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海外競馬情報
2017年02月20日  - No.2 - 8

生産頭数は過剰か、不足しているのか?(イギリス・アイルランド)【生産】


 批判的な物の見方をすることで有名なマーク・ジョンストン(Mark Johnston)調教師が「過剰生産の問題で困惑している」と言えば、私たちはひどく混沌とした状況となっているに違いないと感じる。

 数々のクラシック競走を制覇し、卓越した生産者でもあるジョンストン調教師は、昨年のクリスマス前に本紙に対してこう語った。「過剰生産の状態なのかそうでないのか、困惑しています。競馬場と賭事産業はさらに多くのレースを施行することを望んでおり、BHA(英国競馬統轄機構)はそれに応じているようです」。

 「BHAは少頭数のレースについて常に不満を述べていますが、現行の競馬開催日数を満たすのに十分な現役馬がいないということには確証があります」。

 セリ会場および競馬統轄機関から伝えられる矛盾したメッセージは実際のところ、分かりにくい状況を作り出している。

 一方において、商業目的のために生産された1歳馬・2歳馬が多すぎることははっきりしている。本紙は、2016年セリシーズンにおいて供給が需要をどれだけ上回ったのかを記録した。要点を述べれば、年末までに主取(未売却)となった平地の1歳馬は982頭に上り、上場馬の21%を占めた(2015年は16%)。

 しかし他方では、本紙は昨年のクリスマス前に、世界金融危機前の2007年と2015年を比較すれば、英国とアイルランドの生産頭数はそれぞれ23%と32%減少していることも報告していた。サラブレッド生産者協会(Thoroughbred Breeders' Association)のジュリアン・リッチモンド-ワトソン(Julian Richmond-Watson)会長は、生産頭数の落込みを"憂慮すべきこと"と述べ、「私たちは最終的に、競馬場が施行したいと考えるレース数を満たす頭数を供給できなくなるかもしれません」と付言した。

 仔馬は多すぎるのか、不足しているのか? おそらく、競馬界と生産界のどちらの立場にいるかによって、いずれも事実なのだろう。

 より多くの収入を得るために、あるいは職務を全うするために、競馬開催日数を増やしたいと考える競馬場や競馬施行者が、生産頭数の減少に不安を抱くのはうなずける。

 しかし生産者は昨年、購買者の需要に対して仔馬が多すぎることを身をもって学んだことだろう。

 馬主数と生産頭数の間にも不均衡が見られる。英国では2014年から2015年にかけて、馬主は約0.5%減少して7,892人となった一方で、生産頭数は5%増加して4,466頭となった。アイルランドでは同時期に馬主は3%減少して3,609人となった一方で、生産頭数は10%増加して8,205頭となった。

 もちろん、英国・アイルランドで生産された仔馬の多くは外国に輸出され、我々の競馬の名声に魅了されている中東やアジアでこれらの仔馬の需要は高まっている。したがって、英国・アイルランドにおける馬主数と生産頭数の間の不均衡はやや大雑把な尺度かもしれないが、それでも、どれだけ売却率の低下が進んでいるかを多少は示している。

 英国・アイルランドの馬主が増加すれば、それは仔馬の購買者を探す生産者と、より多くの多頭数のレースを施行したいと考える競馬場・競馬施行者の双方の問題を和らげるのは明らかである。

 評価できることに、英国とアイルランドの競馬界はこの問題の緊急性を認識しており、競走馬の馬主となることを一層手頃で簡単にすることを検討している。また、より多くのシンジケートが形成されることを促進し、海外の購買者の需要を掘り起こしている。

 その間、利益を追求する生産者は、レースに十分な出走頭数をもたらすために一層多くの馬を生産する必要があるかどうかという問題に注意を向けるべきではないだろう。その代り、種付計画をうまく調整しながら、近年の生産頭数に対して購買者の需要が不足しているというセリで得られた確証を十分踏まえて行動すべきである。

 「それを造れば、彼が来る」というのは、映画『フィールド・オブ・ドリームス』のケビン・コスナーが演じる人物には当てはまるのかもしれないが、一般的にビジネスを行う上では良策とは言えないだろう。

By Martin Stevens

(関連記事)海外競馬情報 2016年No.11「種付料引下げは歓迎だが過剰生産を助長してはならない(イギリス・アイルランド)

[Racing Post 2017年1月7日「Too many foals or not enough? The great production paradox」]


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