BHA、ステロイド問題を受け来年の薬物規制分野の予算を増額(イギリス)【獣医・診療】
BHA(英国競馬統轄機構)は、今年起こったマームード・アル・ザルーニ(Mahmood Al Zarooni)元調教師とサンゲート(Sungate)に関連するステロイドスキャンダルを受けて、薬物検査プログラムの予算削減を反転させる構えである。
2つの事案があったために、予算削減幅が大き過ぎなかったかどうかおよび薬物規制分野への予算復活の必要性について、2014年予算作成にあたって検討する結果となったことを、BHAのCEOポール・ビター(Paul Bittar)氏は認めた。
ビター氏は、“非常に大幅”な増額にはならないと語ったが、増額はBHAの薬物戦略の見直しおよびルール変更と併せて行われる。しかし、追加の財源は決定されておらず、来年度予算の仕上げは11月までかかるだろう。
研究予算も含まれるBHAの薬物検査費は、2008年から2013年までに24%削減され300万ポンド(約4億8,000万円)弱となったが、これは、BHAとHFL運動科学研究所(HFL Sport Science)との新規契約がもたらした経費削減と節約の結果である。
しかし、ビター氏は次のように語った。「私たちは今年、薬物検査プログラムなど来年の予算で検討を要する2〜3の問題を目の当たりにしました。すなわち、予算削減のいくつかの項目はやり過ぎではないか、いくつかの分野に再投資する必要があるのではないかという点です。そこで私たちは現在、2014年予算の作成段階でそれを検討しています」。
「理事会にどれだけの金額を提示するか定かではありませんが、今年起こった事案を踏まえた増額となるだろうと思います」。
ビター氏は、特に英国競馬界がグレート・ブリティシュ・レーシング・インターナショナル(Great British Racing International)を通じて海外で英国競馬を売り込もうとしているために、BHAの薬物検査プログラムの予算がぎりぎりまで削られなければならなかったことを認めた。
そして次のように付け足した。「これらの両立は無理であることが分かったと思います。競馬統轄機関および競馬の規制と公正確保を担当する団体に、ただ経費削減を続けさせておいてそれに伴うリスクを容認しないということはできません」。
「英国競馬の規制と公正確保は大変優れており、世界トップレベルであると認められていますが、今後もその立場を国際的に守り続けるのであれば、現在のBHAの薬物検査プログラムはおそらく望むべきぎりぎりの水準であるということに私たちは気付いたと思います。したがって私たちはこの分野に間違いなく投資を行うつもりです」。
BHAが英国会社登記所(Companies House)に対して2012年会計報告の提出準備をしていた際にニュースとして公表され、本紙もその数字を入手した。下表のとおり、大半が開催手数料、出馬登録料およびさまざまな登録料からなるBHAの収入は、前年比1.3%減の2,866万8,000ポンド(約45億8,688万円)となった。
しかし、BHAの運営費を通じた競馬への支出は約3.29%減少し、2,728万3,000ポンド(約43億6,528万円)となった。この額は2008年には3,340万ポンド(約53億4,400万円)で、当時のポール・ロイ(Paul Roy)会長は3年間でこれを10%削減するよう指示していた。
ビター氏は、大幅な経費削減は確かに実行されたが、BHAの経費基盤の80%以上を固定費が占めているため、これ以上の節約項目を見つけるのは困難になっていると述べた。
BHAの損益計算書 | ||||
2009年 | 2010年 | 2011年 | 2012年 | |
収 入 |
£33,227,000 (53億1,632万円) |
£30,891,000 (49億4,256万円) |
£29,041,000 (46億4,656万円) |
£28,668,000 (45億8,688万円) |
経 費 |
£32,400,000 (51億8,400万円) |
£30,074,000 (48億1,184万円) |
£28,211,000 (45億1,376万円) |
£27,283,000 (43億6,528万円) |
営 業 利 益 |
£827,000 (1億3,232万円) |
£817,000 (1億3,072万円) |
£830,000 (1億3,280万円) |
£1,385,000 (2億2,160万円) |
受 取 配 当 金 | ― |
£3,954,000* (6億3,264万円) |
― | ― |
税 引 後 利 益 |
£688,000 (1億1,008万円) |
£4,278,000 (6億8,448万円) |
£683,000 (1億928万円) |
£880,000 (1億4,080万円) |
*:レーシングエンタープライズ社(Racing Enterprises Ltd.)設立後の配当金
アル・ザルーニ事件とサンゲート問題の経緯 > > ゴドルフィンの調教師であるマームード・アル・ザルーニ氏は4月、薬物使用ルール違反があったとされBHAの懲戒委員会から8年間の調教停止処分を科された。 アル・ザルーニ調教師の管理馬のうち11頭が4月初めにアナボリック・ステロイドの陽性反応を示したことから、同調教師の計15頭が6ヵ月間出走停止となった。そのうちサーティファイ(Certify)は英1000ギニー(G1)の有力馬であった。同調教師は陽性反応を示した11頭以外の4頭の管理馬にも薬物を投与していたことを認めた。 さらに3ヵ月にもおよぶゴドルフィンの競馬事業に対するBHAの幅広い調査の後、セントレジャー(G1)勝馬エンキー(Encke)などのアル・ザルーニ厩舎の7頭が陽性となったが、同調教師が独自の判断で行ったものと結論付けられた。 > > BHAのサンゲート使用に関する6ヵ月に及ぶ調査は8月、他の9つの異なる厩舎の43頭に、禁止薬物アナボリック・ステロイドの一種スタノゾロール(stanozolol)を含む動物用医薬品が2010年前半から投与されていたことを明らかにし、終了した。 しかし、陽性サンプルが無かったことと、サンゲートの治療目的の使用が獣医師の助言で投与され、薬物記録がすべてとられていたことから、調査では、関与する調教師に対して処分を科す理由は無いと結論付けられた。 サンゲート使用問題は、ジェラード・バトラー(Gerard Butler)調教師の管理馬9頭からスタノゾロールの陽性反応が出た後の2月20日に初めて明らかにされた。バトラー調教師はサンゲート使用で唯一処分を受けることとなっているが、審問の時期についてはまだ明らかにされていない。 By Richard Birch |
ポール・ビター氏の役員報酬、初めて公開される
ポール・ビター氏のCEOとしての報酬がBHAの財務諸表で初めて詳述された。
ビター氏が2012年に、基本報酬、オーストラリアからの移住費、理事会がいくつかの業績目標に設定したボーナスとして受け取った額の合計は、29万1,000ポンド(約4,656万円)であった。
この額はビター氏の前任者の報酬ほど高額ではない。ビター氏と同じくオーストラリア人のグレッグ・ニコルス(Greg Nichols)氏の報酬は、BHAの前身であるBHB(英国競馬公社)のCEOを務めた2004年は33万1,000ポンド(約5,296万円)、2005年は33万6,000ポンド(約5,376万円)であった。
ビター氏の前任CEOニック・カワード(Nic Coward)氏の報酬は、2008年はボーナスを含め31万5,000ポンド(約5,040万円)であったが、経費削減のために2009年には28万6,000ポンド(約4,576万円)に、2010年には26万ポンド(約4,160万円)に減少した。
ビター氏の報酬は、英国スポーツ界での同様の要職に比べて見劣りがする。英国テニス協会(Lawn Tennis Association)を3月に辞任したロジャー・ドレーパー(Roger Draper)氏は、2012年に64万ポンド(約1億240万円)を受け取ったと伝えられている。
By Bill Barber
(1ポンド=約160円)
[Racing Post 2013年9月4日「Steroid scandals prompt BHA cuts reverse」]