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2018年12月21日  - No.12 - 2

スポーツ賭事解禁は必ずしも黄金のガチョウではない(アメリカ)【開催・運営】


 どのような業界の会議・シンポジウム・幹部会議でも、議論中に特定の言葉・専門用語・業界用語が頻繁に飛び交うことがある。

 アリゾナ大学競馬グローバルシンポジウム(123日~5 アリゾナ州ツーソン)の第3日目に飛び交った言葉は、「黄金のガチョウ(golden goose 際限なく利益を生むもの)」だった。

 この言葉は、スポーツ賭事解禁が競馬産業にもたらす潜在的影響のことを示している。しかし『スポーツ賭事:あなたの州でも解禁されるか?(Sports Betting: Coming to a Jurisdiction Near You?)』と題された討論会において、多くのパネリストたちはその考えを払拭した。「ガチョウは殺された」という声さえあった。

 以下の3人の専門家は同じ考えを共有しており、「スポーツ賭事は実際のところ『黄金のガチョウ』ではなく、競馬産業に悪影響を及ぼすかもしれない両刃の剣だ」と注意喚起した。

・クリス・クラフチック(Chris Krafcik)氏

 [アイラーズ&クレイチーク・ゲーミング社(Eilers & Krejcik Gaming)政治・規制市場担当社長]

・ケイト・ローエンハー-フィッシャー(Kate Lowenhar-Fisher)氏

 [ネバダ州のゲーミング専門弁護士]

・リチャード・マガイア(Richard McGuire)氏

 [スポーツテック社(Sportech)専務取締役]

 マガイア氏はこう語った。「競馬産業にとってチャンスでもあり危機でもあることを認識してください。率直に言って、その危機を理解した上でスポーツ賭事に関わらなければ、多くの問題にぶつかるでしょう。言うまでもなく、スポーツ賭事は解禁されました。この部屋に集まった方々の多くにとって唯一最大のチャンスであると考えていますが、いずれは競馬産業にとって唯一最大の危機ともなります」。

 パリミューチュエル賭事やスロットマシンは、控除金がほぼ保証されている。それに反して、スポーツ賭事は毎日、毎月、毎年、確実に利益を出すわけではない。

 ローエンハー-フィッシャー氏はこう語った。「米国では、スポーツ賭事について"黄金のガチョウ"という言葉が使われたり、現実にはあり得ないような議論がなされています。しかし、スポーツ賭事の経済的側面は神秘的なものではありません。規制された市場でスポーツ賭事がどのように利益を出すことができるか、また不当な税金・手数料によってスポーツ賭事はどのような犠牲を強いられるかについて、多くの歴史と証拠があります」。

 「ネバダ州では、スポーツ賭事は魅力的なものと見られていますが、大金をもたらしているわけではありません。それでも、米国の多くのスポーツ賭事はとても効率的に運営されていると主張したいと思います」。

 "効率性"がスポーツ賭事の運営で利益を上げるための要であるという状況において、この討論会のパネリストたちは、わずかな利鞘を極端に減らすことのない税率と手数料の重要性を強調した。

 ローエンハー-フィッシャー氏はこう語った。「スポーツ賭事は多くの技術を要するものの専門知識はほとんどいらない利鞘の薄いビジネスなので、この賭事分野では基本的に収益性が犠牲にされます。税金や手数料がネバダ州のレベルを超えるとすれば、困った状況になってしまうかもしれません。また、税金や手数料が収益や払戻金ではなく発売金に課されるならば、問題が生じるでしょう」。

 それに続き、マガイア氏はこう語った。「スポーツ賭事に過度な税金が課されるならば、賭事客は最終的に違法賭事に向かうかもしれません。違法賭事では賭事客は手数料(払戻金からの控除)をほとんど取られません。重税が課されるとすぐに市場シェアを失います。大勢の賭事客に税をまんべんなく課すのが一番無難なのでしょう。しかし、発売金に税を課せばオッズにはっきり影響が及びます。少額を賭ける人も大金を賭ける人も、おそらくは違法賭事市場に向かうでしょう」。

 クラフチック氏はこう続けた。「競馬場でのスポーツ賭事の危険性は、収益性が低くなるかもしれないことです。一方競馬場運営者にとっての朗報は、すでに合法賭事が運営されている競馬場という施設に、スポーツ賭事によって新しい顧客を呼び込める立場にあることです」。

 「カジノや競馬など地域に密着した賭事は例外なしに、スポーツ賭事の独占運営権を与えられるでしょう。そして、それらの賭事運営者は新たに規制されたスポーツ賭事産業における事実上の門番となるのです」。

 またクラフチック氏は、いくつかの州(特にカリフォルニア州)で競馬界とスポーツ賭事の間での収益分配を巡って"摩擦"が生じる可能性について、次のように語った。

 「多くの州で、収益分配を巡ってスポーツ賭事運営者と競馬界の間で摩擦が生じるでしょう。私たちはとりわけ、競馬界が政治的影響力の恩恵を受けているカリフォルニア州のような州で摩擦が起こることを予想しています。それはスポーツ賭事の発展を遅らせたり停滞させたりする可能性があります」。

 カリフォルニア州の課題について取り上げたパネリストはクラフチック氏だけではない。その後に行われた他の公開討論会において、ストロナックグループ(Stronach Group)の役員であるスコット・ダルティ(Scott Daruty)氏は、スポーツ賭事がうまくいく州として、同グループが3つの競馬場を所有するメリーランド州を挙げた。しかし、フロリダ州やカリフォルニア州には"疑問符"を付けた。

 ダルティ氏は、「カリフォルニアは予想がとても難しい州です。なぜなら、競馬場、トライバルカジノ(先住民が運営するカジノ)、カードクラブ、州運営宝くじのような、利害が異なる多くの団体が競合しているからです」と語った。

 大半の州では多くのことが未決定なので、広範囲にわたるスポーツ賭事の解禁から、競馬界が利益を得るかどうかは依然として不明である。

 クラフチック氏はこう付言した。「競馬界がスポーツ賭事の収益分配から大きな利益を得るのか、それともわずかな利益しか得られないのか、一致した見解はありません。スポーツ賭事から競馬場への収益分配を要求しているデラウェアのような州もありますが、そのような要求をしていない州もあります」。

By Jeremy Balan


bloodhorse.com 2018125日「Symposium: Sports Betting Not 'Golden Goose' for Racing」]


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