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海外競馬情報
2018年06月20日  - No.6 - 4

BHA、競馬福祉戦略イニシアティブに取り組む(イギリス)【獣医・診療】


転倒・落馬した馬に出走停止期間を設ける取組み

 BHA(英国競馬統轄機構)は、その必要性を裏付ける根拠があれば、転倒・落馬した馬へ出走停止期間を適用することを検討するかもしれない。

 BHAは、転倒・落馬した馬がその次の出走でどのようなパフォーマンスをするかを分析するために、統計ベースの編集に着手したばかりである。

 騎手は落馬後に緊急検査を受け、脳震盪の場合には一時的に騎乗を停止できる。競走馬も同じ手順で、状況に応じて出走停止期間が適用されるようになるかもしれない。

 この取組みは、"競馬福祉戦略イニシアティブ"の1つである。BHAの馬の健康・福祉担当理事であるデヴィッド・サイクス(David Sykes)氏は、落馬や予後不良事故を減らして競馬をより安全にすることを目標に、これらのイニシアティブを構想してきた。

 サイクス氏はこう語った。「統計学者に、転倒・落馬した馬を調査してもらい、その後の一定期間においてどのようなパフォーマンスをするかについて考察してもらっています。ここで問題なのは、馬が障害に接触して転倒した場合、福祉の視点から、再び万全な状態で出走できるようになるまで、休養期間もしくは出走停止期間が必要かということです」。

 「転倒・落馬した馬がそれから7日以内に出走した場合にどのようなことが生じるか、また14日後、21日後に出走した場合はどうなるかについて調査しています。これらの期間で差異は生じるのでしょうか?その調査結果次第で、何らかのルールを定めなければなりません。現在調査が進んでいますが、騎手や他のスポーツ選手には脳震盪のルールがありますので、馬の福祉のためにルール制定の必要があるだろうと考えています。現時点では分かりませんが、ただ単に"これは3日後、これは10日後、これは15日後"と数字を挙げるのではなく、根拠に基づいた決定を下したいと思います」。

 必要であれば障害シーズン前にルールを変更できるように、サイクス氏は秋までに全国調教師連合会(National Trainers' Federation)とBHA獣医師委員会で調査結果を発表できるように準備を進めている。しかし同氏は、「私たちは全力を尽くしていますが、実際のところ意味がないと結論づけるかもしれません」と述べた。

 予後不良事故と落馬の発生率は、過去20年間で3分の1減少した。事故を減らすために、パッドを貼った置障害(ハードル)の導入のような新しい取組みが展開されている。そして、馬がどれくらい見えているかを証明しようとする"馬の視覚プロジェクト"が間もなく発表されるだろう。

 それに加え、調教師たちからの要望により、予後不良事故に遭った馬とそのレースに出走していた他の2頭の診療記録から新たな調査と分析が行われている。

 サイクス氏はこう語った。「2~3年かけて十分な証拠が揃ったとき、私たちはこれらの2つのグループを別々に調査し、各グループと各診療記録の間に差異があるかどうかを分析することができます。その結果によっては、私たちはもっと詳しく調査する必要があるかもしれませんし、今後必要な規制の方向性が示されるかもしれません」。

By Jon Lees

競走馬のトレーサビリティの向上に取り組む

 BHAは、競馬界の総合的な福祉戦略の一環として、競走馬の引退後のケアについてより良いイメージを構築する手段を検討している。

 BHAのデヴィッド・サイクス氏は、その福祉戦略イニシアティブの1つとして"トレーサビリティ(追跡可能性)"を挙げている。BHAのデータベースに情報が保管されることで、サラブレッドを誕生から競走引退後まで追跡できるようになることを、同氏は望んでいる。

 2018年1月1日から仔馬の誕生30日以内の出生通知が義務化されたことは、初期データ収集に役立つだろう。またBHAは、慈善団体"競走馬の再調教(Retraining of Racehorse)"と協力し、競走馬の再調教と保護・譲渡活動(rehoming)のための認定施設制度に取り組むことを計画している。

 サイクス氏は5月23日にこう語った。「私たちは競走馬となる馬を生産しており、競馬産業としての責任があります。それゆえ、それらの馬が競走生活を終えた後も、適切な行先を見つけ続けることを意識しなければなりません。引退馬には多くの選択肢があります。競馬産業において長年非公式に行われてきた保護・譲渡活動を例に挙げると、私たちはそれがどのように役立ってきたかを把握し、一層のサポートが必要かどうかを考える必要があります。規制されていない再調教や保護・譲渡活動を行う民間施設は多くありますが、これらの施設を規制したいと望んでいるのではありません。競馬産業における彼らの役割について議論し合意することで、これらの施設が引退馬の次の受入れ先についての詳細を自発的に伝えてくれることを望んでいます」。

 調教師たちにトレーサビリティに関するアンケートが送付され、221通の回答があった。近いうちに、馬主たちも意見を求められるだろう。

 サイクス氏はこう付言した。「若馬が調教場に向かう前にどこにいるのかについても知りたいと思います。サラブレッド生産者協会(Thoroughbred Breeders Association)は、それも調査プロセスの一部であると考えています」。

 「トレーサビリティやアンチドーピングの観点からだけではなく、英国のEU離脱後の馬の移動を考える上でも、これは重要なことです。福祉の観点から、そして一般の人々の認識においても、馬がその生涯を過ごす中で、彼らに何が起こったかを示すことができれば、素晴らしいこととなるでしょう」。

By Andrew Dietz

(関連記事)海外競馬情報 2018年No.12「仔馬の誕生30日以内の出生通知を義務化(イギリス)

[Racing Post 2018年5月20日「「Welfare strategy may force fallen horses to have a break before racing again」、5月24日「BHA plans to trace horses from cradle to grave」]


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