イタリア競馬、重賞格付けはく奪を免れることができるか?(イタリア)【その他】
ヨーロッパ・パターン競走委員会(European Pattern Committee:EPC)がイタリアの重賞競走の格付けをはく奪するというニュースは、悲しいかな競馬産業にほとんど驚きをもたらさなかった。競馬界と国会の両方において統治が不安定であったため、イタリア競馬はとてつもない財政難に見舞われていた。
そして、EPCのブライアン・カヴァナー(Brian Kavanagh)会長が「非常に悔やまれる」と述べた今回の決定を導いたのは、まさに財政上の問題であり、厳密に言えば賞金支払いの遅延であった。
競馬産業のこの新たな展開は、近年多くの国に見られるのと同様に、生産界に産駒数の急落をもたらしており、サラブレッド生産業から撤退する牧場の数は心配な数字に上っている。
妻のニキ(Niki)と一緒にルチアーニ牧場(Azienda Agricola Luciani)を経営するステファノ・ルチアーニ(Stefano Luciani)氏は、2012年に転機が訪れたと語った。
「2012年に初めて、生産者支援を目的とする国からの助成金が途絶えました。国は過去15〜20年にわたって、私たちが結果を出せるように援助してきました。優良牝馬を有する生産者は、血統の改良のために種付料の25%〜40%を還付請求できる資格がありました」。
ルチアーニ氏は、多くの生産者が英国や愛国の種牡馬に繁殖牝馬を送り込むために、助成金を役立てていたことだろうと付け加えた。1960年代後半にルチアーニ氏の父ロレト(Loreto)が創立したルチアーニ牧場は、アイリッシュナショナルスタッド(Irish National Stud)に牝馬を送り続け、2008年ゴフス社11月当歳セールではクラシック勝馬ジョージワシントン(George Washington)の唯一の産駒であるデートウィズデスティニー(Date With Destiny)を上場して売り手のトップとなった。
しかしイタリアの重賞消滅は、将来のイタリア産馬の上場に直接的な影響を及ぼすだろう。
「重賞が無くなれば、どれだけレースに勝ったとしてもブラックタイプ馬は出ず、繁殖牝馬もその仔もセリでは全く注目されません。正直なところ、イタリアのブラックタイプ勝馬はすでにそれほど重要視されることはなくなっていました」。
供用1年目の種牡馬シャウィール(Shaweel)と最優秀2歳種牡馬に輝いたことのあるブルエアフォース(Blu Air Force)を繋養しているルチアーニ氏は、この問題の原因がどこにあったのか見当がついている。
「主な問題は、何年にもわたり競馬の管理体制に持続性が欠けていたことです。競馬統轄機関が目まぐるしく変わりました。最初UNIRE(Unione Nazionale per l’Incremento delle Razze Equine)だったのがASSI(Agenzia per lo sviluppo del settore ippico)となり、その後は農林政策省に吸収されました」。
ベスナーテ牧場(Allevamento di Besnate)を経営し、グラディアトラス(Gladiatorus)、ラモンティ(Ramonti)、ムジャヒド(Mujahid)などを供用している生産者パオロ・クレスピ(Paolo Crespi)氏は、この問題の原因について同意したが冷静な見解も述べた。
「重賞格付けのはく奪は、競馬の管理体制と諸問題への対応方法に真の変化がもたらされるならば、前向きな一歩となるかもしれません。しかしこの措置が決定的となり、生産者がサラブレッド生産に自信が持てなくなったとすれば、消極的な方向に向かうでしょう」。
そして次のように続けた。「私たちの牧場には通年で100頭ほどの馬がいましたが、今では40頭程度で、そのうち10頭はサラブレッドではありません」。
「競馬の管理体制は酷いもので、以前からずっとそうでした。良い時代に蓄えを残さなかったし、競馬商品や競馬の将来に投資しませんでした」。
イタリア競馬界は他の多くの競馬国と同様に、競馬以外の賭事が人気を高めていることで悪戦苦闘している。クレスピ氏もルチアーニ氏も、魅力的な競馬と賭事売上げの増加を確かにするために、グレート・ブリティッシュ・レーシング(Great British Racing)が実行しているような方法で競馬をより良く売り込む必要性に言及した。
クレスピ氏は、「今では経済不況は過ぎ去ったようですので、私益を追求せずに、ただ競馬産業を助けることが課題です。今一番重要なことは、まっとうで魅力的な競馬を施行し、他の賭事に負けない競馬賭事を提供することです。生産、競馬、そして最高の騎手と調教師を送り出すことにおいて、イタリアは他国と競合することができます」。
私益を追求しないという考えは確かに、イタリア国内のあらゆる分野でますます採用されている。EPCの最後通告の翌日、海外の馬主に支払っていない賞金額の98%が支払われたという朗報がもたらされたが、イタリア国内の多くの馬主は、自身が獲得した賞金が支払われるのをこれからもずっと待つことに甘んじている。
イタリアのサラブレッド生産者協会ANAC(Associazone Nazionale Allevatori Cavalli)のイザベッラ・ベゼラ(Isabella Bezzera)理事長は、海外関係者に対しては、あとは少額の騎乗手当の債務を負っているだけであると語った。
そして次のように続けた。「しかし、イタリアの馬主と生産者の大半は依然として賞金が支払われるのを待っています。まず海外関係者への債務返済が優先されました」。
「来年までにこの重賞格付けはく奪の決定が覆る望みを捨てていません。10月に入る前にもう1回会合が持たれるはずです」。
「重賞格付けがはく奪されるのであれば、大きな損害が伴いますが、膨大な債務が返済されれば、私たちには重賞競走を施行し続けられるチャンスがあるはずです」。
そうなるとすれば、フェデリコ・テシオ、ネアルコ、フランキー・デットーリ、リボー、リップヴァンウィンクルなどを生み出したこの素晴らしい競馬国はトンネルを出て光を見出すことになるだろう。
By Katherine Fidler
[Racing Post 2014年4月27日「‘This issue now is simply to save our racing’」]