急死した種牡馬ラオバンに"ブラックショット"を打った獣医師に制裁（アメリカ）［獣医・診療］

　種牡馬ラオバン（当時9歳）の急死の数分前に "ブラックショット（black shot）"を注射した獣医師が、ケンタッキー州獣医検査官委員会（Kentucky Board of Veterinary Examiners: KBVE）から制裁を科されることに同意した。

　ヘザー・ウォートン獣医師はKBVEにより掛けられた嫌疑に異議を唱えないことを選んだ。彼女はラオバンに適切な標準治療を行わず、KBVEはケンタッキー州法への違反行為が6件あったと定めた。

　公開記録請求を通じてKBVEから入手した記録によると、ウォートン氏には3月15日からの90日間の獣医師免許停止処分と過怠金3万ドル（約405万円）が科された。ウォートン氏は免許停止処分中に獣医師の助手や技術者として働くことも禁じられている。また彼女は社会人教育のクラスを自費で修了することに同意した。薬物の相互作用と投与量、投薬の効果と手順、アナフィラキシーショックなどの医療緊急事態の管理に関するクラスである。

　調査報告書はコイ・セントクレア獣医師により作成された。ウォートン氏はセントクレア獣医師に対し、種付所でラオバンが"牝馬に跨るのに苦労していた"と話した。衝撃波治療や非ステロイド系抗炎症剤を試し、ロッド＆リドル馬診療所は首の痛みを治療するために注射を打ったが問題は解決せず、最終的にラオバンは種付けを拒んだ。

　報告書によると、ウォートン獣医師はウィンスターファームで経営陣に会い、活力を増進することを期待してラオバンにB12を注射することで合意したという。ウォートン獣医師はその後「ビタミンC、ビタミンB12、Bコンプレックス、鉄」のカクテルを調合し、ラオバンに注射して約1分後に彼のもとを去った。その数分後、ウォートン氏は 「ラオバンが馬房の中で倒れて震えている」と電話で告げられた。「彼を安定させようとしましたが、反応せず、まもなく息を引き取りました」とウォートン氏はセントクレア獣医師に伝えた。10分ほどの出来事だった。

　ウォートン氏は、サンタアニタパークでこのカクテルを何度も使ってきたが何ごともなかったと述べた。カクテルの一部には消費期限切れのボトルから出たものが含まれており、ウォートン氏はセントクレア獣医師に対し"消費期限を見なかった"と語った。

　KBVEはウォートン氏に対する苦情が3件あったことから調査を開始した。1件は匿名、1件はPETA（動物の倫理的扱いを求める人々の会）の上級副会長によるもの、1件はアニマル・ウェルネス・アクション（Animal Wellness Action）という団体を代表してのものだった。

　ルイビル・クーリエ・ジャーナルがラオバンの死に関する報道を行ったことで、この議論は初めて露呈した。ラオバンの死は、サイプレスクリークエクワイン（Cypress Creek Equine）が北米専門保険会社（North American Specialty Insurance Company：NASIC）を相手取って起こした訴訟で明らかになっていた。本誌（ブラッドホース誌）もこの記事を取り上げている。NASICはラオバンの死に伴う死亡保険の支払いを拒否した。ウォートン氏が危険な配合の注射をしたために種牡馬が死んだと結論づける独自の調査報告を引用したのだ。この訴訟は継続中である。

　NASICの請求拒否の手紙には基本的にこう記されている。「獣医師によって予防的な性質があると証明された場合や馬の事故・疾病・障害のために必要とされた場合を除き、馬への薬物投与によって引き起こされた、またはそれに起因する死亡について、保険会社は責任を負わない」。NASICによると、ウォートン氏は調査中、注射はこれらのいずれかの理由で投与されたわけではないと述べたという。

　NASICは、ウォートン氏が「ビタミンC、ビタミンB12、Bコンプレックス、鉄」の調合を一方的に決定したと結論付けた。彼女はこの調合を"ブラックショット"と呼んでいた。

　請求拒否の手紙によると、ウォートン氏は2021年7月、録音された声明の中で「ラオバンがアナフィラキシーショックの結果死んだというのが私の意見です」と宣誓したうえで述べていた。

By Dick Downey

（1ドル＝約135円）

［bloodhorse.com 2023年4月3日「Veterinarian Agrees to Suspension in Laoban Death」］