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海外競馬情報
2008年11月21日  - No.22 - 2

NTRA、安全・公正確保のため全面的な改革に乗り出す(アメリカ)【開催・運営】


 2008年6月、連邦議会はサラブレッド産業界に対し、競馬場における馬の死亡事故やドーピング、競走馬生産の問題などの解決に向けた自己変革を促した。これを受け、全米サラブレッド競馬協会(National Thoroughbred Racing Association: NTRA)は、安全・公正確保に関する課題を解決するため、全面的な改革に乗り出した。

 この全面的改革の骨子は以下のとおりである。

 

  • 統一薬物ルールに向けた取組みの続行
  • 競走におけるステロイド使用の禁止
  • 調教中の血液ドーピングと遺伝子ドーピングの検査実施
  • 薬物違反すべてに対する制裁の統一
  • 競走および調教における事故報告の義務化
  • 安全保護機能のある内柵設置の義務化
  • 競馬場における競走馬の警備対策の義務化
  • 引退競走馬に新たな活動の場を見つける計画の採択

 今回の改革の多くは、ジョッキークラブ安全委員会(Jockey Club Safety Committee)と薬物規制標準委員会(Racing Medication and Testing Consortium)の勧告を基礎としている。なおこの勧告は、ケンタッキーダービー(G1)でのエイトベルズ(Eight Belles)の致命的な故障を受けていくつかの州で採択されている。

 具体的な推進策として、NTRAは安全・公正に関する同盟(Safety and Integrity Alliance)を新たに組織した。全面的な改革に賛同する競馬場、競馬関係者等は諸改革を記述した同盟誓約書に署名し、(1)改革を実行することおよび、(2)州と競馬統括機関に対し改革に関する恒久的ルールの制定を要請することを約束する。なお、NTRAは恒久的ルールが制定されるまでの間、同盟に加入した競馬場が改革を自主的に暫定実施するよう奨励する。2009年、NTRAは誓約書に署名した競馬場に認定書を発行する。

 改革の進捗状況は、前ウィスコンシン州知事トミー・トンプソン(Tommy Thompson)氏が外部監査人としてチェックする予定である。トンプソン氏は見直しを継続的に指揮し、少なくとも年に1回は遵守状況に関する詳細な報告書を作成公表する。

 この度NTRAが新たな改革のための行動を起こす具体的なきっかけとなったのは、今春世間の注目を集め、競馬産業に厳しい目が向けられた2つの出来事である。その出来事とは、(1)2008年ケンタッキーダービーで2着馬エイトベルズがレース直後に予後不良・安楽死となった事件、(2)リチャード・デュトロー(Richard Dutrow Jr.)調教師が2008年ケンタッキーダービーとプリークネスSの優勝馬ビッグブラウン(Big Brown)にステロイドを事前に定期的に投与していたと認めた事件である。

 三冠レースの結果が出てから2週間もしないうちに、米国下院エネルギーおよび商業対策委員会(Energy and Commerce Committee of the United States House of Representatives)では、競馬産業の自己改革能力に対する懐疑的態度が強まり、サラブレッド競馬の現状に関する聴聞が行われ、その中で下院 議員たちは、競馬産業が自主的に問題に取り組まなければ全国レベルの競馬委員会を創設する法的措置を検討すると警告した。

 他方NTRAはこの夏に大規模なアンケート調査を実施し、ハードコアな競馬ファンは薬物使用について、時々馬券を買うファンは競走馬の福祉について不満を強めている状況を知って、新たな改革に向け行動を起こす自信を得た。

 NTRAのアレックス・ウォルドロップ(Alex Waldrop)会長は「競馬産業は、安全と公正を確かなものにするために、積極的に一歩踏み出そうとしています。困難やコストの問題はありますが、競馬界の指導者にはこれらの措置をやり遂げようとするかつてない程の熱意があります」と語った。

 NTRAはこれらの改革が段階的に進むことを期待している。安全委員会の勧告とサラブレッド馬主・生産者協会(Thoroughbred Owners and Breeders Association)のアメリカ・グレード競走委員会(American Graded Stakes Committee)およびブリーダーズカップ社(Breeders’ Cup Ltd.)の新しい方針により、ステロイド禁止に向けた動きは加速しており、その進捗状況はトンプソン氏による2009年の監査対象とされるだろう。

 ウォルドロップ会長は、「薬物の領域が私たちの最優先課題であることは間違いありません。それが最優先されるのは明らかです。引退馬の活用などの他の領域に着手するには、少し時間が掛かるでしょう」と述べた。

 トンプソン氏は、ウィスコンシン州知事として4期を務め、2001〜2005年ブッシュ政権の保健社会福祉長官を務めた。同氏は、ワシントンD.C.のアキン・ガンブ・ストラウス・ハウアー&フェルド法律事務所(Akin, Gump, Strauss, Hauer, and Feld:AGSHF)の共同経営者である。

 トンプソン氏は自身のことを熱狂的競馬ファンであると述べており、G1馬フラッシーブル(Flashy Bull)の共同馬主でもあった。

 ウォルドロップ会長は、「トンプソン氏は、私たちに何をすべきかを指示するためではなく、計画実行の手助けをするために尽力してくれるでしょう。私たちは、競馬産業が“自分たちは産業の状態を分っていますし、自己管理できます。完璧ですから信じてください”という有言不実行を封じようとしているのです」と述べた。

 「トンプソン氏は、こう言うでしょう。“あなたたちの活動状況を見せて下さい。結果を公にして下さい”。トンプソン氏とAGSHFには、競馬のほかにもっと大切な仕事があります。彼らは自己管理ができないような競馬産業を守るために、法律家としての評判に傷をつけるようなことはしないでしょう」。

 ウォルドロップ会長は、競馬場が同盟に対する誓約を守らない場合は認定を取り消すと強調した。40以上の競馬場は、すでに同盟に加入すると表明している。その中にはチャーチルダウンズ社(Churchill Downs Inc.)とマグナ・エンターテイメント社(Magna Entertainment Corp.)とニューヨーク競馬協会(New York Racing Association)の傘下にある全ての競馬場が含まれている。10月14日の時点で同盟への加入を表明していない競馬場には、ホーソン競馬場、オー クローンパーク競馬場、タンパベイダウンズ競馬場が含まれている。

 オークローン競馬場は声明で、「当競馬場はNTRAが安全を重要視している点を称賛します。しかし、数週間前に追加情報としてこの全面的改革の構造、管理方法、永続性、責任と権限に関する情報提供を求めています。現在はそれらの点が明確になるのを待っているところです」と述べた。

 ウォルドロップ会長は、基準を満たさない競馬場があることを考慮すると、同盟が認定する競馬場は最終的に20場ほどになるかもしれないと推測している。

 同会長は、「基準を下げるつもりはありません。この全面的改革は、競馬場の水準を基準以上に引き上げることを目指すものです。この基準は同盟の根幹です。認定競馬場は一流競馬場として認知され、トップ20場から30場の優良競馬場はどのようなものか明らかになるでしょう。今のところ40以上の競馬場がこの全面的改革に賛同していますが、すべての競馬場が基準をクリアできるか様子を見ています」と語った。

 ウォルドロップ会長は、認定制度を構想する際に参考としたのは、州ごとに規制がまちまちな医療、教育、保険などの分野であると語った。

 競馬場に加えて、同盟はホースメンズグループの参加も認めた。個人の馬主、調教師および騎手は、会員となり認定を受ける資格がある。

 ウォルドロップ会長は、「競馬産業にはかつてない程の変革意識が感じられます。競馬産業が真の変革を求めていることは、入会者の数が雄弁に物語っています。実のところ、もっと時間をかければ、より多くの馬主、調教師などの関係者を取り込めたでしょう」と語った。

 同会長は、個人会員は認定を維持するために少なくとも2回に1回は所属競馬場の開催に参加しなければならないだろうと述べ、「個人会員になる方を歓迎します。基準に従うかどうかを聞いて個人会員に認定するつもりです。基準に従おうとする人々には認定という形で報います」と語った。

 当初の改革計画には、賭事の公正確保に関係する対策は含まれていないが、ウォルドロップ会長は将来取り上げるべき問題であると付言した。

By Jeff Lowe

[thoroughbredtimes.com 2008年10月15日「NTRA unveils plan for sweeping reforms」]


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