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2015年12月20日  - No.12 - 5

新しいパワー集団チャイナホースクラブを阻むものは何もない(国際)【その他】


10月の習近平国家主席の英国公式訪問は、英中関係にスポットライトを当てた。しかしトップ記事を独占したのは、中国企業による有名玩具店ハムリーズの買収と、物議を醸すヒンクリーポイント原発への出資である。競馬界においても、中国企業が欧州あるいはもっと広範での活躍を目指して、大きく前進しているようである。

 チャイナホースクラブ(China Horse Club 2010年設立)は瞬く間に、クールモア牧場、ゴドルフィン、シャドウェル牧場(Shadwell)、カタールレーシング社(Qatar Racing)、アルシャカブレーシング社(Al Shaqab Racing)などの大馬主に名を連ねるようになった。ただし、この躍進はシンジケートという形態で達成され、このシンジケートは会費が100万ドル(約1億2,000万円)にもおよぶエリートシンジケートと伝えられている。

 しかし、このクラブの究極目標は、黙認競馬段階における多くの挫折にもかかわらず“競馬の黄金郷”と呼ばれる中国での競馬発展なのか、それとも中国人馬主を競馬の国際舞台に立たせることなのか?

 このクラブは、マレーシア生まれの建築家テオ・アー・キン(Teo Ah Khing)氏が指揮する多数の産業プロジェクトの一つである。テオ氏は、メイダン競馬場の豪奢なグランドスタンドを設計するために招聘された際、モハメッド殿下(Sheikh Mohammed)によってこのスポーツに出合った。その後、2012年にタタソールズ社(Tattersalls)のセリで購買した1歳馬2頭をクールモアと共同で出走させ、馬主としての喜びを初めて味わった。その2頭のうちの1頭が英ダービー馬オーストラリア(Australia)だった。

 テオ氏は英ダービーの前に、次のように語っていた。「馬主なら誰でも勝つことを夢見ます。それゆえ競馬は人の心をつかんで離さないのです」。

 チャイナホースクラブが会員に提供しようとしているのは、この馬主経験と、会員だけに限定された他の上質な経験である。これまでの成功馬は、豪州年度代表馬ディシデント(Dissident)、ゴールデンスリッパー(G1)勝馬のバンクーバー(Vancouver)、ウィンスターファーム(WinStar Farm)に種牡馬入りするデアデビル(Daredevil)などである。どの馬も、クラブ設立時の運営方法の重要な要素である“パートナーシップ(共同所有)”で出走している。

 チャイナホースクラブのエデン・ハリントン(Eden Harrington)社長は次のように語った。「当クラブの主な目標は、比類のない経験とライフスタイル、ビジネスチャンスを会員に提供することです。当然、サラブレッド産業でのチャンスも含まれています」。

 近年、サラブレッドへのグローバルな投資がこのチャンスを築いてきた。ハリントン社長は会員数を明言しないが、テオ氏はチャイナホースクラブの看板競馬開催(9月に武漢競馬場で開催)で、「250人を超える」と報告した。高額な会費を乗じれば、運営予算は相当な額になるだろう。

 チャイナホースクラブは、2015年だけで世界中で総額1,600万ポンド(約29億6,000万円)の1歳馬購買契約に署名した。しかし、増加した購買には共同購買が多く、その中には、120万ギニー(約2億3,310万円)でカタールレーシング社と共同購買したガリレオ(Galileo)の牡駒が含まれている。この牡駒の母は、英1000ギニー(G1)で1位入線したものの走行妨害があったと見なされ2位に降着となったジャクリーンクエスト(Jacqueline Quest)である。

 この馬主チームは、昨年12月のタタソールズ社のセリでもタッグを組み、カタールレーシング社がサングスター一族(Sangster family)と共同所有していた愛1000ギニー(G1)の勝馬ジャストザジャッジ(Just The Judge 父ローマン)を450万ギニー(約8億7,413万円)で落札した。チャイナホースクラブは、ジャストザジャッジに対するサングスター一族の所有権を買い取ったことになる。

 チャイナホースクラブは、10月のタタソールズ社1歳セールにおいて、単独または共同で10頭を総額570万ギニー(約11億723万円)で購入した。カタールレーシング社のマネージャーであるデヴィッド・レッドヴァース(David Redvers)氏は次のように語った。「チャイナホースクラブとはジャストザジャッジを上場する前に話し合いました。ジャストザジャッジはクラブのニーズに応える一流の牝駒ですから、彼らは獲得することにかなり熱心でした。その後はごくスムーズに、ブリーズアップセールと1歳セールでの2〜3頭の共同購買へと進みました。チャイナホースクラブの念願は私たちのそれと一致し、非常にうまくいっています」。

 「1歳馬1頭に300万や500万を支払うようなことは、リスクが大きいので長続きしないでしょう。共同所有する方がはるかに戦略的です。クールモアは何年も前にこの方法を始めました」。

 カタールレーシング社は、最高価格の250万ギニー(約4億8,563万円)で購買したハイドロジェン(Hydrogen)が2戦していずれも着外だったことで、高額1歳馬に伴うリスクは経験済みである。

 このような大金(チャイナホースクラブの場合は会員の支出だが)を投じる場合、負担を分散するのはかなり巧妙な策と思われる。カタールレーシング社に加え、クールモア、メイフェアスペキュレーターズ社(Mayfair Speculators)、ウィンスターファーム、ストーンストリート牧場(Stonestreet Stable)のバーバラ・バンク(Barbara Banke)氏、豪州のニューゲートファーム(Newgate Farm)といったパートナーを世界中に持つ同クラブにとって、利益を生みそうな方法である。

 実際豪州は、前述したディシデントやバンクーバーのほかにプライドオブドバイ(Pride Of Dubai)、NSW州の年度代表馬ファーストシール(First Seal)を通じて、チャイナホースクラブに最高の成果をもたらしてきたと言える。

 ハリントン社長は、「我々の目標は、特定の地域に限定されない国際的なものです。しかし、我々のクラブは若く、今は学習段階ですから、成功を収めてきた人々と協力することが重要です」と語った。

 パートナーシップがどのように発展してきたかについて、ハリントン社長は次のように付言した。「結局は認知度です。我々はこれまで、サラブレッドビジネスに多くの時間を費やしてきました。そして今、チャイナホースクラブへの注目度が高まっており、ますます多くの人々がチャイナホースクラブとはどういうものなのかを理解するようになっています。彼らは同じ目標を持ち、我々がしたいことを理解していますから、“一緒に馬を走らせ、同じ目標を達成しましょう”と声を掛けるチャンスにつながります。これはやりがいのあることです。成功を彼らと共有できれば、この上ないことです」。

 この新規馬主を歓迎したのは既存の馬主だけではなかった。タタソールズ社のジミー・ジョージ(Jimmy George)販売部長は、「競馬産業全体の健全性を確保するには、あらゆるレベルの1歳市場への世界中からの参加が極めて重要です」と語り、次のように続けた。

 「比較的最近、カタールを統治するアル・サーニ一族(Al Thani family)、チャイナホースクラブ、南アフリカのメイフェアスペキュレーターズ社といった最上級の新規馬主が現れ、近年の10月1歳セールに多大な影響を与えてきました。最高級の1歳市場には、これまで長年にわたり保っていたのと同様の競争力があると言っても過言ではないでしょう」。

 しかし実際には、チャイナホースクラブが世界中の最高級市場でサラブレッドを購買するには限界があり、現時点では欧州に留まりそうである。

 中国競馬の状況はまだ謎である。チャイナホースクラブは近年、会員のために多くの競馬開催を主催してきたが、9月に大きく前進した。香港ジョッキークラブ(Hong Kong Jockey Club)と中国馬術協会(Chinese Equestrian Association)が正式なパートナーシップを発表し、11月7日の競馬開催を計画したのだ(訳注:馬インフルエンザ発生のため12月20日に延期された)。しかし、中国において賭事は依然として違法である。1949年の共産革命後に競馬が禁止され、現在、大規模な競馬産業を支えられるインフラはなく、人材もほとんどいない。

 さらに最近、共産党は腐敗撲滅を目指して、8,800万人の党員にゴルフクラブへの加入を禁止した。必要なのは何本かのクラブと鮮やかな色のズボンのみというスポーツが贅沢とみなされるなら、気まぐれな政府が、ある日競走馬所有にも同じような感覚を抱くかもしれないことは想像に難くない。

 それでも、ハリントン社長は引き下がらない。「すべては手順次第です。チャイナホースクラブを最初にスタートさせたとき、常に言われていたことの一つは、中国への切符は片道切符、すなわち“馬は入国するが出国しない”ということでした」。

 「それが必ずしも真実ではないことを我々は示しました。以前中国で出走していた当クラブ所有馬ビートオブザドラム(Beat Of The Drum)が10月、サンタアニタ競馬場で優勝したのです。来週か再来週に同じ場所でまた出走します。これは中国で成績が優秀な馬が他国でも期待に応えられることを示しているだけでなく、全体的にさまざまな可能性につながるため、心が躍ります。中国本土でレーシングカーニバルを主催することだってできるのです」。

 「我々は中国で常に積極的に貢献しようとしています。我々の拠点や繋がりがどこにあるのかを意識し、貢献し続けたいと思っています」。

 チャイナホースクラブの中国国内の所有馬は、現在武漢に拠点を置き、以前ピーター・スノーデン(Peter Snowden)厩舎で調教助手を務めていたクイントン・キャシディ(Quinton Cassidy)氏が管理している。中国以外では、クラブの所有馬を預託している調教師の顔ぶれは、パートナーシップに大きく左右される。ピーター・ムーディー(Peter Moody)調教師がG1を数回制しているディシデントを管理し、ジャストザジャッジはチャーリー・ヒルズ(Charlie Hills)調教師のもとに戻った。しかし、現在1歳の高額馬群を誰が管理するのか、まだ決定していない。

 ハリントン社長は次のように語った。「今後数週間から数ヵ月の間に決まるでしょう。すでにロジャー・ヴァリアン(Roger Varian)、エイダン・オブライエン(Aidan O’Brien)、クリストフ・クレマン(Christophe Clement)、フランシス-アンリ・グラファール(Francis-Henri Graffard)の各調教師に馬を預託しています。どの馬も成功しているので、最適な厩舎に預託されていると思いますが、現時点では1歳馬については何も決まっていません」。

 リチャード・ハノン(Richard Hannon)調教師も、クラブが昨年、デラワールレーシング(De La Warr Racing)から購買したG3馬バーントシュガー(Burnt Sugar)を管理した。

 チャイナホースクラブは世界で合計60頭以上の1歳馬を購買した。長年の馬主であれば分かるが、このような高い投資レベルで運営されるシンジケートは競馬界では聞いたことがない。定評あるハイクレアサラブレッドレーシング社(Highclere Thoroughbred Racing)は、幸運にもブック1で100万ギニー(約1億9,425円)以上を投資できるが、もっと多くの頭数を購買するだろう。興味深いことに、ハイクレアサラブレッドレーシング社のディレクターであるジョン・ウォレン(John Warren)氏は、チャイナホースクラブの国際諮問委員会に属している。この委員会には、ジョン・マグニア(John Magnier)氏とニューセルズパーク牧場(Newsells Park Stud)のオーナーであるアンドレアス・ヤコブス(Andreas Jacobs)氏も名を連ねている。

 この夏、中国の景気減速による世界的経済不安が生じたが、中国は10月中旬、第3四半期の成長率を6.9%と発表した。サラブレッド界が、のしかかる暗雲に影響を受けていないように見えるのは、この業界の回復力を証明している。極めて重要なのは新規馬主を引きつけることである。チャイナホースクラブは、セリでも競走でもたちまち中心的存在になり、さらなる成功を目指して競馬界全体に基礎を築いている。

 その先駆的なやり方が、長期的繁栄を誇ることになるかどうか、その答えは時が経たなければ分からない。同様に、同クラブの中国競馬に対する大きな野望の前には数々の課題が立ちはだかっている。しかし、クラブはすでに注目を集め、極めて高い向上心を持っている。サラブレッドビジネスには、この野望が数年後に現実になることを期待する多くの人々が現れることだろう。
 

2015年 チャイナホースクラブの高額購買馬(1歳)
性別・毛色 購買価格 共同馬主
牡・栗 ガリレオ ジャクリーンクエスト 120万ギニー
(2億3,310万円)
カタールレーシング社
牝・鹿 フランケル Alexander Goldrun 170万ユーロ
(2億2,100万円)
 
牝・鹿 ドゥバイ Badee’a 90万ギニー
(1億7,483万円)
 
牡・鹿 ウォーフロント River Belle 77万5,000ギニー
(1億5,054万円)
 
牡・鹿 フランケル Model Queen 67万ギニー
(1億3,015万円)
 
牡・鹿 シャマルダル Ballybacka Lady 52万5000ギニー
(1億  198万円)
メイフェアスペキュレーターズ社
牝・鹿 ファストネットロック Response 105万豪ドル
(9,450万円)
 
牡・芦 エクシードアンドエクセル Clinical 45万ギニー
(8,741万円)
 
牝・鹿 ガリレオ Mohican Princess 40万ギニー
(7,770万円)
 
牡・鹿 インヴィンシブルスピリット Prima Luce 58万ユーロ
(7,540万円)
 


By Katherine Fidler

(1ポンド=約185円、1ドル=約120円、1ユーロ=約130円、1豪ドル=90円)

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[Racing Post 2015年10月29日「No Stopping China’s New Powerhouse」]


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