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2008年01月25日  - No.2 - 1

ベッティング・エクスチェンジは存続するだろうか(イギリス)【その他】


 1ヵ月のうちに、競馬は2度も一般メディアに広く取り上げられた。2007年11月の初めの数週間、競馬紙が頻繁に大接戦の平地騎手のリーデリング争いを報じ、一般紙も競馬を第一面で扱った。その2〜3週後、キーレン・ファロン(Kieren Fallon)騎手に対する無罪判決が大々的に取り上げられたかと思えば、間髪を入れず、同騎手が2007年夏に薬物検査でコカインの陽性結果が出ていたという出来事が報じられ、再び競馬は一般紙の一面を賑わすことになったのだ。一般的な読者がどちらの話により大きな衝撃を受けたか、この問いに対する答えは明らかである。

 2007年12月初めの数週間はマスコミにとっては異常な時期だった。ムハンマドと名付けられたテディベア事件とカヌーで海に出て行方不明のふりをした男性の事件があり、そのすぐ後にフォーブス(Forbes)裁判官がファロン事件に終結宣言をしたニュースが報道された。それは、私たちはちょうどファロン事件がもたらす問題点を特集しようとしていたところだった。一般紙においても、イギリス競馬にとってこの事件のもつ重大性について情報が集められている最中だった。

 そんな時にファロン騎手のコカイン事件が発覚したのだ。コメディアンのモンティ・パイソン(Monty Python)の“奇妙な事件の月”というショーにおける”軽い扱い”だけが救いの様だった。

 ファロン事件の順を追ってみよう。検察局(Crown Prosecution Service:CPS)がキーレン・ファロン騎手と他5名を起訴した裁判は、ロンドン警視庁の捜査費300万ポンド(約7億2,000万円)の他に、裁判費用約1,000万ポンド(約24億円)が納税者の負担になると言われており、無分別で、不手際で、まとまりが無く、全くの時間と金の浪費だった。そもそもなぜCPSが“有罪判決を得る現実的な見込み”があると信じたのか理解しがたい。

 イギリス競馬の元チャンピオンジョッキーを含む3騎手が、故意に馬のスピードを落とし、不正な賭事に加担した疑惑が晴れたことには安堵した。しかし、全て問題が解決した訳ではない。我々が決して忘れてはならないことは、ベットフェア社(Betfair)が負け馬に賭ける賭事を顧客に提供しているというイギリス競馬の現状も素直に受け入れられるものではないことだ。

 馬券購入者に負け馬に賭けることを許すべきではないという意見に対するベットフェア社の主張は、疑わしい賭事が行われた場合、オンライン口座に個人の投票履歴が残っているので、関係証拠を当局に提出できるということである。この主張はさらに、もしそのときにこれを支える外部の証拠があれば、首尾よくその人物を捕まえることができ、イギリス競馬はクリーンなままでいられるとほのめかしている。

 その言葉どおり、2004年にベットフェア社は、ジョッキークラブにマイルス・ロジャーズ(Miles Rodgers)氏の過去3年間の口座履歴を示し、一連の業界内処分に役立てられた。

 しかし、今回の事件で明らかになったように、疑惑の追跡記録は、紙くず同然だった。刑事事件の訴訟を進行させる為には、悪事に関する、はるかに強力で実質的な証拠が利用できなければならない。ベットフェア社が提出したデータは確かに証拠ではあったが、実際のところ、検察当局と検察側証人のほとんどは、そのデータが何を示しているのか理解できず、データには完全な欠陥があったように思われた。

 さらに、競馬監理機構(Horseracing Regulatory Authority: HRA)が携帯電話の通話記録やメール内容の捜査をしたことも全てが今となっては空しいものであったように思われる。この事案を法廷に持ちこむ根拠となっ たもう1つの証拠であるこれらの記録は、もはやポーカーゲームの“2のワンペアー”ほどの効力しかなかったからだ。

 この事案における弱点は、次の2点であった。(1)(八百長で)負けることを保証された馬に賭けようとする者が慎重であるかぎり、CPSが彼等を裁判にかけ るに足る証拠を集めることは不可能に近く、ましてや有罪判決を下されることは無いことをはっきり示したことである。電話でのやりとりやオンライン賭事取引 は単独では証拠になり得ないし、これまでもなり得なかった。(2) CPSはそれを理解していたにもかかわらず、軽率にも鑑定証人としてオーストラリアの裁決委員であるレイ・ムリヒー(Ray Murrihy)氏を探し出してきただけである。

 騎手が負け馬に賭けた賭事客に対して、報酬目当てに馬の走行を抑えることを明確に約束した会話記録や文書があり、約束どおりに行動していることがはっき り認識できるようなカメラ映像がない限り(まずありえないだろう)、いかなる事件も英国競馬統括機構(British Horseracing Authority: BHA)の未決裁書類入れから出て立件されることは無いだろう。

 2004年に、HRAがその事案を処理するために警察の力を借りようとしていると報道されたとき、たいていの人々が2000年のアヴァンティエクスプレ ス/サウスワーク(Avanti Express/Southwark)事件の挫折を思い出していた。また、今回の事件では、ロンドン警視庁(City of London police)を買収するために資金提供の取り決めや警察関係者への仕事の提供があったという未確認の情報があった。しかし、今回の悲惨で、後味の悪い、 多額の費用のかかった裁判を経験して、どの統括機関があえて再び自らをこのような立場に置くだろうか。

 ベットフェア社の鉄の壁は法廷で崩れてしまった。オンラインのベッティング・エクスチェンジを今後も認めていくことは問題視されるべきである。BHA は、イギリス競馬の統括機関としてその威信を回復するためにすばやく行動しなければならない。さもなければ、その地位、あるいは少なくとも理事たちは支持 を失うことになるだろう。また新聞報道によれば、BHAはHRA(BHAの前身)とロンドン警視庁が取った行動から距離を置こうと努めているようだ。一見 したところ水遊びで喧嘩に巻き込まれた児童がびくびくして、「先生、僕は関係ありません。それを始めたのは彼らです」と言っているようにみえる。天の声は 「BHAのことは皆分かっているから、いいかげんに今行動を起しなさい。素直に落ち度を認めないと事態はますます悪くなりますよ」と言っている。

 さてコカイン事件に話を移すと、キーレン・ファロン騎手はエイミー・ワインハウス(Amy Winehouse 訳注:イギリスの薬物中毒やアルコール依存症などでゴシップの多い歌手)よりも頻繁に自爆ボタンを押しているようだ。コカイン使用による初めての騎乗停止 処分が昨年7月に期間満了となった直後に、この問題が再発したのは恥ずべきことである。この元チャンピオンジョッキーは明らかに1つの問題を抱えており、 全面的に薬物に頼ってきたように思えるのは意外なことではない。

 B検体のコカイン検査結果も陽性であったことから、噂どおり18ヵ月の騎乗停止処分に服すことになれば、ファロン騎手に今後再びレースの騎乗を許すかど うか問題になるに違いない。同騎手は現役復帰する場合は、騎手経歴の終末に近づいても10代の少年のように振舞うのではなく、チャンピオンに相応しい行動 を取る方が良いということを理解しなければならない。

 しかし、私たちは競馬および騎手に対する配慮についてもまた疑問を呈すべきである。長らくトップジョッキーであり、アルコールと禁止薬物がらみの問題で 汚れた過去を持ち、エイダン・オブライエン(Aidan O’Brien)調教師から“脆弱な性格の持ち主”と言われているファロン騎手に、なぜ長期的なケアが与えられなかったのだろうか。確かに中毒問題を抱え る全てのスポーツマン、とりわけ絶えずダイエットと減量を必要とする騎手は、大衆の目にされされて競い、日々自らの命と同僚たちの命を危険にさらしている のだからカウンセリング・スキームの中で護られるべきではないだろうか。

(1ポンド=約240円)

[Pacemaker 2008年1月号「Can betting to lose continue?」]

ロンドン警視庁の捜査の引き金となったベッティング・エクスチェンジ

 ベッティング・エクスチェンジの出現は、賭博に新しい次元を加えた。プロのギャンブラーであるマイルス・ロジャーズ(Miles Rodgers)氏がこれを悪用しようとしたと、イギリス警察は信じたのだ。

 警察の主張は、次のとおりであった。

  1. 負けると思う馬に賭ける賭け方は、多くの場合、儲けが少ないにもかかわらず、それに大金を賭けるのがロジャーズ氏の手口であった。
  2. 不祥事を起こしたロジャーズ氏には、ダレン・ウィリアムズ(Darren Williams)騎手、ファーガル・リンチ(Fergal Lynch)騎手そしてリンチ騎手を通してキーレン・ファロン騎手との交際疑惑があった。ロジャーズ氏は騎手から秘密情報を得て、ベットフェア社のベッ ティング・エクスチェンジを利用して賭けを行った。
  3. ロジャーズ氏は、警察が嫌疑を掛けている27レースにおいて、この情報を使った。

[Racing Post 2007年12月9日「Exchange activity fuelled police action」]


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