ケンタッキー州競馬委員会、気管支拡張薬の規制を可決(アメリカ)【獣医・診療】
ケンタッキー州競馬委員会(KHRC)は12月8日、ケンタッキー州馬薬物調査委員会(KEDRC)が12月初めに提案していたクレンブテロール(clenbuterol 気管支拡張薬)の規制を可決した。ただし、スタンダードブレッド産業を代表する委員の1人は反対している。
クレンブテロールは、馬の呼吸不全の治療を助けるために使用される薬物である。しかし、筋肉を発達させる効果があるために乱用されていることが疑われている。このことは、北米各地の競馬統括機関が下気道疾患の馬を治療する以外の目的でのクレンブテロールの使用を規制する要因となった。
KHRCが12月8日に可決した規制の条項では、馬が3つの条件を満たさないかぎり、全馬種に対してクレンブテロールの使用は禁止される。KHRCの相談役であるジェニファー・ウルフシング(Jennifer Wolfsing)氏によれば、それらの条件は次のとおりである。(1)特定の診断結果にもとづく処方、(2)対応する競馬場の馬医療担当理事への治療記録の転送、(3)獣医師のリストに治療馬を21日以上掲載すること。なお獣医師のリストに掲載されている馬は出走が認められない。
KHRCでスタンダードブレッド産業を代表するわずか2名の委員のうちの1人であり、スタンダードブレッドのオーナーブリーダーであるアラン・リーヴィット(Alan Leavitt)氏は、反対票を投じた唯一の委員だった。同氏は、スタンダードブレッドは"クオーターホース産業とサラブレッド産業の人々の罪を報いており"、スタンダードブレッドが毎週のように出走する繋駕競走ではクレンブテロールは役立つと見なされていると語った。
リーヴィット氏はほかの委員に対して、「この規制に反対します。私たちはクレンブテロールを乱用しているのではありません。この薬物は馬を安全な状態に保つのにとても役立ちます。"独善的な慈善家"には放っておいていただきたいです」と述べた。
コンサイナー(セリ上場人)のケリー・コーセン(Kerry Cauthen)氏やフォスター・ノースロップ(Foster Northrop)博士など数人の委員は、クレンブテロールについてのルール改正は必要であると反論した。
ケンタッキー州の競馬場で活動している獣医師であるノースロップ博士はこう語った。「リーヴィット氏がおっしゃることは分かります。しかし、悪用もしくは乱用され、本来想定されていない効果を得るために利用される可能性のあるすべての薬物に対して、いっそう厳格な指導が必要なのです。クレンブテロールはレースだけでなくセリにおいても乱用されています」。
スタンダードブレッドのオーナーブリーダーであるもう1人の委員ケン・ジャクソン(Ken Jackson)氏は、クレンブテロールの規制に賛成票を投じた。
同氏はこう語った。「スタンダードブレッドとサラブレッドのあいだの生理学的差異や薬物に対する代謝基準値についての明確なデータはありません。毎週の競馬スケジュールもしくは場合によってはビジネスモデルに基づいて一定の薬物が使用されるべきか否かを議論することは、危険で向こう見ずな道であると考えます」。
12月8日の会合においては、クレンブテロールの規制の採決が議論となったが、他の多くの議題についてはありきたりな提案の採決が行われた。
KHRCのスタッフの報告によれば、ケンタッキー州の競馬場では今年、新型コロナウイルスのために場内の発売金は減少し続けている。一方、ヒストリカルホースレーシング(HHR 訳注:スロットマシンに似たゲーム機であり、配当金を確定する際に過去のレースを利用する)は入場制限が行われているにもかかわらず、その発売金は増加している。エリスパーク競馬場の10月のHHRの発売金は前年同月比で2倍となり1,870万ドル(約19億6,350万円)以上に上った。しかし、それは依然としてケンタッキーダウンズ競馬場とダービーシティゲーミング(チャーチルダウンズ社が所有)のHHRの発売金には遠く及ばない。これら2つの施設ではそれぞれ、10月のHHRの発売金が1億ドル(約105億円)以上に上った。
KHRCの報告によれば、キーンランド競馬場の10月開催のあいだに調教中の予後不良事故が1件あった。そしてブリーダーズカップ開催(11月6日・7日)では、レース中の予後不良事故が1件あった。
By Byron King
(1ドル=約105円)
[bloodhorse.com 2020年12月8日「Kentucky Racing Commission Passes Clenbuterol Reform」]