BHA、重度の不注意騎乗をした騎手への罰則を強化(イギリス)【開催・運営】
5月から、走行妨害の原因となった騎手に対する罰則が大幅に強化される。BHA(英国競馬統轄機構)は、競馬界で非難の的となっている"どんなことをしても勝つ"というメンタリティーが原因で起きた乱暴な行為を取り締まる構えである。
しかし、降着や失格になるケースが多くなるわけではない。降着や失格はこれまでどおり、最近見られないような危険騎乗や、裁決委員がレース結果に影響を与えたと判断した走行妨害だけに適用される。
アンドレア・アッゼニ(Andrea Atzeni)騎手は昨年のセントレジャーS(G1)で、シンプルヴァーズ(Simple Verse)で不注意騎乗をしたことにより3日間の騎乗停止処分を受けた。しかし、修正ルールと厳格化される罰則制度の下では、この騎乗は不正騎乗と見なされ、7日間か8日間の騎乗停止処分を受けるだろう。
もっとも、伝えられるところによると、騎手たちは今回のルール変更に不満を持っていない。ルール変更には厳格化される面がある一方で、不注意騎乗による開催1日のみの騎乗停止処分が廃止されるからである。5月23日から、1日騎乗停止処分に相当する軽度の不注意騎乗は単なる"注意"となる。2015年には、不注意騎乗による1日騎乗停止処分は137件あった。
BHAのスポークスマンであるロビン・マウンジー(Robin Mounsey)氏はこう語った。「BHAは米国やフランスのような主要競馬国と同様に、"一番強い馬は危険騎乗がないかぎり、失格にすべきではない"と定めています」。
「そのためBHAは、"失格"に依存するのではなく、騎手に走行妨害を起こさせないような罰則制度を採用するのです」。
「しかし、今後これらの変更の効果を観察し続け、抑止力がまだ十分ではないと判明すれば再検討するかもしれません」。
BHAは新ルールが公正性と安全性を高め、自身の行為がどのような結果を招くかを知っていながら故意に走行妨害の原因を作った騎手に対し、4日~21日間の騎乗停止処分が科されることを考えている。
BHAはルールの見直し過程において、騎手協会(Professional Jockeys Association: PJA)、全国調教師連合会(National Trainers' Federation)、馬主協会(Racehorse Owners Association)と一緒に取り組んだ。
PJAのCEOポール・ストラサーズ(Paul Struthers)氏はこう語った。「BHAが深刻な走行妨害の事例に懸念を持っていること、その懸念からルールが変更されたことが分かりました。最終決定には私たちの意見を反映できたので満足しています」。
「特に、最も軽度な走行妨害に対する罰則の廃止をBHAに説得できたことは、騎手にとって歓迎すべき一歩です。将来、4日間までの騎乗停止処分が広く適用されることになれば、騎手全員に大きな変化をもたらすでしょう」。
ストラサーズ氏は、重度の違反を抑制する新ルールは正しく適用されれば悪影響を及ぼすことはないと確信しており、こう付言した。
「このルール変更は、強引に割り込んで故意に走行妨害を引き起こした騎手や、少数の重大な走行妨害に効果的であるだけでなく、危険騎乗を思い止まらせるでしょう」。
BHAの競馬開催運営・規制担当理事のジェイミー・スティア(Jamie Stier)氏は、こう語った。「騎手たちは人々が考えている以上に、1日騎乗停止処分が収入に大きな打撃を与えると思っていることを、BHAは理解していました」。
「1日騎乗停止処分は、取るに足らない罰則と思われているかもしれませんが、1日の収入を奪ってしまうので、騎手にとっては打撃です」。
「これまでの制度で2日間の騎乗停止処分に相当した違反から不注意騎乗としての騎乗停止処分を適用し始めることが妥当であるという点について、PJAと合意しました。それゆえ1日騎乗停止処分に相当した違反については、今後は"注意"となります」。
5月から厳格化される制度に従えば、「より重い罰則が科されていただろう」とBHAが強調する2015年の事例は、アッゼニ騎手が最終的にセントレジャーS優勝に導いたシンプルヴァーズの事例だけではない(シンプルヴァーズは不服申立ての日にやっとセントレジャーS優勝馬と認められた)。オリビエ・ペリエ(Olivier Peslier)騎手やオイジン・マーフィー(Oisin Murphy)騎手にも重い罰則が科されていただろう。
スティア氏はこう付言した。「BHAの競馬統轄方針において安全性と公正性は最優先事項であり、私たちはこれらを中心としてルールと罰則の修正を発表しました。今後、これらの変更の影響を注意深く見ていきます。PJAがこの計画に前向きに参加してくれたことに感謝しています」。
またBHAはルール見直しの一環として、鞭使用ルール変更の可能性に関する検討も行った。これは、2015年にG1レースでのルール違反が増加したことを示すデータが明らかになったからである。
しかし、データは全体的には鞭使用ルール違反が減少していることも示しており、ルールはこれまでどおり維持されることとなった。
スティア氏はこう付言した。「英国の騎手が鞭使用ルールを遵守していることが分かり、おおむね満足しています」。
「2015年にG1レースでのルール違反が増加したことで、私たちは鞭を乱用する傾向が高まっているかを調べるため詳細なデータ分析にいち早く取り組みました。そして分析の結果、そのような傾向が高まっている裏付けはないことが明らかになりました」。
「チェルトナムフェスティバルの高額賞金をめぐるレースにおいても、英国の騎手たちはルールをしっかり遵守して騎乗できることを示しました」。
By Mark Scully
[Racing Post 2016年4月1日「BHA to punish jockeys with tougher bans」]