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2014年08月20日  - No.8 - 1

種付料から考察した採算性のある1歳馬(アメリカ)【生産】


 毎年、米国の三冠シーズンが終わると、サラブレッド市場は今年の1歳馬が上場する夏のセリシーズンに向かう。本欄では、1歳市場を予測し、セリ、種牡馬およびコンサイナーの傾向をまとめる。

 昨年、世界経済の回復と需給の不均衡が同時に生じたことで、1歳市場は大きく上昇し、サラブレッド市場全体に楽観的予感をもたらした。

 米国の代表的な株価指数S&P500(訳注:スタンダード・アンド・プアーズ社が算出している代表的な500銘柄の株価を基に算出される時価総額加重平均型株価指数)は2012年9月から2013年9月の間に16%上昇しており、この期間の1歳馬の中間価格の上昇率15%に類似している。S&P500はその後取引期間ごとに記録を更新して、さらに14%上昇し、2009年の最安値の2倍となった。

 その一方で、2006年から北米の年間サラブレッド生産頭数はほぼ半減した。減少率の鈍化は生産頭数規模がやっと下げ止まったことを示唆しているものの、2014年の1歳馬の推定頭数2万1,275頭は7年前から43%減少している。

 サラブレッド生産を後押しする購買者は現在では数多くいる。2013年の北米1歳セリにおいては、これまで例のないことに、16人が20頭を100万ドル(約1億500万円)以上で落札した。3年前にこのような高額馬4頭を購買したのは3人だけであった。

 生産頭数に関係なく、販売される1歳馬の割合は同じ水準を保っているようだ。種付料7,500ドル(約77万円)以上の種牡馬の産駒で見ると、上場された1歳馬の頭数は、2008年以降毎年、生産頭数の半数を占めている(グラフAを参照)。現役繁殖牝馬が毎シーズン減少していることで、種馬場では競争が生じ種付料が下がったが、生産馬のセリでの購買額が上昇していることが反映され、種付料は少しずつ上向き始めている(2014年1歳馬生産時の種付料は5.2%増)。
 

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 1歳馬の中間価格がS&Pの上昇率14%に見合って上昇することを期待することは、それなりに理に適うことではあろうが(昨年の2万3,000ドル(約235万円)から14%増加すれば2万6,220ドル(約267万円)となる)、改善が難しいのは“採算性”である。

 本欄では採算性のある1歳馬を、そのセリ落札価格から (1) 5%の手数料、(2) 種付料の2倍、(3) 飼育費1万8,000ドル(約184万円)を差し引いてもゼロにならない馬と定義付けた。

 1歳馬を上場する生産者にとって、どの価格帯の種付料が最も高い割合で採算性のある1歳馬を生産するだろうか?グラフBは、2009年~2013年に上場された7,500ドル(約77万円)以上の種付料で生産された1歳馬について、種付料と採算性の関係を示している。生産の変動コストである種付料が下落傾向にあるここ数年、1歳馬の中間価格と平均価格は共に上昇傾向にある。おそらく、これらのファクターが採算性のある馬を出すことにつながっているようだ。

 各年の採算性の頂点は一貫して種付料5万〜9万9,999ドル(約510万〜1,020万円)にあり、この辺が種付料のスイート・スポットである。この価格帯の1歳馬には購買者が惜しまず高額を支払う種牡馬の資質が継承されており、生産者の投資の損失・利益比率(risk-to-reward-ratio)が最も有利となる。

 7,500〜4万9,999ドル(約77万〜510万円)の手頃な種付料で供用される種牡馬がホームラン級の産駒を出すのはよくあることだが、その購買価格では飼育費を賄うのがやっとであるため、最高の投資収益率(ROI)を挙げることは一般的にはないようである。一方、10万ドル(約1,020万円)以上の高額種付料で生産された1歳馬については、その種付料を回収するのに苦心している。

 過去5年において、種付料5万〜9万9,999ドル(約510万〜1,020万円)で生産された1歳馬の種牡馬は、バーナーディニ(Bernardini)、イルーシヴクオリティ(Elusive Quality)、エンパイアメーカー(Empire Maker)、ジャイアンツコーズウェイ(Giant’s Causeway)、インディアンチャーリー(Indian Charlie)、マリブムーン(Malibu Moon)、モアザンレディ(More Than Ready)、パルピット(Pulpit)、スマートストライク(Smart Strike)、タピット(Tapit)、ティズナウ(Tiznow)およびアンブライドルズソング(Unbridled’s Song)などで、数頭の傑出した産駒を出している。

 

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 1歳馬の採算性をより詳しく検討すると、供用何年目の産駒であるかに関連して興味深い現象がある。とりわけ種牡馬の供用3年目、6年目、7年目に生まれた産駒は、1歳時の採算性が最も高く、また最高の平均投資収益率を記録している。

 種牡馬の初年度産駒が3歳馬として出走する夏に、供用3年目の1歳産駒が上場されるので、3歳産駒が良い成績を挙げれば、多くの場合手頃な種付料で生産された1歳馬の需要は伸びる。例えばパイオニアオブナイル(Pioneerof the Nile)は、初年度産駒の中からカイロプリンス(Cairo Prince)、ソーシャルインクルージョン(Social Inclusion)およびヴィンセレモス(Vinceremos)がクラシック競走に出走した。パイオニアオブナイルの今年の1歳産駒は1万5,000ドル(約153万円)の種付料で生産されたが、セリでは彼らにもっと高い評価が与えられるだろう。

 供用6年目と7年目の1歳産駒も、種牡馬が人気を博してから初めての1歳馬の一団であることで急上昇する傾向にある。ウォーフロント(War Front)が格好の例である。同馬の供用当初の種付料は1万2,500ドル(約122万円)と手頃だったが、今では15万ドル(約1,530万円)に跳ね上がった。ここに到達するまでに数シーズンと掛からなかった。供用6年目と7年目の種付料はそれぞれ6万ドル(約612万円)と8万ドル(約816万円)であり、今年は供用6年目の1歳馬が上場される。言うまでもなく、それらの1歳産駒は採算性のある集団であるはずだ。

By Ian Tapp
(1ドル=約102円)

[The Blood-Horse 2014年6月21日「Inside Market Watch―Sweet Spot」]


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