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2010年10月22日  - No.20 - 2

賭事担当大臣、トート社の売却の話を進める(イギリス)【開催・運営】


 トート社(Tote)の将来に関する決定は9月15日一歩前進した。賭事を担当するジョン・ペンローズ(John Penrose)大臣がレーシングポスト紙に対し、英国におけるパリミューチュエル賭事の独占業者の評価額を決めるプロセスを開始したと語ったのだ。

 政府の顧問会社であるラザーズ社(Lazards)のために働いている会計士と弁護士のチームは9月16日、11月に予定されている“公開市場プロセス”を開始するための準備としてワイガンにあるトート社の本社にその仕事場を移すだろう。

 しかしプロセスがどのように進められるか、どの会社がトート社の購買者として浮上するか、および英国競馬にどのような影響を与えるかについては明らかにならないままである。

 たった1つ明らかになっていることは、トート社は遅くとも来年の9月までには、1928年の創立以来初めて新たな所有者を得ることになるということである。

 トート社の評価は経済不況において一層難しいものとなり、現在の評価額は3年前に流布していた評価額の2分の1の2億ポンド(約280億円)とされている。

 ペンローズ大臣は、競馬界が入札書を提出することを期待している。「私たちは納税者の利益のために、多くの選択肢を得ることを望んでいます。トート社は 必ずしもブックメーカー1社に売却される訳ではありません。競馬界にも入札書を提出するチャンスが与えられるべきであり、“こんな選択肢もありますよ”と 競馬界が案を持ってくることができたら有益でしょう」。

 BHA(英国競馬統轄機構)のCEOニック・カワード(Nick Coward)氏は、ペンローズ大臣の発言からヒントを得て、入札には“創造的で近代的なアプローチ”が必要とされていると述べた。

 政府がトート社を所有していることに疑問を呈してきたカワード氏は、次のように付け加えた。「競馬界はBHAを通じて、トート社の将来を決定することに ついて何ヵ月も政府と緊密に対話を行いました。競馬の本質的な利益のために、私たちはこの建設的なプロセスを続けていくことを楽しみにしています」。

 ペンローズ大臣は9月15日の議会陳述において、新しい連立政権は、納税者に対して価値を確保するとともに現在トート社が競馬産業に提供している支援を 踏まえた方法でトート社の将来を決定するだろうと述べ、6月予算におけるジョージ・オズボーン(George Osborne)財務大臣の言葉を繰り返した。

 売却額の半分を競馬界に与えるという前政府の約束についての特別な言及はなされず、またペンローズ大臣は売却についても直接的な言及はまったく行わなかった。しかし後になって、その2点の起こりうる可能性について曖昧な形で言及した。

 正式な声明において、同大臣は、「政府はこの秋に公開市場プロセスを開始する構えであり、その際に関係者からの提案を受け付けるでしょう。このプロセスは、トート社に興味を持っているすべての組織に公開されるでしょう」と述べた。

 ペンローズ大臣は、政府は2011年の初めに議会で進行状況を報告することを予定していると述べた。

 ラザーズ社はそれまでに、“関係当事者”に素案を提出するよう依頼する目論見書(訳注:有価証券の募集または売出しのためにその相手方に提供する文書)の準備をすることになるだろう。

 ペンローズ大臣はレーシングポスト紙に、現在行われているプロセスはすべて、トート社の事業に関する評価をはっきりとさせることであると述べた。

 同大臣は次のように付け足した。「私たちは、価格を決めるのに明確なプロセスを設けなければなりません。分け前が競馬界あるいは財務省に還元されるとすれば、公会計委員会はトート社の適切な価値はどれくらいなのか知る必要があります」。

 「このプロセスは、とりわけ私たちがトート社の職員の力を借りて正しい行動をとる必要があるために、絶対的に必要です。トート社は非常に長い間ぞんざいに扱われてきました」。

 トート社はその本社で540人の職員を雇用しておリ、2008-09年度においては29億ポンド(約4,060億円)の売上げから610万ポンド(約8 億5,400万円)の税引前利益を得ていた。およそ2,000万ポンド(約28億円)が競馬界に還元されており、その中には450万ポンド(約6億 3,000万円)のスポンサーシップと寄付が含まれている。

 ペンローズ大臣は、プロセスについては何も決定されていないと強調した。このプロセスには、トート社を支援する官庁である同大臣の文化・メディア・ス ポーツ省、最終的に価格を言い渡す財務省、政府保有株式管理と繋がっていることから政府が所有する事業経営に責任があるビジネス・イノベーション・技能省 が関係するだろう。

 超党派の競馬および馬生産業グループ会議(Parliamentary All Party Racing and Bloodstock Industries Group)の共同議長を務めるローレンス・ロバートソン(Laurence Robertson)氏は、最初に意見を提供した国会議員である。同氏は、「私は、馬主協会(Racehorse Owners’Association)の年次会議において述べたことを繰り返します。今こそ競馬界が一丸となり、トート社を獲得するよう真剣に取り組む ときです」と語った。

 同氏は次のように付言した。「トート社から競馬への収入の流れが確保されるように、競馬界が一丸となってトート社を獲得することが重要です。すべての競馬場におけるトート社の存在を持続させるなどにより、今日まで発展したトート社を維持することもまた重要です」。

 

By Howard Wright

トート社の民間への売却は競馬界に壊滅的打撃

 ホースメングループ(Horsemen’s Group)のポール・ディクソン(Paul Dixon)会長は9月16日、ウィリアムヒル社(William Hill)が入札プロセスから同社を除外している英国の競争諸法を見直すよう要求していることもあり、トート社が民間企業に売却されれば最悪のことになる だろうと警告した。

 ディクソン会長は、国有賭事業者であるトート社の将来を確かなものにすることは競馬界にとって不可欠であると主張し、競馬トラスト(racing trust)はそのための検討中の選択肢の1つであると述べた。

 競馬コンソーシアム(racing consortium)とトート社の経営陣によって提出された、トート社買収のための3億2,000万ポンド(約448億円)の入札は、2008年に失敗 したものの、今回は競馬産業の団結アプローチによって成功させるとディクソン会長は決意している。

 ディクソン会長は、「競馬界は、トート社が競馬界にとどまり続けることができるように、トート社と緊密に取り組んでいます。政府はトート社の将来を決定 するために時計を動かし始めたところであり、私たちは計画を具体化するための目標を10月半ばとしました。私たちはすべての選択肢を検討しており、そのう ちの1つが競馬界とトート社を含む競馬トラストの設立構想です」と語った。

 そして次のように続けた。「ホースメングループ、BHA(英国競馬統轄機構)および競馬場を合わせた競馬グループは、この件に関して皆賛成の立場です。私たちはトート社は絶対に競馬界にとどまるべきであると考えており、一丸となって取り組んでいます」。

 「トート社が競馬界の外部の企業に売却されることになれば、競馬界にとって最悪のことでしょう。賦課金収入が減少している中で、トート社は競馬界におい て唯一安定した事業であり、資金提供という面だけでなくすべての利益を競馬に還元しているという面で、競馬界が頼りにしている組織です」。

 現行の英国の競争諸法は、トート社の購入の入札にウィリアムヒル社やラドブロークス社(Ladbrokes)が参加することを妨げているが、これらの規 制が続けられてきた間に、インターネット賭事業者とベッティング・エクスチェンジ提供会社が出現し、賭事市場は拡大してきた。

 ウィリアムヒル社のCEOラルフ・トッピング(Ralphe Topping)氏は、「私たちはトート社を含む企業の買収を通じ、英国で私たちのベッティングショップの範囲を広げるチャンスを検討することに非常に関心があります」と語った。

 そして次のように続けた。「これを確実な“公開市場”にするためには、私たちは、公正取引委員会(Office of Fair Trading)がこれまで市場に対して行ってきた時代遅れの競争検査をベッティングショップの観点から再検討する必要があると確信しています。真の市場 は、インターネット賭事もベッティング・エクスチェンジも含むグローバルなものになっているのです」。

 「もし“公開市場”での入札が、トート社の売却価格を低下させるかもしれない厄介な前提条件を背負い込むのであれば、私たちは失望するでしょう」。

 トート社の前会長であるピーター・ジョーンズ(Peter Jones)氏は、実際の経験に基づいて、トート社売却は簡単なことのように見えるけれども、政府内外には競合する利害団体があるためその考えは幻想となるだろうと述べた。

 そしてジョーンズ氏は、9月16日に、次のように語った。「私が最初に考えたことは、またやらなければならないということです。3つの官庁が関係してい るということが実際のところ複雑であり、財務省はおそらく収入を最大限にするという目標を定めており、文化・メディア・スポーツ省とビジネス省は異なる議 題を持っているでしょう」

 「そしてもちろん、トート社がありその職員がいます。そしてブックメーカーたちは、絶えずトート社の入札のお膳立てを行ってきました」。

 「トート社は価値評価手続きを経ることになると思いますが、これで3回目か4回目になります。根本的な疑問は、現在の状況において市場で実際どれだけの 資金が得られるかということです。競馬界の素晴らしい支持者である馬主のアンディ・スチュアート(Andy Stewart)氏が何を言うかが非常に興味深く、もし彼が関与することになれば強力な後押しになるでしょう」。

 「競馬界は、可能であれば競馬トラストという形でトート社全体が競馬界にとどまることを望んでいると思いますが、政府がトート社売却から資金を得たいと 思っているため複雑さも伴います。そして現在から実際の決定が明らかになるまでの間には多くの陰の努力が必要となるでしょう」。

 ジョーンズ氏は次のように付言した。「競馬商品はようやくプール賭事においても映像配信においても国際的に販売されつつあるので、トート社のパリミュー チュエル賭事部門は確実に英国競馬の不可欠な部分となっています。これは売上げの伸びるベッティングショップを生み出しています。このことは、いくつかの 組織にとっては飛躍的進歩、海外の企業にとってはこの市場に参入する足がかりとなるでしょう」。

 トート社の元理事であり、2年前に政府がトート社売却から手を引く前に影のトートトラスト社(Tote Trust)の会長を務めたリプシー卿(Lipsey Lord)は、次のように語った。「いかなる場合においても、競馬界が入札プロセスの公平な分け前を得ることが肝要です。競馬界は、トート社を競馬サーク ルの中にとどめることを望んでいると確信していますが、誰が最も高額な入札を行うかに応じて政府がそのことに優先順位を置くかどうかはわかりません」。

 「しかしそれがどのような動きになろうとも、決定的に重要なことは、競馬界が現金の分け前を得ることであり、入札による収入が財政赤字を補填するために全部使われてしまうことではありません」。

 

 By Graham Green
(1ポンド=約140円)


[Racing Post 2010年9月16日「Minister sets clock ticking on Tote sale」]
[Racing Post 2010年9月17日「Private sale of Tote would be catastrophic for racing−Dixon」]


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