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2008年09月05日  - No.17 - 1

賭事委員会の活動に不満噴出(イギリス)【開催・運営】


 2007年9月初め、2005年賭事法(Gambling Act 2005: 新賭事法)の施行の際に、当局は“数十憶ポンドにも及ぶ英国賭事産業は世界で最も規制の厳しい産業になるだろう”と豪語した。

 この目標の達成を託されたのは、2年ほど前に設立された賭事委員会である。その任務は、国営宝くじとスプレッドベッティング(spread betting:後先き当て)を除く、あらゆる形態の賭事および遠隔賭事(remote gaming)を規制することである。

 すべてのブックメーカー(場内・場外を問わず)は、新賭事法の求めるところに従い、賭事委員会の免許を取得するために、時には数千ポンドの費用をかけた。このような多額の出費の見返りとして約束されたのは、賭事産業が犯罪のない公正でかつ安全を保証された産業となることであった。賭事委員会も“賭事産業に対する規制が初めて適切に行われることになる”と公言していた。

 新規営業免許料は、場内ブックメーカーの場合180ポンド(約4万3200円)、200店舗以上のチェーンでは4万518ポンド(約972万4320円)となり、また賭事マシーンの新規免許料は、約1000〜約1万6500ポンド(約24万円〜約396万円)と定められた。

 これに加えて、営業免許の年間手数料として、場内ブックメーカーは従来200ポンド(約4万8000円)であったものが1367ポンド(約32万 8080円)に値上げされた。また英国を拠点とする賭事店の場合、1店舗組織は1769ポンド(約42万4560円)、200店舗以上のチェーン店は年間 21万2372ポンド(約5096万9280円)の支払いを求められる。賭事マシーンの免許の年間手数料は1171〜3万8862ポンド(約28万1040〜932万6880円)に上げられた。目抜き通りにある有名な賭事チェーンの内部関係者は、今週レーシングポスト紙(Racing Post)に対して、最初の直接費用(新規免許料)30万ポンド強(約7200万円)にこうした間接費用(年間手数料)が加わった結果、最終的に「初年度費用は75万ポンド(約1億8000万円)となるのは確実だ」と語った。

 賭事委員会は、新賭事法に基づき、法律に違反した業者や従業員を捜査し、訴追し、罰金を科し、免許を取り消す権限を授与されただけでなく、恐らくより重 要なことだが、不正行為に関する規則に基づき“不正な賭け“を差し止めたり無効にすることができ、賭事に関わる不正行為への罰として最大2年間の投獄を科すことができるようになった。

 賭事委員会の50名ほどの監視指導官は、就任以来ベッティングショップと遠隔賭事業者の定期視察に忙殺されている。新しい権限については、今のところ抜かずの宝刀であり、監視指導官たちは多くの時間を費やして、ブックメーカーとの協議や、新しい規則の運用を検討している段階である。

 賭事委員会のニック・トフィラック(Nick Tofiluk)事業本部長は次のように語った。「2007年に新賭事法が施行されて以来、多くのブックメーカーが新しい社会的責任に関する行動規範の領域で、実効性のある方針や手続きを作りました。加えて、当委員会は違法賭事を積極的に調査し、必要な場合には与えられた権限を行使しました。違法賭事で儲けようとしている者たちが他者を犠牲にしてはびこることのないように、法執行機関、地方当局およびスポーツ運営団体など諸機関との関係の構築を続けています」。

 一般市民からカジノやビンゴを含む事業者について、月に80件ほど苦情が寄せられ、調査が行われているが、免許を取り消された事業者はまだない。これは“委員会が当面事業者との話し合いに時間と労力を投入している”という事実を証明している。

 広報担当者は、「賭事委員会はスポーツ運営団体と密接に協力しています」と述べたものの、委員会が不正賭事の無効化や賭事債権の回収(訳注:ギャンブル負債は、新賭事法によって回収可能となった)にはまだ取り組んでいないことを認めた。

 賭事委員会は6月に北西部で14台の類似マシーンを押収した後に、事業者に対して強く注意喚起していたにも拘わらず、7月初めにヨークシャーのベッティングショップで多数の無免許賭事マシーンが押収された。賭事委員会はこの他、パブやクラブでの違法賭事に対する闘いにも着手しつつある。

 2月に特別パンフレットが発行された。委員会は個別のケースについて言及していないが、進行中の調査については“適切な行動”を取っていくと記載している。

 “私たちは、ポスターを配布してもらうために賭事委員会に負担金を支払っているようなものだ”と主張する者もあり、これまでの委員会の活動がブックメーカーの納得を得られるかどうかはまだ分からない。しかしながら、賭事委員会と文化・メディア・スポーツ省(Department of Culture, Media and Sport)が共同で設定した年間免許料の見直しが現在進められており、“小幅の引き下げ”が提案されるというニュースは、ブックメーカーを喜ばすかもしれない。

賭事委員会の職員の職務能力に疑問

 遠隔賭事協会(Remote Gambling Association: RGA インターネット賭事・ゲーム会社を代表する組織)は、異常な賭事パターンをみつけた一部の会員が賭事委員会と連絡をとったことを明らかにしたが、どんな措置が講じられるかは不明である。

 RGAのクライブ・ホークスウッド(Clive Hawkswood)会長は、「賭事委員会は問題を持ち込めばよく聞いてくれますが、解決に時間が掛かりすぎます」と述べた。さらに同会長は、「年間およそ1000億ポンド(約24兆円)もの規模を誇る産業を支配する権限をもつ賭事委員会が、入手した情報でいったい何をしているのでしょうか」と疑問を呈した。

 ホークスウッド会長は、「RGAのメンバーは異常な賭けパターンを通知しましたが、その後その情報をもとに委員会がどのような措置を講じたか不明です」と述べ、「スポーツが不正行為にむしばまれている程度は、一部で主張されているほどひどくないかもしれません」と付言した。

 同会長は、2007年末の英国競馬統括機構(British Horseracing Authority: BHA)の経験(訳注:ファロン事件に関するBHAの経験を指す。関連記事:海外競馬情報2008年第2号)を考慮すれば、賭事委員会が高姿勢な措置に乗り出す前に慎重な手段をとることは理解できると述べ、「したがって、たとえ調査する理由が存在する場合でも、賭事委員会に慎重であって欲しいと思っていま す」と続けた。

 「賭事委員会はBHAが従前から抱えてきた問題はよく分っています。ですから、賭事委員会は行動を起こそうとする場合、完璧に根拠を固めると思います。したがって、賭事委員会が何かに関心をもった場合、少し寛大な目で見てやるべきだと思います。私は賭事委員会に対してあまり厳格になるつもりはありません」。

 ホースウッド会長は、賭事委員会の監視指導官がインターネット賭事業者の本部を視察した際に、一部の監視指導官がみせた能力と知識について、RGAのメンバーにはいろいろ意見があるようだと述べた。特定の状況下では、監視指導官らは自分が不慣れな領域に入り込んだことに気づいたかもしれないと認めた。

 同会長は次のように付け加えた。「業務に慣れるのにしばらく時間が必要です。彼らに能力不足はないが、準備を整える間もなく、所定の業務が課されたのだと思います」。

 「一般的に、彼らには親近感がもてますが、知識レベルはしかるべき水準にないようです。彼らは必要な業務経験を全く持っていない、または違う形態の規制における業務経験しか持たない人たちです。したがって、どんな専門的事項について話しても、たちまちお手上げになってしまうのです」。

賭事委員会の費用対効果に疑問

 英国ブックメーカー協会(Association of British Bookmakers: ABB)のトム・ケリー(Tom Kelly)氏は、会員が賭事委員会に支払っているものと、その見返りとして得ているものとの間に非常に大きな不均衡があるように見えるのはどうしてかと疑問を呈した。

 2007年8月ケリー氏は、賭事委員会を「その運営に1400万〜1500万ポンド(約33億6000万〜36億円)を要し、その費用は賭事産業によってまかなわれる」と負担金を容認する姿勢を示した。しかし、組織の実権を握り、近々交代することになっている次期後継者ラス・フィリップス(Russ Phillips)氏は、使途に関して不満が生じていると語った。

 「会員の多くが賭事委員会の経費内容に疑問を持っています。賭事委員会の視察を何回受けたか、委員会の職員はどのくらい滞在したかなどについて会員から情報を収集しました。それをすべて合計しても、それほど多い数になりそうにありません。次にその結果を賭事産業の負担金と比較すると、そこには非常に大きな不均衡が存在します。ですから、多くのブックメーカーが賭事委員会の活動の費用対効果に疑問を抱くのも無理はありません」。

 ABBは、賭事委員会は一本立ちするのに時間を要していると認識している。フィリップス氏は、小規模の独立賭事業者を支援するために、業者が免許条件を 適切に遵守するよう監視指導官が “指導的役割” を担っていることを称賛する一方で、中央の監視指導組織自体の必要性については疑問を呈した。

 フィリップス氏は、「監視指導官は多数のブックメーカーを強制捜査し、無免許のマシーンを発見した場合、一定の措置を講じ、没収したケースも1、2件ありました。しかし、我々の事業はこのレベルの介入を必要とするほど悪かったのでしょうか」と語った。

 場内ブックメーカー連盟(Federation of Racecourse Bookmakers)のロビン・グロスミス(Robin Grossmith)会長は、「いかなる新しい組織も学習します。場内ブックメーカーに対する免許料金の水準は正当でなく、われわれは少し落胆していま す」と述べた。

 「賭事から犯罪を排除するよう努力すべきという一般政策は素晴らしいと思います。それは我々にとって全く問題ありません。その問題は場外のほうにより深く関係しています。私たち場内の賭事業者も皆その問題はよく分かっており、全く問題はありません」。

アイルランド、専門規制機関の創設に向けて模索中

 独立ブックメーカー協会(Independent Bookmakers’ Association: IBA)のシャロン・バーン(Sharon Byrne)会長は、まだ何も準備は整っていないのでまだ先のことだと認めつつ、アイルランドも英国の賭事委員会の設立に関する動きにすぐにでも追随する 形で専門規制機関が創設されるよう望んでいる。

 バーン会長は7月3日、「アイルランドでは超党派の委員会を設けて、賭事産業の様々な側面を考察しつつあり、機は熟しています」と述べ、次のように語った。

 「統一アイルランド党(Fine Gael)のショーン・バレット(Sean Barrett)氏をその委員会の議長とする案が提案されています。近年賭事産業は巨大化しましたので、確かに委員会が必要であると思われます」。

 「オンライン賭事を経由して多額の資金がアイルランドから流出しています。もし政府が適切にこの問題に対処できればわが国に巨額の資金をもたらすでしょう。アイルランドの賭事のあらゆる側面を管理する専門機関が必要です」。

 ギャンブル依存問題を抱える人のためにコンサルティングサービスを提供するために、IBAはイギリスのガムケア(Gamcare: 賭事の及ぼす社会的影響に対処するための慈善団体)とともに活動している。

 バーン会長は、「2週間のうちに、アイルランド・ガムケア設立のために会見を開きます。9月1日から、フリーダイヤルとカウンセラーを用意したいと考えています。賭事は多くの人々にとって娯楽ですが、問題となるケースもあります。IBAはこのサービスを整備する費用をガムケアと共同で負担します」と述べた。

By Brian Fleming
(1ポンド=約240円)

[Racing Post 2008年7月4日「Not such a good bet?」]


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