TOPページ > 海外競馬情報 > 短縮された平地シーズンは充実したものになるか?(イギリス)【開催・運営】
海外競馬情報
2020年05月21日  - No.5 - 1

短縮された平地シーズンは充実したものになるか?(イギリス)【開催・運営】


 悪いことばかりではない。

 誰もがこれまでに経験したことのない大変な時期を生きている。最悪な場合は、新型コロナウイルスに感染して瞬く間に命を奪われ、愛する人々を悲しみのどん底に突き落としてしまう。

 生き延びたものの、悲惨で恐ろしい闘病生活を経験した人々もいる。私たちの大半はほぼ四六時中自宅で過ごし、程度に差があるにせよ節約を強いられている。一人ひとりの経験は様々だが、少し前に比べるとつまらない生活を送っている。

 競馬産業やそれに付随する産業にとって、困難な時期であるのは疑いようがない。しかしスポーツ心理学者マイケル・コーフィールド(Michael Caulfield)氏が本紙(レーシングポスト紙)で語ったように、希望を捨てないことが極めて重要である。それに、希望が持てる理由は沢山ある。それらのうちのごく一部を示していきたい。

暫定的な競馬再開計画

 競馬は機が熟したときにしか再開できない。私たちが競馬再開について突き詰めて考える前に、まず政府が外出禁止令を緩和し、国民保健サービス(NHS)が新型コロナウイルスに対処できるようにするための明確な指導を行わなければならない。

 サラブレッド産業で働く人々が気が気でないのは理解できる。しかし、今週ある有名調教師が提案したアプローチほど最悪なものはない。この調教師は、「世論はほとんど気にするべきではありません」と主張した。

 競馬がこれからも発展していくためには、絶対にそうであってはならない。社会全般で持たれている共通認識をわざと無視することは危険であり、不利であり、愚かである。

 また、実現が見通せるようになる前に競馬再開の日程を発表することも、全く非現実的であり、実に無意味である。BHA(英国競馬統括機構)は、数週間のうちに競馬再開が可能になった場合の競馬番組の計画について伝えるために、調教師たちと連絡を取ってきた。その計画の中では、ギニー競走を6月初旬、英ダービー(G1)と英オークス(G1)を7月初旬に施行することが暫定的に提案されている。さらに、競馬賭事賦課金公社(Levy Board)・競馬財団(Racing Foundation)・BHAの尽力のおかげで、英国競馬界は現在2,200万ポンド(約28億6,000万円)の資金援助が受けられる。

 競馬統括機関は舞台裏に座ってのんびりしているわけではない。できるだけ早く競走馬が出走できるようにならなければ生計が立てられない人々を守るために、必死になって取り組んでいる。

 統括機関と競馬従事者の間に醜い分断が生じるのであれば、それは何の役にも立たない。それよりずっと良いのは、"一流の平地調教師が、収入が無くなった障害騎手を調教で騎乗させている"というエピソードで示されているような競馬産業での共通の仲間意識を持続させることだろう。

観客は絶対必要というわけではない

 競馬は単なるスポーツではなく、1つの産業である。そしてこの産業は新型コロナウイルスにより大きな打撃を受けている。しかし、全く同様に打撃を受けている産業はいくらでもある。

 パブ・レストラン・劇場で雇われている人々のことを考えてみてほしい。大勢の集まりが禁止されていることで、彼らは今後何ヵ月もの間、賃金を得る希望を持てないかもしれない。彼らや他の多くのスポーツに関わる人々に比べれば、競馬従事者の目の前にははるかに明るい未来がある。

 それはなぜかと言えば、競馬は比較的容易に「無観客」で再開できるからである。ベッティングショップの営業は引き続き停止されることから、競馬界の財源、そして賞金は、打撃を受けるだろう。それでも、ソーシャルディスタンスを保つために抜本的な措置が取られれば、競馬は実施できる。欧州でもいくつかその例を確認できるが、さらに注目したいのは、この数週間、豪州・日本・香港でさまざまなG1競走が「無観客」で開催されていることである。英国・アイルランド・フランスでそれができない理由はない。

 競馬場がファンを再び迎えられるようになるまでに何ヵ月も掛かる可能性もあるはずだ。年内にできるのかという不安さえある。

 とはいえ、大多数の人々は競馬場に行かずにレースをテレビで観戦する。豪州のランドウィック競馬場とローズヒル競馬場は、場内に観客がいなくとも、土曜日のビッグレースを施行している。それでも、テレビ放映されたそれらのレースは見ごたえのあるものだった。テレビ観戦したファンの中には、場内の大観衆が作り出す雰囲気を味わえなかったことに寂しさを感じた人もいただろう。しかしレースそのものは、観客がぎっしり詰まったグランドスタンドの前で繰り広げられるのと同じように見えた。私たちの目はレースに釘付けになり、レースを観戦する人々に目を向ける必要はない。

 入場料や来賓室での接待による収入を失うことで、財政がひっ迫する競馬場もあるかもしれない。一方、多くのスポンサーが契約を撤回することも考えられる。それゆえ、競馬に参加する人々は報酬が減少することを甘受せねばならないだろう。しかし極めて重要なことだが、私たちは「無観客」でもビッグレースをうまく施行できることを知っている。それはここ英国でもうまく行くだろう。

あらゆることの改善を考える機会を掴む

 災いを転じて福となすという考え方もある。このような最悪な状況にあるからこそ、競馬がスポーツとして物事をどのように進めているかを調べて、その方法を改善できるかどうかを評価するのに良い機会である。

 競馬に直接的・間接的に関わる慈善団体が収入を得る方法は、改めて評価し直すに値する分野の1つである。とりわけ、苦境にある競走馬をケアする素晴らしい人々や、競馬従事者を現役時代も引退後もサポートする団体に対して、競馬界がどう資金提供するかについて再考できるだろう。

 競馬福祉協会(Racing Welfare)のCEOドーン・グッドフェロー(Dawn Goodfellow)氏は、これが無駄にしてはならない機会である理由を説明した。「競馬福祉協会と負傷騎手基金(Injured Jockeys Fund)は、競馬産業で働く人々に対して福祉を提供するたった2つの慈善団体であり、完全に募金で成り立っています。 "競走馬の再調教(Retraining of Racehorses)"が入場料からの控除金を得ているのに対し、これら2つの団体はいずれもそのように定められた資金を受け取っていません」。

 「競馬界はこれまで、特定分野に資金提供すべきだと認識するといつでも、新たに賦課金を徴収していました。このような資金調達の方法は自然に増えていきました。慈善的な観点から私たちが提供すべきなのは何か、そしてそれを準備するには何が最善の方法なのかについて、戦略的な検討は一切されてきませんでした。いたるところから少しずつ資金が集められ、様々な共同基金に入れられている状態です」。

 「私たちはあらゆる資金提供の要求を検討し、競馬産業としてそれらの要求を満たすためには何が最善の方法かを考えなければなりません」。

平地シーズン短縮でも高まる期待

 新型コロナウイルスがなければ、4月中旬にニューマーケット競馬場とニューベリ競馬場でギニー競走の前哨戦が施行されるはずだった。それらは優れたトライアルレースだが、これらの競馬場では最終目標として目指されるレースは開催していない。なぜなら、まだ4月中旬だからである。通常の年でさえ、この時期は平地シーズンは始まったばかりと言える。この異常な年でもそれは当てはまる。

 2019年平地シーズンは、驚くべき快挙を果たしたフランキー・デットーリ騎手が話題を独占していた。競馬界一有名なこの騎手はこの年、キャリア最多の年間G1・19勝を達成した。それでも彼が2019年に初めてG1勝利を挙げたのは、5月31日の英オークスにおいてであり、本当に勢いに乗ったのは4月中旬よりも1ヵ月以上も先のことだった。

 2020年英オークスが例年と同じ時期に開催されないであろうことは事実だが、英ダービーと同様にほぼ確実に開催されるだろう。それに、英1000ギニー(G1)や英2000ギニー(G1)などの重要なレースも開催されるだろう。それらのレースの数は私たちが楽しみにしていたよりは少なくなるだろうが、有意義なシーズンが繰り広げられるには十分すぎるほどだ。

 一風変わった平地シーズンになるだろうが、この異常性を受け入れるよう努力すべきだ。子供にとって、12月25日当日の喜びよりもクリスマスに向けて膨らむ期待のほうが大きくなってしまうことがよくある。この平地シーズンにおいて、私たちはかつてないほど長く膨らみ続ける期待を抱くことができる。

 競馬が再開されれば、異例づくめのシーズンに見る最高峰レースには希少価値があるだろう。9月のケンタッキーダービー(G1)は面白いはずだ。それにエプソム以外の競馬場で施行される英ダービーを見るとすれば、それはひと味違う経験となるだろう。英ダービーがエプソムで開催されるのは確実のようだが、"ダービーの開催地変更"という斬新さを味わってみても良かったかもしれない。

 平地シーズンは凝縮される必要があるだろうが、良い方向に考えれば、それはシーズンをスリリングなほど張り詰めたものとするのに役立つはずだ。また比類なく特別なシーズンになるだろう。たくさんのスター馬が再び出走する状態を整えていることで、2020年の短縮された平地シーズンは、いつもと異なるがとてつもなく楽しいものになることが約束されている。

By Lee Mottershead

(1ポンド=約130円)

[Racing Post 2020年4月19日「Racing behind closed doors works - and that's just one reason to be cheerful」]


上に戻る