騎手: ジョアン・モレイラ

馬主: コーネル・リー・フック・クワン

生産者:ラムジーパストラル社(豪州)

通算成績:26戦13勝

2015年香港年度代表馬

 全盛期、とりわけ単勝1倍台で臨んだ2014年香港マイルで鞭なしで逃げ切り4¼馬身差の破壊的な勝利を収めたときには、絶対的な世界最強マイラーと見られていた。香港国際競走でこれほど圧倒的なパフォーマンスが見られることはめったにない。それゆえ、年末のワールドベストレースホースランキングで、それまでの香港調教馬の中で最高のレーティング127を獲得して世界第3位となった。

 同馬の戦績には、香港G1競走(1400m~1600m)での優勝が多く見られる。その中には、チェアマンズトロフィー2勝、チャンピオンズマイル・クラシックマイル・クイーンズシルバージュビリーカップ・スチュワーズカップ・プレミアボウルでの優勝が含まれる。残念なことに、唯一の海外遠征となったロイヤルアスコット開催で、ひどく発汗し惨敗を喫した。そのときに発症した故障がその後の同馬のキャリアに響くことになったが、2017年の引退までG1競走の有力馬であり続けた。

8. アンビシャスドラゴン(Ambitious Dragon)

[2006年- せん・鹿毛]

父Pins - 母Golden Gamble

調教師:トニー・ミラード

騎手: マキシム・ギュイヨン、ダグラス・ホワイト、ザック・パートンほか

馬主: ジョンソン・ラム・プイ・フン&アンダーソン・ラム・ヒム・ユエ

生産者:E・P・ロウリー(ニュージーランド)

通算成績:30戦13勝

2011年&2012年香港年度代表馬

 アンビシャスドラゴンは、香港競馬史上最高のチャンピオン馬の1頭であり、2回年度代表馬に輝いた。驚異的な末脚に恵まれ、1400m~2000mの距離で実力を発揮した。それにより、香港チャンピオンマイラーと香港チャンピオン中距離馬にそれぞれ2回ずつ選出された。

 その評価が海外よりも地元香港で高かったのは確かだ。唯一の海外遠征となった2012年ドバイデューティフリーで才能が発揮できなかったことで、海外でその輝きはかすんでしまった。同馬はその日、レース前からかなり入れ込んでいた。それでもシャティンでの実績により、10頭以上の世界の強豪G1馬が集まる中で1番人気馬として送り出されていた。

 アンビシャスドラゴンは4歳で香港ダービーを制した後、香港マイルでの圧勝を含むG1・6勝を挙げた。同馬を愛情深く管理したトニー・ミラード調教師は、「私の考えでは、彼は最高に素晴らしい馬でした。万能だったからこそ、そう言えるのです」と語った。

9. ヴィヴァパタカ(Viva Pataca)

[2002年- せん・鹿毛]

父Marju - 母Comic

調教師: ジョン・ムーア

騎手: ダレン・ビードマン、マイケル・キネーン

馬主: スタンレー・ホー

生産者:フロアーズファーミング&サイドヒルスタッド(英国)

通算成績:51戦18勝

2009年香港年度代表馬

 後にヴィヴァパタカとなる馬は、最初は英国でコミックストリップ(Comic Strip)という馬名で7戦5勝を果たした。サー・マーク・プレスコット調教師にとっては、ハンデキャップ競走でまずまずの成績を残す馬に過ぎなかった。ところが、香港に売却されて迎えた最初のシーズンで、同馬は香港ダービーを制して、その後G1・8勝を果たした。そして数シーズンにわたって香港の一流競走馬の1頭として活躍した。

 終盤での強力な末脚に恵まれたヴィヴァパタカは、2000m以上の距離で実力を発揮するようだった。4年連続で香港チャンピオン長距離馬に輝き、香港チャンピオン中距離馬にも3回輝いた。同馬は、香港チャンピオンズ&チャターカップで3勝し、クイーンエリザベス2世カップと香港ゴールドカップでそれぞれ2勝して、8,300万香港ドル(約11億6,200万円)を超える賞金を獲得し、香港で最高賞金獲得馬となった。年々賞金が増額されているにもかかわらず、同馬は2018年にビューティージェネレーションに破られるまでその記録を7年間保持した。

10. グッドババ(Good Ba Ba)

[2002年- せん・鹿毛]

父Lear Fan - 母Elle Meme

調教師: アンドレアス・シュッツ、デレク・クルーズほか

騎手: オリヴィエ・ドゥルーズ、クリストフ・スミヨン

馬主: ジョン・ユエン・セ・キット

生産者:サンタマリアデアララス牧場(米国)

通算成績:49戦16勝

2008年香港年度代表馬

 グッドババは、2009年に香港マイルの3勝目を挙げ、香港国際競走で3年連続の勝利を達成した最初の馬となった。しかしそのときには、最盛期を過ぎていた。同馬はアンドレアス・シュッツ調教師の下、2007-08年シーズンに香港のG1を4勝していた(その中には1400m戦で優良スプリンターのセイクリッドキングダムを破って果たした勝利もある)。

 しかしレーシングポスト・レーティング(Racing Post Rating)は、2008年香港マイルで最高の実力が示されたと評価する。グッドババはそのレースでG1常連のエイブルワン(Able One)を負かしてコースレコードを打ち立てた。その快挙により、同馬は2008年ワールドサラブレッドランキングで香港調教馬が獲得したレーティングの金字塔となる124を獲得し、香港調教馬全体の評価を引き上げた。

 気まぐれな馬主は、ピークが過ぎてからもこのせん馬に現役を続けさせた。同馬は香港で7シーズン(2005年~2011年)走り続けたが、以前のような活躍を見せなくなり、11歳で豪州へ電撃移籍させられた。しかし、豪州のスプリント競走で活躍することはなかった。

[特別賞]インディジェナス(Indigenous)

[1993年-2004年 せん・黒鹿毛]

父Marju - 母Sea Port

調教師: アイヴァン・アラン

騎手: バジル・マーカス、ダグラス・ホワイト、シェイン・ダイほか

馬主: パン・ユエン・ヒン

生産者:オールドタウンスタッド(アイルランド)

通算成績:64戦15勝

1999年香港年度代表馬

 インディジェナスはアイルランド・キルデア州で生産された。ケヴィン・プレンダーガスト(Kevin Prendergast)調教師に管理され、クアルトロン(Qualtron)という馬名でデビューし、8戦3勝の成績を挙げた。

 その後香港に売却されて、インディジェナスと改名され、香港で最強ステイヤーの1頭となり、おそらく最も息の長い競走馬の1頭となった。アイヴァン・アラン調教師に手掛けられ、香港ゴールドカップと香港チャンピオンズ&チャターカップをそれぞれ連勝し、1998年香港ヴァーズで優勝するなど様々なビッグレースを制した。また1999年には最も人気ある馬に選ばれた。

 海外遠征では、1999年ジャパンカップで日本のスター馬スペシャルウィークの2着となり、その3年後にはシンガポール国際航空カップで3着となった。注目に値する息の長さは、この恐るべきせん馬が9年間現役を続け、香港国際競走に6回も出走したほか、ロイヤルアスコット開催やドバイワールドカップ開催に遠征したことに示されている。

By Nicholas Godfrey

(1香港ドル=約14円、1ドル=約105円)

[Thoroughbred Racing Commentary 2020年4月24日「Hong Kong's ten best horses of the modern era」]

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