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2008年07月18日  - No.14 - 1

連邦議会、サラブレッド産業界に変革を促す(アメリカ)【開催・運営】


 サラブレッド競馬界を代表する数名が6月19日、商業・貿易・消費者保護に関する米国下院小委員会の公聴会で、競馬産業の悩みとなっている競馬場における馬の死亡事故、薬物、競走馬生産の問題の解決に向けて議会の助力を求めた。

 ワシントンにおける公聴会の2大テーマは、(1) 38の競馬統括機関すべてに統一方針を実施できない競馬界の無力と、(2) 競馬産業における薬物乱用である。

 2007年の年度代表馬カーリン(Curlin)の主要馬主であり、著名なオーナーブリーダーであるジェス・ジャクソン(Jess Jackson)氏は、「競馬産業においては何かを提案しても、必ず誰かがそれに反対します。私たちはいつも業界内で問題を解決できると言っていますが、考え直さねばなりません・・。競馬産業は優柔不断と改革を遅らせることにかけては名人級です」と述べた。

 小委員会での証言で、ジャクソン氏は根本的原因として、(1) 全国的で責任ある馬主組織の欠如、(2) 透明性を欠く競馬産業の慣行、(3) 一律基準の欠如、そして最も重要なこととして、(4) 説明責任と法的強制力の欠如を挙げた。

 ジャクソン氏は、「競馬は全国的で国際的なスポーツですが、米国には一貫性のある有能な中央規制機関あるいは連合統括機関がありません。現在競馬産業にはびこる悪の多くがこれに起因していることは明らかです」と語った。

 クリフ・スターンズ(Cliff Stearns)下院議員(フロリダ・共和党)は、全米競馬委員会(national horse racing commission)の創設につながる議案が、下院のエネルギー・商業委員会に提出されるだろうと述べた。

 馬産地のオカラ地区が選挙区内にあるスターンズ議員は、この議案にはそのほか国内における馬の移動と死因に関する全国的なデータベースを作成する権限を付与する規定が設けられるだろうと述べた。

 同議員は、「競馬産業も、プロバスケットボール協会(National Basketball Association)やプロフットボールリーグ(National Football League)のような50州にまたがる委員会を立ち上げることができるでしょう。これは競馬産業が着手すべきことですが、着手しないのであれば、私たち が実行します」と述べた。

 スターンズ議員とエドワード・ホイットフィールド(Edward Whitfield)下院議員(ケンタッキー・共和党)はともに、競馬産業には極めて有利な連邦法が存在するのだから、自ら改革に取り組むべきであると、次のように指摘した。

 (1) 州間競馬法(Interstate Horse Racing Act)によってサイマルキャスト権が与えられ、(2) 2006年違法インターネット賭博禁止法(Unlawful Internet Gambling Enforcement Act)の適用除外によって、2007年の馬券売上げ147億ドル(約1兆6170億円)のうち約88%がサイマルキャストによりもたらされていることから、競馬は決定的な連邦法上の特典が与えられている。しかし、競馬産業を苦しめている問題に自ら立ち向かう努力がなければ、この特典は剥奪されかねないだろう。

 ホイットフィールド議員は、「もし連邦政府が、サイマルキャスト収益を原資として全国委員会を設立するなら、その組織の後ろ盾となる公正確保を確実なものする立法措置を講じるでしょう」と述べた。

 第1分科会には、ジョッキークラブ(Jockey Club)のアラン・マルゼリ(Alan Marzelli)理事長、カリフォルニア州競馬委員会(California Horse Racing Board)のリチャード・シャピロ(Richard Shapiro)委員長、オーナーブリーダーのアーサー・ハンコック(Arthur Hancock)氏、ESPN(アメリカの民放テレビ局)の解説者ランディ・モス(Randy Moss)氏、競馬の殿堂入り調教師ジャック・ヴァン・バーグ(Jack Van Berg)氏が出席した。

 ケンタッキーダービー(G1)とプリークネスS(G1)の勝馬ビッグブラウン(Big Brown)を管理馬に持つリチャード・ドゥトロー(Richard Dutrow Jr.)調教師は出席する予定であったが、ウイルス感染症のため欠席した。

 第2分科会には、カリフォルニア大学デーヴィス校(University of California-Davis)のスー・ストーヴァー(Sue Stover)獣医学博士、ペンシルヴェニア大学(University of Pennsylvania)のラリー・ソマ(Larry Soma)獣医学博士、馬場統計学者のメリー・スカラー(Mary Scollay)獣医学博士、外科医のウェイン・マキルレース(Wayne Mcllwraith)医師および全米サラブレッド競馬協会(National Thoroughbred Racing Association: NTRA)の最高経営責任者アレックス・ウォルドロップ(Alex Waldrop)氏が出席した。

 シャピロ氏は、競馬のために国家的な規制が必要だが、連邦政府の介入はあくまでも“最後の手段”であるべきだと述べた。

 マルゼリ氏とウォルドロップ氏はともに小委員会で、競馬産業としては政府の助けがなくとも変更に着手することができると確信していると語った。マルゼリ氏は、今週ジョッキークラブのサラブレッド安全委員会(Thoroughbred Safety Committee:TSC)が全米の競馬統括機関にステロイドの使用禁止と、新たな鞭使用ルールの適用と前肢用鉄頭歯鉄(toe grab)の使用禁止を勧告したことを説明した。

 しかしホイットフィールド氏は、ジョッキークラブはこれらの変更を行わせる強制力がないと述べた。

 小委員会が出席者に馬への薬物投与について質問したとき、ヴァン・ベルグ調教師は、「蔓延しています」と述べた。ソマ氏は、競走馬に広く使われているフロセミド[furosemide:商品名サリックス(Salix、以前はラシックスとして知られていた)]が多数の研究報告において馬の運動誘発性肺出血の予防効果もなく、運動能力向上の効果もないと指摘されていると述べた。

 ハンコック氏は、1ヵ月1頭あたり治療費が2000ドル(約22万円)という高額に上っていることを嘆きながら、「2〜3年前、キーンランド競馬場にいるときに、私はある獣医師に馬が病気でないかぎり何も投与したくないと言ったところ、彼は“アーサー、君は勝ちたいのかい?勝ちたくないのかい?”と答え ました。それにより(薬物がはびこっている)状況を理解しました」と述べた。

 誰のせいで競馬界に薬物使用が広まったのかとの質問に対し、大半の出席者は、獣医師、馬主、調教師の3者すべてであると答えた。

By John Scheinman

[thoroughbredtimes.com 2008年6月19日「House panel hears testimony on Thoroughbred industry woes」]


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