TOPページ > 海外競馬情報 > 発走後の賭けが勝馬投票の公正確保にもたらした懸念(アメリカ)【開催・運営】
海外競馬情報
2008年02月08日  - No.3 - 1

発走後の賭けが勝馬投票の公正確保にもたらした懸念(アメリカ)【開催・運営】


フェアグラウンズ競馬場で起きたレース発走後の投票

 ブリーダーズカップ競走のピックシックス(6重勝馬券)にかかわるスキャンダルが起きてから5年以上たった。2007年12月6日に開かれた第34回 “競馬およびゲーミングに関するシンポジウム(University of Arizona Race Track Industry Program’s Symposium on Racing and Gaming)”に参加した聴衆は、大口馬券購入者マイク・マロニー(Mike Maloney)氏の「2007年11月25日、フェアグラウンズ競馬場がレース発走後に勝馬投票を受け付けた」という発言によって、この5年余の間、サ ラブレッド競馬における勝馬投票の安全性が一向に改善されていないことを知らされた。

 一方、フェアグラウンズ競馬場の広報・サイマルキャスト発売担当取締役レニー・ヴァンギルダー(Lenny Vangilder)氏は、発走後の賭けが行われた理由は技術的エラーであり、裁決委員は発売締め切りボタンを押したが、ボタンが機能しなかったため、勝 馬投票担当取締役が急遽レース発走後15秒以内に賭金プールへの投票を締め切ったとしている。

 しかしマロニー氏は、「馬が11/18マイル(約1,700 m)のレースの最初の半マイル(約800 m)を走り終えたときにまだ賭けることができたので、発走後の賭けが可能であった時間は、発走後少なくとも45秒間であった」と反論し、「おおかたの上級 幹部はそのようなことは起きやしないと考えているようです。しかし、今回のような事件は発生しうるものであり、発生するでしょう。私は、このようなことが 普通に起きているのを見てきました。発売締め切り合図後55秒間も賭金プールが締め切られなかったことはありませんが、5秒間、8秒間そして10秒間締め 切られなかったことに遭遇したことがあります。あらゆるレースで起きるものではありませんが、驚くほどの割合で起きています」と述べた。なお、同氏は、 11月25日の発走後に行った賭けは前半の競走を見て買ったわけではなく、すべての賭けは不的中であったと補足した。マロニー氏は、1年間に1,200万 ドル(約14億4,000万円)以上の金額を競馬に賭け、また1レースに1万ドル(約120万円)も賭ける大口賭事客として知られている。

 このシンポジウムは、アリゾナ大学競馬経営学科の主催で、2007年12月6日から3日間アリゾナ州ツーソンで開催されたもので、長年行われてきた討議の場の1つである。今回のシンポジウムでは勝馬投票の公正確保の必要性が特に強調された。

 シンポジウム初日の国際勝馬投票に関する公開討論会において、4人の討論参加者はそれぞれ、勝馬投票の公正確保は世界的な競馬情報と映像の配信にとって 不可欠であると述べた。その2日後、全米サラブレッド競馬協会(National Thoroughbred Racing Association: NTRA)のアレックス・ウォルドロップ(Alex Waldrop)理事長も同じ考えを述べた。

 しかしマロニー氏は、競馬主催者が有言不実行であると決めつけ、「最も悪い点は、勝馬投票の公正に対する関心が欠如していることです。勝馬投票の公正確 保にはお金がかかるけれども、儲かるわけでもないので、この問題に真剣に取り組まないのです。それに、馬券購入者が勝っても負けても控除金を得ることがで きるため、勝馬投票の公正確保をあまり気にかけません。ひいては、競馬そのものを害することになります。」と警告した。

 毎年1,260億ドル(約15兆1,200億円)が賭けられている世界の競馬市場で、自分たちの売上げを拡大するためには、勝馬投票の公正確保が不可欠であることは、北米の開催執務委員は十分理解している。

 ウォルドロップ氏は、NTRAそれ自体は改革の権限を持たないが、2008年に試験的実施を予定している勝馬投票通信協定の作成に積極的な役割を果たす であろうと、次のように述べている。「とりわけ私たちが国際的規模で事業を拡大しようと計画している中、勝馬投票の公正確保は最も重要です。NTRAは、 勝馬投票通信協定を作成する競馬界の活動を調整することになっています。私たちは、協定の作成を開始させるために必要なことは何でも行うつもりです。勝馬 投票の公正確保に関係のない部門は競馬界に1つもありません」。

 その後2008年12月14日に至り、ニューオリンズのフェアグラウンズ競馬場を所有しているチャーチルダウンズ社(Churchill Downs Inc.)の執行副社長スティーブ・セクストン(Steve Sexton)氏は、当該レースの発走後の馬券発売は当初考えていたよりも長く続いていたと供述し、「フェアグラウンズ競馬場の発走時刻は記録に示されて いるとおり1分32分(中部標準時)でしたが、投票受付中止時刻は1時33分24秒ですので、1分24秒過ぎていました」と陳謝した。

 この事件について、2つの規制機関と2つの競馬協会がそれぞれ捜査を開始した。

 傘下のキーンランド競馬場で、マロニー氏がサイマルキャストを通してフェアグラウンズ競馬場のレースに投票していたことから、ケンタッキー州競馬統轄機 関(Kentuckey Horse Racing Authority: KHRA)では調査委員会の設置を12月17日に承認した。KHRAのメンバーであるトム・ルディット(Tom Ludt)氏は、委員会は1月までに設置される予定であり、同氏のほかにKHRAのメンバーであるフランク・クリング(Frank Kling)氏、KHRAの専務理事リサ・アンダーウッド(Lisa Underwood)氏、マロニー氏、競馬場代表者および馬主・調教師で構成されると述べている。


国際サイマルキャストの進展

 このような課題を抱える中で、国際サイマルキャストは確実に進展しつつある。1人当たりの馬券購入額が世界のトップクラスに入っている香港では、香港政 庁がHKJCに対して10レースの映像輸入による勝馬投票を許可しているが、そのうちの1つであるブリーダーズカップ・マイルについて、HKJCは 2007年に初めて香港の賭金をアメリカの賭金プールに入れた。

 競馬およびゲーミングに関するシンポジウムにおいて、香港ジョッキークラブ(Hong Kong Jockey Club: HKJC)の投票サービス・システムの責任者ボビー・チャン(Bobby Chang)氏は、HKJCは投票システムの安全性および公正性に関係する技術問題の徹底的な見直しを行うと述べた。

 米国ジョッキークラブ(American Jockey Club)の登録担当副理事長マット・ユリアノ(Matt Iuliano)氏は、「米国内だけでも合同賭金プールによる同一の払戻金を達成するのは非常にすばらしいことです。したがって、世界的規模における同一 の払戻金を想像することも可能です。世界の競馬界は、2006年に1,260億ドルを売り上げました。この莫大な金額を維持し、さらに発展させるために は、国際競馬統轄機関連盟(International Federation of Horseracing Authorities: IFHA)の下で世界が協調していく必要があるのです」と述べた。

 IFHAの専務理事モーリッツ・ブルッギンク(Maurits Bruggink)氏は、IFHAのプロジェクトチームは国際共同賭金プールをいっそう魅力的にするために新たな勝馬投票を創設していると述べた。

 同氏は、「人々は、競馬はあまり革新的でないと言いますが、そうではありません。私たちは、新たな商品のことを絶えず検討しており、世界的なエキゾチック馬券、つまり一種の世界的スーパー馬券を提供するつもりです」と述べている。

 同氏は、IFHAはメンバーと一緒にスーパー馬券の条件を完成させるためにシンポジウムの間に会合を開くであろうと述べた。メンバーは会合の結論について各自の競馬統轄機関に戻って承認を受けることになる。

 IFHAは、スーパー馬券を2009年の初めまでに発売したいと考えている。IFHAは、2007年に世界的なトライフェクタ(3連単馬券)を提供した。この馬券は、将来における大規模なスーパー・エキゾチック馬券のための試行として役立った。

By Ed DeRosa

[thoroughbredtimes.com 2007年12月15日「Past posting incident raises integrity concerns」]
[thoroughbredtimes.com 2007年12月25日「Investigations continue into Fair Grounds wagering」]

 


アケダクト競馬場で起きたレース発走後の投票

 アケダクト競馬場は、レース発走後に勝馬投票を受け付けるトラブルが発生したと発表した。このようなトラブルは、最近では6週間前のフェアグラウンズ競馬場についで2度目である。

 その発表は、1月3日の第1レースで、投票締め切り装置が機能しなかったために、発馬機が開いた後、35秒間投票を続ける結果となったというものであ る。このレースの発走後に競馬場内で発売された馬券で的中したのはデイリーダブル馬券(2重勝)1枚で、このデイリーダブル馬券を含め、同レースの場内・ 場外の合計馬券発売高は、48万8,523ドル(約5,860万円)であった。

 ニューヨーク競馬協会(New York Racing Association: NYRA)の最高業務責任者ハル・ハンデル(Hal Handel)氏は、「第1レース発走後に場内馬券発売所で賭けられたのは81ドル(約9,700円)であり、デイリーダブル馬券1枚が的中し、その払戻 金は11.40ドル(約1,370円)であったことを把握しています。しかし、レース発走後に場外馬券発売所で馬券が発売されていたとしても、その詳細は 現時点では分りません。しかるべきときに投票を締め切らなかったことは、絶対に起きてはならないことです。私たちは、2重の不具合が生じたことに関する内 部調査の結果をふまえ、裁決委員室と馬券発売事務所における手順の改善を図ることにしました」と述べた。

 NYRAによると、2重の不具合とは、裁決委員が第1レースの発走直前に通常の手順で投票締め切りボタンを押したものの、投票締め切り命令が馬券発売システムに伝達されなかったことと、その様な際に作動すべき馬券発売事務所の補助手順も機能しなかったことである。

 勝馬投票の間断のない監視が行われていなかったため、場外馬券発売所でレース発走後にいくら賭けられたのか、またどのくらい的中馬券があったのかを追跡するにためには、広範囲にわたる調査が必要と思われる。

 6ハロン(約1,200メートル)の第1レースの勝ちタイムは、1分13秒33で、本命馬のマイアポロジー(My Apology)が終始早いペースを維持して優勝した。単勝の払戻金は3.70ドル(約440円)であった。

By Frank Angst
(1ドル=約120円)

[thoroughbredtimes.com 2008年1月4日「Aqueduct accepts wagers after start of race」]

州競馬委員会協会“最大限の注意”を促す

 1月4日、アリゾナ州スコッツデールで開催された、アメリカのゲーミング州選出国会議員全国協議会(National Council of Legislators from Gaming States: NCLGS)冬季会議において、州競馬委員会協会(Association of Racing Commissioners)のエド・マーティン(Ed Martin)会長は、勝馬投票の公正確保と全上発生している深刻な問題について、悪用できる仕組みが放置されている現状から、“最大限の注意”が必要 であると述べた。

 NCLGSは、少なくとも年に2回会議を開き、米国において行われているゲーミングの情報交換と政策提案を行っている。

 最近、フェアグラウンズ競馬場とアケダクト競馬場で起こった、レース発走後に勝馬投票が行われた事件は、勝馬投票産業に再び警鐘を鳴らした。マーティン 会長は、アリゾナ大学の“競馬およびゲーミングに関するシンポジウム”で明らかにされた2007年11月のフェアグラウンズ競馬場で起こった事件について、ルイジアナ州の統轄機関は少なくとも1週間認識していなかったと述べた。この事件では、キーンランド競馬場からフェアグラウンズ競馬場のこのレースに賭けた客は、発走後少なくとも45秒間賭事を行うことができた。

 その後、ニューヨーク競馬協会(New York Racing Association: NYRA)は1月3日、アケダクト競馬場の第1レースにおいて、装置の誤作動により発走後35秒間、勝馬投票を受付けたという“賭事手順における違反”があったことを報告した。

 マーティン氏は、勝馬投票産業は北中米競馬委員会協会(Association of Racing Commissioners of International: RCI)が2、3年前に提唱した全国監視システムが必要であると述べた。しかし、このシステムは勝馬投票業界の現状と財政的制約に阻まれ進展しなかった。

 マーティン会長は、1990年代に、馬主・調教師・騎手・繋駕競走騎手のライセンス供与を容易にするために制定された全米競馬協定(National Racing Compact)が、特に海外を拠点とする二次的な勝馬投票運営業者を再調査する仕組みを提供することができることを示唆した。オンラインカジノに関する 安全性に対処する国際ゲーミング研究所(Gaming Laboratories International)は、RCIと共同で勝馬投票産業についての研究を行うことに同意した。

 マーティン会長の主張によれば、サラブレッド競馬保安協会(Thoroughbred Racing Protective Bureau: TRPB)のメンバーは“技術的専門知識”に欠けており、勝馬投票産業は安全性について適切に対処できていないとのことである、

 NCLGSの会議に出席していたデラウェアパーク競馬場の最高執行責任者のビル・ファジー(Bill Fasy)氏は、「TRPBのメンバーは物事を明らかにする技術的専門知識を持っていますし、最先端の研究をしています」と反論した。デラウェアパーク競馬場はTRPBを監督しているサラブレッド競馬場協会(Thoroughbred Racing Associations: TRA)のメンバーである。

 マーティン会長は、「統轄施策は各州で独自に対応する必要があります。これは忘れてはならないことです」と付言した。

By Tom LaMarra

[The Blood-Horse 2008年1月12日「Security said to need‘Serious Attention’」]


上に戻る