馬用鼻腔拡張テープが開発される(アメリカ)【その他】
1993年に「ブリーズライト(Breathe Right)」という商品名のヒト用鼻腔拡張テープ(nasal strips)が発売された。この商品の効能は、薬を使用しないでいびきや鼻の充血といった問題を軽減し、また彎曲した鼻中隔が原因となる呼吸困難を一時的に緩和することである。プロスポーツ選手は、鼻腔拡張テープを使用しており、このテープは運動能力を高めるのに役立つと言われている。
馬は、口で呼吸することができない動物である。激しい調教の際にある程度、鼻腔内組織が損傷を受け、その結果気道が縮小するため、必要な酸素を得るために馬はいっそうの労力を必要とする。
ジム・キアペッタ(Jim Chiapetta)獣医学博士およびエド・ブラック(Ed Blach)獣医学博士は、上記の事柄を考慮して、馬の大きい鼻腔に対応するために人用鼻腔拡張テープを改良することにした。開発された馬用鼻腔拡張テープは、薬を使わず、接着剤つきで使い捨てである。
エリクソン氏(カンザス州立大学の解剖学・生理学教授Howard H. Erickson)は、「馬用鼻腔拡張テープは、骨に支えられていない鼻腔の外側に貼るよう設計されています。アイデアは、鼻腔拡張テープが激しい調教の際に馬の鼻腔を支えて、気道内の空気の流れをスムーズにすることです。私たちは、鼻腔拡張テープの評価を依頼され、評価の結果、鼻腔拡張テープは大量の鼻出血をした馬に激しい調教を施しても再発を減少させることが分かりました。この結果は、他の試験所と競馬場で行われた調査で確認されています」と述べている。
サンドラ・バルデス(Sandra C. Valdez)獣医学博士は、2004年にカリフォルニア大学デーヴィス校(University of California at Davis)で行われた臨床研究の主任研究者であった。その研究目的は、ゴールデンゲートフィールズ競馬場でサラブレッドの調教後の肺洗浄液中の赤血球数レベルから鼻腔拡張テープの効果を判定することであった。同博士の研究結果は、鼻腔拡張テープの使用はとりわけ激しい運動誘発性肺出血(Exercise Induced Pulmonany Haemorrhage: EIPH)を起こした馬の肺出血を減らす可能性があることを示している。
大いなる議論
サラブレッド競馬産業において、矛盾する研究結果は目新しいことではない。馬のEIPHに関する研究対象は、鼻腔拡張テープから漢方薬にいたるまで広範囲である。そのほとんどは、それらの使用を推奨するための研究や事例的証拠である。多くの報告は、1つの疑問についてのみ答えているため、ほかの疑問を生じさせる結果となっている。たとえば、鼻腔拡張テープは鼻腔を広げるので、馬は馬場表面からいっそう多くの塵埃を吸い込むことはないのだろうか、余分に吸い込まれたその塵埃は馬の呼吸に悪影響を与えないのだろうか、また馬が人工馬場を走った場合はどうなるのだろうか、といった疑問である。
エリック・バークス氏(ペンシルバニア大学のDr. Eric Birks)は、次のように述べている。「研究者は、1981年からEIPHについて研究してきました。私たちは、心臓、肺および血圧について調査したほか、薬物が馬の体に与える影響も調査しました。今のところ解決策はないようです。私たちは、フロセマイド(利尿剤)の投与より、肺の血圧を大幅に下げることが、EIPHを抑えることに役立つ可能性があると考えています。次のステップは、運動能力に与える血圧降下の影響を調査することだと思われます。馬の血圧を大幅に下げた場合、馬はよく走るかどうかということです」。
エリクソン氏は、「EIPH発症馬を助ける唯一の確実な方法は、休養を与えることかもしれません。問題は、競馬は経済活動であるということです。関係者は、自分たちの馬をできるだけ早く競走に復帰させたいと考えます。大部分の競馬開催地には馬を保護するための規制があります。馬が一度鼻出血をした場合、当該馬は一定期間に休養を命じられます。馬が2回鼻出血をした場合、より長期の休養を命じられます」と述べている。
現在のところ、休養は馬が調教中および調教後に鼻出血から回復するための最善の方法である。研究者は、引き続きEIPHのメカニズムを調査し、新たな治療方法を検討することにしている。EIPHに関しては多くの事柄が知られているが、答えより疑問のほうが依然として多いのが現状である。
By Robin Stanback
〔Thoroughbred Times 2007年6月23日「The Fight for Air」〕