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2007年04月06日  - No.7 - 1

不正行為調査に対する騎手協会の協力の欠如(イギリス)【開催・運営】


 ロバート・ウィンストン(Robert Winston)、フラン・フェリス(Fran Ferris)、ルーク・フレッチャー(Luke Flecher)およびロビー・フィッツパトリック(Robbie Fitzpatrick)の各騎手が報酬と引き換えに内部情報を提供したとして有罪となり、2月16日に厳しい制裁を言い渡された。この事件についての騎手協会ジョン・ブレーク(John Blake)理事長の発言が2月17日のレーシング・ポスト紙に掲載された。

 ブレーク理事長は、「HRAの制裁は、騎手が今後騎乗馬に関して何らかの発言をする場合に重要な意味合いを持つであろう」と述べた。

 “情報”とは何かという難しい問題は、2月16日に下された制裁のあとにHRAの懲罰委員会が提出した報告の大部分を占めている。

 ブレーク理事長は、「ほかの騎手がレーシング・ポスト紙で読んだことを繰り返し話している場合に、その話にもとづく見解でさえも内部情報と見なされる可能性があります。今回の制裁の狙いは、騎手は自身を制裁の危険にさらさないようにするため、場合によってはさしさわりのない発言をしなければならないということです」と述べた。

 これに対し競馬監理機構(Horseracing Regulatory Authority: HRA)の保安担当理事ポール・スコットニー(Paul Scotney)氏は、2月17日内部情報の問題に関して騎手協会(Jockeys’ Association)が“非協力的”であると指摘し、怒りをあらわにしてブレーク理事長の発言を“レトリック”であると退け、次のように付言した。「これは、ブレーク理事長の言いそうなことです。ブレーク理事長は、内部情報問題の調査委員会のメンバーですが、建設的なことはほとんどしていません。ブレーク理事長のコメントは、競馬界の不正に関するHRAの調査に騎手協会のメンバー数名が示した非協力な態度の表れです。内部情報問題の解決は困難であるため、騎手協会のメンバーの十分な協力がいかに難しいのかを彼は強調しています。しかし、事件に関与した騎手のうち数名がHRAの調査員に虚偽を述べたことについて、彼は一切語っておらず、またHRAが内部情報の定義に向けて、3年間にわたり作業してきたことについて一言も述べていません」。

 ブレーク理事長の発言に対し“怒りをぶちまけている”ことを認めたスコットニー氏は、次のように付言した。「報酬と引き換えに情報を漏らす慣習が数年前にあったと思います。我々は、この慣習を変えるために可能な限りの努力をしています。これを最終的に達成するために必要なのは、2月17日のレーシング・ポスト紙でのブレーク理事長のコメントのような単なるレトリックでなく、競馬界の各分野の協力と建設的な支援なのです」。

 スコットニー氏の批判について知らされたブレーク理事長は、当初の発言は「すべての人々の意に沿わなかったかもしれない」と述べた一方で、自分のコメントは「完全に事実に基づくものである」と主張した。

 ブレーク理事長は次のように付け加えた。「私の見解は、とりわけ若く経験不足の騎手たちは、騎乗馬について人々に話す際、非常に厄介な立場に陥ることになるというのが私の意見です」。

 「ポール・ニコルズ(Paul Nicholls)氏のような調教師が、記者たちと管理馬について率直に話し合っている態度が最近賞賛されているのは当然なことです。騎手が新聞とテレビ局の両方から意見を求められることがしばしばあります。騎手が記者に協力しながら、競馬ファンの楽しみと理解を高め、かつ、それにより秘匿されるべき情報を漏らしたと疑われないようにすることは困難です。これが私の意見です」。

 「私は、HRAがガイドラインを出すことが必要だと確信しています。このガイドラインは、若い騎手の必修セミナーの一環として提供することができます。私は騎手協会の理事長に就任して以来、このことを主張してきました」。

 「競馬界の腐敗を最小限に抑えるための最善策は、予防措置を講じることだと、私は繰り返してきました。必要な時に適正な制裁を科すことに問題があるとは思いませんが、各騎手がよりどころにできる厳格な公式ガイドラインが必要です」。

 「ガイドラインがいったん実施されれば、だれもが自分の立場を正確に知ることができます。しかし、現在このガイドラインが存在していないため、問題全体が複雑になっています」。

“内部情報”問題:HRAの報告書の抜粋

  • 各騎手の個別的な被疑事実を検討する前に、競馬施行規程第243条に関する懲罰委員会の取り扱いを説明する必要がある。なぜならば、同条は各事件に一般的な関連性を持っているからである。
  • 同条の先行規定は、1990年に導入された。同条は、騎手およびその他の競馬関係免許所持者が“公的に入手できない馬に関する情報”を売り渡すことを禁止している。
  • 騎手側の主張は、規程第243条に定める“馬に関する情報”は事実のみを指し、見解を含まないということであった。

     懲罰委員会の見解では、規程第243条に定める“情報”という言葉は、広義の意味で用いられており、馬に関する事実と勝算に関する見解の両方を含んでいる。この解釈には、原理的にみても十分な根拠があり、報酬を収受し見解を伝えることは、規程第243条によって禁止される。

     勝算に関する騎手または競馬関係免許所持者の結論は、たとえば、「私に勝つチャンスがあるとは思えません」といった見解の形で表明されることがしばしばある。これは競馬ファンや賭事ファンに知られていない多くの潜在的な事柄にもとづく見解であるかもしれない。この潜在的な事柄とは、たとえば馬の軽微な負傷が最近悪化したという事実、また(極端な場合は)気づかれないように勝負を放棄しようという騎手の意図である。しかし、見解が公的に入手できる馬の調子の分析に過ぎない情報に基づいて述べられる場合でも、明らかな問題が残る。

     騎手は、見解が規程第234条の対象とならない場合は、上記のような情報をひそかに提供してかなりの報酬を受け取る可能性がある。多くの人々は、騎手の見解が公的に入手できる馬の調子に基づくものにすぎなくても、騎手の見解に対して支払う価値があると信じるかもしれない。

     しかし、競馬ファンはこのことをどのように見るであろうか。騎手が予想紙のような公の資料を本当に自分の見解の根拠としているのか、それとも騎手の見解が未公表の他の事項に全面的または部分的に基づいているのか、これを判定するのに時間のかかる調査が必要となる。調査を経ずに規制することはほとんど不可能である。また、このような調査において真実を突き止めることが困難であるのも明らかである。

  • 最後に、騎手協会のブレーク理事長が懲罰委員会に対して行った証言について議論が行われた。この証言は、騎手は次回の騎乗について騎手の見解を知りたがっている友人や競馬ファンと日々接触しており、規程第243条に関する同委員会の解釈は騎手に不合理な要求を課することになるというものである。

     ブレーク理事長は、騎手が一般的に“マントラ(伝統的な手法)”を使って勝算に対する疑いを表明しており、マントラを使うことで調査員を妨害しないようにしていると指摘した。同氏はさらに、ベッティング・エクスチェンジ(個人対個人の賭け)が存在していることに照らして、この種の見解がもたらす危険について言及した。これは、競馬ファンだけでなく、ブックメーカーも馬に賭けることができるため、勝算に関する疑問を述べるマントラは、誤解されやすいためである。規程第243条に関する懲罰委員会の解釈が、騎手を実際に難しい立場に立たせているならば、それは同規程の範囲を狭く解釈しようという強力な論拠になると思われる。しかし、事実は全くそのようにはなっていない。

     規程第243条に関する限り、騎手はそのマントラを引き続き自由に使用することができ、あるいは希望する場合は、勝算に関するより具体的な見解を自由に述べることができる。騎手が禁止されているのは、情報と引き換えに100ドル(約1万2,000円)を超える報酬を受け取ること、または情報を定期的に提供している場合は、金額を問わず一切の報酬を受け取ることである。

  • しかし、公的に入手できない情報をあえて提供しようと考えている人々にこの禁止事項を伝えることが必要である。

     第一に、誰かがこのような情報に基づいて多額の金額を賭けて勝馬を的中させた場合、情報を提供した者は、その情報を無料で提供したと言ったとしても、信じてもらえない危険を冒すことになる。

     第二に、公的に入手できない情報を無料で提供することさえ規程違反となる可能性がある。今回の事件の審理対象には、騎手が報酬を受領したことが証明され なくても、騎手はイアン・ニコル(Ian Nicholl)氏(元ブックメーカー)が秘密の情報を不正な賭事目的に使用することを助けたということも含まれているのである。

(1ドル=約120円)
By David Lawrence

〔Racing Post 2007年2月18日「Jockeys’ Association must co-operate over corruption−Scotney」〕


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