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2023年03月09日  - No.9 - 2

チェルトナムフェスティバル直前の鞭使用ルール変更に物議(イギリス)[開催・運営]


 BHA(英国競馬統括機構)のCEOジュリー・ハリントン氏は、競馬界の新しい鞭使用ルールは"競馬を愛することのない人々"に迎合するために導入されたのではないと述べた。

 鞭使用ルールの変更は強い批判を浴びている。障害競走のリーディングトレーナーに13回輝いているポール・ニコルス調教師は3月3日、チェルトナムフェスティバル(3月14日~17日)の直前というルール導入のタイミングを非難した。そして、競馬というスポーツの擁護者となるのにBHAには"ちょっとした気骨"が必要だと述べた。

 チェルトナムフェスティバル直前のルール変更は、大きな注目を引き起こしている。グランドナショナル(G3)とチェルトナムゴールドカップ(G1)の両方を制覇した騎手、サム・ウェイリー⁻コーエン氏は"残念だ"と述べ、競走馬に対する福祉の前向きな一歩を競馬界が披露することを熱望した。

 ハリントン氏はこう語った。「ニコルス調教師のコメントを聞いてがっかりしたのは確かです。しかし実際のところ、人気のない決定を下すには気骨が必要なのです。鞭に関する議論はいずれの側でも白熱していることは心得ています。競馬を愛することのない人々に迎合しているわけではないと強く主張しなければなりません」。

 「BHAが試みようとしているのは、競馬の公平性をしっかり保つこと、特段どちらかの意見に与しているわけではない人々に対して競馬をできるかぎり魅力的なものにすることなのです」。

 「鞭が福祉の問題かどうかについては、さまざまな立場や考え方があることは誰もが認めるところでしょう。しかし競馬がどのように見られているかの問題であるということにも誰もが同意すると思うのです。それを知りながら手をこまねいて見ているのは、怠慢と言えるでしょう」。

 「馬と密接に関わる仕事をしている人々、我々を代表する鞭検討委員会はそういう人々で占められていましたが、彼らの強く求めたのは馬を奮起させるための鞭使用を維持するということでした。なぜなら彼らは鞭を福祉の問題だとは考えていないからです。ホースマンにとって鞭は、馬を集中させ、最大の能力を発揮させ、コースを安全に周回させるために有用な道具と見なされているのです」。

 「私も鞭が福祉の問題だとは考えていませんが、このスポーツを導く立場にあります。競馬界においてこのルールについての双方の議論が白熱していること、賛否両論が巻き起こっていることを認識しています」。

 新しい鞭使用ルールでは、これまでよりも鞭使用回数は1回減らされて、平地競走で6回まで、障害競走で7回まで使うことができる。この上限回数を4回以上超過すると失格となる。またルール違反による騎乗停止処分はいっそう厳格化されている。

 ルールが導入された2月13日から1週間で、19人の騎手が鞭使用ルール違反のために騎乗停止処分を科された。また2月28日に2回目の鞭検討委員会をうけて、さらに12人の騎手が騎乗停止処分を受けたことが判明した。

 ハリントン氏はレーシングTVの『ラック・オン・サンデー(Luck On Sunday)』に出演し、こう語った。「公平性の問題があります。それに、ルールを守らない騎乗を十分に抑止すること、"どんな犠牲を払っても勝つ"という精神があってはならないことを確認する必要がありました」。

 「ルール変更には好機というものはなく、ルール変更自体が難しいものです。いつも異議を唱える人々がいるものですが、今やルールが導入された以上、その範囲内で騎乗するかどうかは騎手次第であるという明確な理解があります」。

 「騎手たちがこの調整を行うためにどれほど懸命に努力してきたかを見て本当に嬉しく思っています。称賛に値します」。

 新しいルールのもとで騎乗停止処分を受けた31人の騎手のうち、18人はアマチュア騎手か見習騎手のいずれかだった。しかし、2011年チェルトナムゴールドカップをロングランで制し2022年グランドナショナルをノーブルイェーツで制したウェイリー-コーエン氏は、チェルトナムフェスティバルで騎乗するまでに騎手には適応する時間があると堅く信じており、こう語った

 「まちがいなく、チェルトナムフェスティバルで騎乗するアマチュア騎手はうまく対処できるでしょう。導入されたルールに適応するためには時間が掛かります。頻繁に騎乗していない騎手はこの変更に慣れるために、追加的に数回騎乗することは必要でしょう」。

 「競馬界のプロ・見習い・アマチュアのどのレベルにおいても騎乗技術は向上しつつありますので、チェルトナムフェスティバルではルールを順守した騎乗ができると確信しています」と語った。

 クラス1とクラス2のレースでルール違反があった場合、騎乗停止期間は2倍になる。ニコルス厩舎に所属するローカン・ウィリアムズ騎手はチェルトナムフェスティバルで騎乗できない。2月18日のプレスティージノヴィスハードル(G2)をメイキンユアマインドアップ(Makin'yourmindup)で制した際に鞭使用回数が上限を超えてしまったために、18日間の騎乗停止処分を受けたのだ。

 ウィリアムズ騎手に科された騎乗停止処分18日間のうち4日間は鞭を肩の高さより高い位置で使用したことによるものである。このルールは議論を巻き起こしており、ルールを順守して騎乗するためにライディングスタイルを変えなければならない騎手もいる。

 昨年のグランドナショナル優勝後に騎手を引退したウェイリー-コーエン氏は、競馬界にとって残念なタイミングで鞭使用ルール変更が注目を浴びてしまったと述べた。

 「チェルトナムで繰り広げられるような輝かしいレースが、何か別の理由で影が薄くなってしまうのは残念なことだといつも思います。素晴らしいスポーツなので、常に我々は正しいプロセスに沿って正しいメッセージを送っているかどうかを自問しなければなりません」。

 「世界中において競馬は最も優れた形で馬の福祉に相当貢献しており、とても多くの素晴らしいことが馬のために行われています。そのことが鞭をめぐるこうした論争で埋もれてしまわないようにすることが肝要です。適切な議論がなされているのは確かですが、間違ったことに拘泥しないようにしたいものです」。

By Jack Haynes

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[Racing Post 2023年3月5日「Julie Harrington: new whip rules are not pandering to people who will never love the sport」]


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