モスターダフ、プリンスオブウェールズSで輝かしい勝利(イギリス)[その他]
2023年ロイヤルアスコット開催の最初の10競走は、いつもどおりの接戦が繰り広げられ、人気馬が勝利を手にしていた。6月20日(火)にセントジェームズパレスS(G1)とコッパーホースHをそれぞれ制したパディントンとヴォーバンの戦いぶりは賞賛に値するものであったとはいえ、21日(水)のプリンスオブウェールズS(G1)の前には観客全体が息をのむようなパフォーマンスは見られなかった。
英ダービー馬アダイヤーや英チャンピオンS優勝馬ベイブリッジなどの実績馬がひしめく中、大きなため息を漏らさせるような走りっぷりを披露したのは、単勝11倍で送り出されたモスターダフだった。このレースでライバルたちを大きく引き離し、正真正銘、10ハロン(約2000m)におけるエリートであることを証明したのだ。
これまでの数々のパフォーマンスを見ていれば彼の馬券を買うヒントになっただろうが、1½マイル(約2400m)での2戦と大雨の凱旋門賞(G1)での大敗が彼の才能を覆い隠していたことは間違いなかった。
モスターダフ(父フランケル)を誰よりもよく知るジョン・ゴスデン調教師でさえも、この馬がルクセンブルクとアダイヤーの追撃を力強く振り切ったことにびっくりしたと認め、こう語った。
「直線で持ち直して勢いづくだろうとは思っていましたが、ほかの馬がまるで止まっているような走りっぷりを見せるとは想像していませんでした。リヤドではネオムターフカップ(G3)でそれをやってのけ優勝していましたね。ただ突っ走るのです。乾いた馬場では抜群のパフォーマンスを見せます。他馬を突き放した瞬発力にはびっくりしましたね。ただ、こうした馬場を得意としていて絶好調だったということは分かっていました」。
ネオムターフカップでの見ごたえのあるパフォーマンスを経て、モスターダフがヒッサ王女(シャドウェルの主)の見守る中でドバイシーマクラシック(G1)に参戦することになったのは至極当然のことだった。しかし自らの才能からはいっぱいいっぱいの距離のレースであったことに加え、彼は地球上のすべてのサラブレッドよりもレーティングが5ポンド上回る馬に対峙することとなった。日本の傑出馬イクイノックスである。
ゴスデン調教師はこう語った。「モスターダフをブリガディアジェラードS(G3 5月25日)に出走させるつもりでしたが、中東遠征の疲れから完全に回復していませんでした。シーマクラシックで日本のあの馬に挑んだうえに、1½マイル(約2400m)は射程圏内を超えた距離でした。彼は1¼マイル(約2000m)が得意なのです。しかし果敢に挑んでゆき全力を尽くしました」。
ゴスデン調教師はモスターダフの今後のプランを尋ねられ、ヒッサ王女の立ち合いのもとで達成されたこの勝利がどれほど嬉しかったかをはっきり語った。
「今後のプラン?これこそがプランだったのかもしれません」。
ジム・クローリー騎手は、G3とはいえネオムターフカップでの勝ちっぷりからモスターダフへの信頼を隠してはいなかった。それにシーマクラシックでイクイノックスに果敢に挑んだことで犠牲を払うことになったという考えは、まさにそのとおりだと思っていた。
「モスターダフは序盤では少しかかるので御しにくいですが、いったん仕事に集中すると能力を発揮する馬なのです。サウジでそれを目の当たりにしました。ドバイではおそらく、イクイノックスに対してうまく狙いを定められなかったのかもしれません。あの日イクイノックスを追い詰めようとしたのは、自ら墓穴を掘るようなものでした」。
「でも、今回距離を1¼マイル(約2000m)に戻したことが鍵になりました。この馬は以前から調子が良かったですし、絶好調であることは分かっていました。素晴らしいレースを勝ったものです」。
「厩舎の人たちはモスターダフを万全の状態に仕上げてくれました。ドバイから帰ってきたときは少しおとなしくて、たぶんサウジとドバイへの遠征で予想以上に疲弊していたのだろうと思います。彼らは回復を忍耐強く待ち、このレースを目標にしていて、それが結実したのです」。
年初には、10ハロン(約2000m)路線に優秀な古馬があふれているように見えたが、真夏に近い今、モスターダフはその特別な集団の再編成を余儀なくさせる。
彼は最後の直線に入ってからの2ハロン(約400m)を23秒43で駆け抜けた。このヨーロッパの夏に太陽が照り続けるのであれば、彼は人々の心を引きつけるだろう。
ゴスデン調教師は間近に迫ったエクリプスS(G1 7月8日)を目指すことはなく、英インターナショナルS(G1 8月23日 ヨーク)を待つことになりそうだ。
バーイードの勝利から1年、ヒッサ王女は今やヨーク競馬場にふたたび足を運ぶのに素晴らしい新たな理由を手に入れた。
By Scott Burton