競馬場、映像配信をめぐる法廷闘争で勝訴(イギリス)【開催・運営】
高等法院判決、ライブ映像配信市場へのターフTV参入を支持
ベッティングショップへの英国競馬の衛星によるライブ映像配信の市場は、過去21年間にわたりSIS社(大手ブックメーカーが出資)が独占してきたが、2007年5月に同市場にターフTV社(英国のほぼ半数の31競馬場等が共同して設立)が参入したことにより、SIS社の独占が崩れた。
2007年9月、大手ブックメーカー3社等は、ターフTV社側の競馬場等を相手として訴訟を提起した。訴えの内容は、これら競馬場の映像放映権のターフTV社への売却は、集団的かつ閉鎖的であり、競争法に違反しているというものであった。
モーガン(Morgan)判事の判決は、ベッティングショップへの英国競馬のライブ映像配信をめぐる競馬場とブックメーカーとの長い戦いに大きな一歩を画した。
モーガン判事は、ターフTV社の設立に関係した競馬場が集団的な行動により競争を制限し価格を設定したことは競争法違反に該当するというブックメーカーの主張を明確にしりぞけた。
それどころか、判事は競馬場に支払われる映像料が集団的な交渉により引き上げられたことについて、「これは売り手の価格協定による競争阻害の結果ではなく、従前SIS社が独占していた市場にターフTV社が参入したことによる競争促進の結果である」と判示した。
そのため、競馬場はより多くの競馬映像権収入を得ることになった。
設立後まだ日が浅いターフTV社は今後順調に成長するだろうし、イギリスで4番目に大きいブックメーカーであるベットフレッド社(Betfred)も近い将来、ターフTV社からの配信を苦渋の選択として受け入れることになるだろう。
判事はさらに、競馬場が映像権市場に競争を導入するために共同企業体を設立運営することを望んでいたのであれば、競馬場の行動は合法的であるだけでなく妥当であり、止むを得ないものであると判示した。
モーガン判事の判決は、競馬場側の勝利を意味している。今や競馬場は競馬映像価格の交渉において正当な市場価格を主張する上でこれまでより優位な立場にいる。その場合でもブックメーカーが今後も地上波放送へ自由にアクセスし続けることで、競馬映像価格が押し下げられるだろう。特にSIS社の株主ではないブックメーカーは、映像受信料を引き下げるようSIS社に要求するだろう。
競馬映像市場の変化がベッティングショップの顧客達にどのように影響を与えるかは暫く時間が掛かるだろう。
モーガン判事は、「これまでにも競馬産業と賭事産業の間で法廷闘争が繰り広げられてきました。おそらく今回の訴訟によっても法廷闘争に終止符が打たれることはないでしょう」と述べた。
これが最後となればよいのだが、どちらの側も依然として有能な法律専門家を抱え法廷闘争に備えている。しかし、今やそのような費用は競馬産業と賭事産業のどちらの側にとっても有益なイギリス競馬の振興のために投資すべきではないだろうか。
By David Ashforth
[Racing Post 8月9日「How it all happened」「A big step to ensuring price is right for racing」]
判決に対する関係者の反応
競馬映像配信に関する競争法違反訴訟の高等法院判決について、競馬場の最高経営責任者の一人は、これによって競馬産業は競馬賭事賦課公社(Levy Board: 賦課公社)に代わる商業的な資金源をほぼ手中にしたと論評した。
他方ブックメーカーたちは、訴訟の結果について口を閉ざしたままであり、賦課金の削減に考えをめぐらしているようだ。
今回の訴訟沙汰は昨年の賦課金交渉に悪影響を及ぼし、結局政府が2008-2009年の賦課金計画を介入決定することとなった。さらに、2009-2010年の賦課金計画の交渉は9月から“ブックメーカー代表、競馬界代表、中立委員”の三者間で始まるのに、いまだにわだかまりが残っている。
トウスター競馬場の最高経営責任者クリス・パーマー(Chris Palmer)氏は、「映像権に関する今回の判決によって、賦課金制度に代わる商業的代替案と言えるものが見つかりました」と述べた。
パーマー氏は、約1年前に政府に対して、各競馬場とブックメーカーが競馬映像権料を基礎として交渉するという案を提出しており、「判決は、競馬場がその映像権を集団的かつ排他的に売ることができると述べています。これは単に、私たち競馬場側が価格を決定することです。ドノヒュー卿の報告書には、賦課金制度に代わる商業的代替案として競馬映像権を扱うことについてのリスクが大きすぎると述べているが、今やそれは否定されるべきです」と述べた。
パーマー氏は、「訴訟はブックメーカーと競馬界の関係がいかに険悪であるかを示しています。これは離婚問題よりひどいものです。当事者全員が勇断を振るって譲歩し、過去を水に流さなければなりません。私たちはブックメーカーたちと共に、双方にとって利益となるよう競馬商品の売り込みに真剣に“一緒に取組む”つもりです」と付言した。
“一緒に取組む”という言葉は、英国競馬統括機構(British Horseracing Authority: BHA)の最高経営責任者ニック・カワード(Nic Coward)氏の判決に対するコメントにも含まれている。カワード氏は、「競馬界は、賦課金を通してもっと多くの資金を受け取らなければならないと確信しています。しかし、私たちは適時に、より良くスマートな仕事上の関係を築かなければなりません。スポーツ大臣は2月に、切望されていた賦課金決定手続きの合理化など賦課金制度の大幅見直しを発表しました。私たちは、賭事産業と共に大いに働くつもりです」と述べた。
ジョッキークラブの上級裁決委員であるジュリアン・リッチモンド=ワトソン(Julian Richmond-Watson)氏もまた、今回の判決の事実認定が契機となって、競馬産業と賭事産業がいさかいを止めることを望んでいる。
同氏はターフTV社の株主であるジョッキークラブを代表して、「ジョッキークラブはさらに前進します。全ての顧客に対して競馬の魅力を宣伝し、拡大していくことを望む賭事関係者と協力する準備はできていますし、そうすることが望まれています」と述べた。
ターフTV社との契約を拒み続けているベットフレッド社(Betfred)のフレッド・ドーン(Fred Done)会長は、来年は賦課公社が苦しむことになると確信している。
同会長は、「昨年と同様の営業活動ができませんでしたので、我が社の賦課金支払いは、昨年と比べ増加しないでしょう。賦課公社は苦しむはずです」と述べた。
By Howard Wright
[Racing Post 2008年8月10日「Judgement makes levy alternative necessary」]