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2022年02月24日  - No.7 - 1

メディーナスピリット、2021年ケンタッキーダービー優勝は取消(アメリカ)[開催・運営]


 2021年ケンタッキーダービー(G1)の競走後検査でのメディーナスピリットの陽性反応について、ケンタッキー州の裁決委員会による審問が9ヵ月以上も続いたのは異例のことだった。しかし彼らは2月21日、むしろ標準的な裁定を下した。

 ケンタッキー州の裁決委員会は2月21日、コルチコステロイド・ベタメタゾンが競走後検査(および分割サンプル血液検査)で検出されたため、ゼダンレーシングステーブルのメディーナスピリットのケンタッキーダービー(2021年5月1日 チャーチルダウンズ)の優勝資格を取り消した。コルチコステロイド・ベタメタゾンは同州でいかなるレベルであっても競走当日の使用が禁止されている。また同馬を管理した競馬殿堂入りトレーナー、ボブ・バファート調教師には、90日間の出走停止処分と過怠金7,500ドル(約86万円)が科された。上訴の結果が出るまでの間、出走停止期間は3月8日から6月5日までとなる。

 ケンタッキー州ではベタメタゾンはペナルティクラスCの物質であり、そのレベルはクラスAやBの薬物に比べて"競走能力に影響を与える可能性はより低い"と考えられている。裁決委員会が下した処分は、このような検査結果に対するケンタッキー州の推奨制裁規定に即したものとなっている。

 また、馬の失格と賞金没収というかたちで馬主に対して制裁を課すことも推奨されている。バファート調教師への制裁はクラスCの物質が検出されたという結果に基づいたものだが、ダービー前の12ヵ月間に薬物検査で4回不合格になったことが考慮されたようだ。3回以上の違反でクラスCの物質について推奨される制裁は通常、出走停止処分30日~60日間と過怠金2,500~5,000ドル(約29万~58万円)とされている。

 ケンタッキー州競馬委員会(KHRC)のマーク・ギルフォイル専務理事は2月21日、この裁定に関してさらにコメントすることを控えた。

 バファート氏を担当するクレイグ・ロバートソン弁護士は、「即時上訴します」と述べ、「今回の裁定にとても失望しています。この事案について科学的に証明された事実と、KHRCのルールに反しています」と語った。

 最初の上訴は規制レベルで検討されKHRC全体に対して行われる。通常このような上訴の場合、KHRCは審問審判官を招き、彼らは証拠と証言を検討したのちにKHRCに勧告を行う。KHRCは通常その勧告に従うが、拘束はされない。

 もちろん、関係者は規制についての裁定を上訴する権利を持っている。KHRCの裁定に対する上訴は通常、フランクリン群巡回裁判所(ケンタッキー州)で始まる。

 裁決委員会の裁定によりメディーナスピリットはケンタッキーダービー(19頭立て)で最下位とされ、ジャドモントファームの自家生産馬マンダルーンの優勝が宣言された。ほかのすべての出走馬の着順は1つ繰り上げられる。これらの変更はジャドモントファーム、ブラッド・コックス調教師、フロラン・ジェルー騎手にケンタッキーダービー初制覇をもたらす。2着にホットロッドチャーリー、3着にエッセンシャルクオリティ、4着にオーベソスが入る。

 チャーチルダウンズ競馬場は声明でこう述べている。「チャーチルダウンズは本日、マンダルーンを第147回ケンタッキーダービーの優勝馬と認め、オーナーブリーダーのジャドモントファーム、ブラッド・コックス調教師、フロラン・ジェルー騎手にお祝いを申し上げます。ケンタッキーダービーを勝つことはスポーツ界で最もエキサイティングな快挙の1つであり、この稀な栄誉にふさわしい方法でマンダルーンを後日祝福できることを楽しみにしています」。

 マンダルーン(父イントゥミスチーフ)は2着から1着に繰り上がったことで、賞金を126万ドル(約1億4,490万円)追加し、その生涯獲得賞金は300万ドル(約3億4,500万円)を突破した。父イントゥミスチーフは2021年の北米リーディングサイアーに輝いており、今回の賞金加算で昨年の産駒獲得賞金総額は2,560万ドル(約29億4,400万円)を超えた。

 ジャドモントファームの米国のジェネラルマネージャーであるギャレット・オールーク氏は、「これから上訴手続きが始まることは周知の事実ですので、コメントは控えさせていただきます」と述べた。

 バファート調教師はメディーナスピリットがジョン・ヴェラスケス騎手を背に先行逃げ切りの勝利を決めたときに史上最多のダービー7勝を達成していたが、この失格処分により1勝が剥奪された。それは2021年に競馬殿堂入りを果たしたヴェラスケス騎手にとっても同じだった。彼はそれまで2020年のオーセンティック(ボブ・バファート厩舎)などでダービー3勝を挙げていた。

 競走後検査で陽性反応を示してケンタッキーダービーの優勝資格が剥奪された馬は、史上2頭目である。1968年にダンサーズイメージがフェニルブタゾン("ビュート"とも呼ばれる)の陽性反応により失格となった。長年の訴訟の末、その裁定は有効となりフォワードパスが優勝馬となった。

 2019年のダービーではマキシマムセキュリティが1位入線したが、最終コーナーで走行妨害をしたと判断され17着となり、カントリーハウスが1着に繰り上げられた。

 バファート調教師の弁護士たちは法廷で、メディーナスピリットがベタメタゾンの陽性反応を示したのは、後躯の皮膚病を抗真菌性軟膏オトマックスで治療したことに関係があると主張してきた。彼らはその後、ニューヨークの研究所で実施された検査は競走後検査の陽性反応が注射ではなく軟膏によるものだったという説を裏づけていると述べている。

 ニューヨーク馬薬物検査研究所のジョージ・メイリン博士による検査についての声明(12月3日発表)において、ロバートソン弁護士は検査結果が軟膏を原因と指摘するだけでなく、ケンタッキーのルールは軟膏に含まれるベタメタゾンの種類に対しては適用されないと付け加えた。2月20日の裁決委員たちによる裁定では、その区別はされていなかった。

 ダービーの競走後検査での失格から数ヵ月間、KHRCはほとんどコメントを出さなかった。陽性反応が出たことさえ、最初の検査結果を知らされたバファート調教師が自ら発表した。しかしKHRCの裁決委員はバファート調教師と馬主のアムル・ゼダン氏の弁護士の主張には同意していない。これらの弁護士は、彼らが注射で投与されると論じる"酢酸ベタメタゾン" に対してのみケンタッキー州のルールは適用されるが、それは検体から検出されなかったと主張した。そして軟膏のオトマックスに含まれ、検査で検出された唯一の種類である"ベタメタゾン吉草酸エステル"に対してはルールは適用されないと主張した。

 尿検体がニューヨークの研究所に送られる前の6月、ケンタッキー州での法廷審問でKHRCのジェニファー・ウォルシング法律顧問はKHRCの禁止物質リストの中でベタメタゾンの禁止はクリームと注射のあいだで区別されていないと述べていた。

 このベタメタゾンの種類についての議論は、上訴でも主なポイントになるものと思われる。

 バファート氏を担当するクラーク・ブルースター弁護士はこう語った。「検査結果は明らかだったはずです。"ベタメタゾン吉草酸エステル"は馬に投与できる許容物質です。注射したわけではありません。そしてそれは獣医師の指示により使用され、獣医師は同時にKHRCがケンタッキーダービーの前にアクセスできる全米のデータベースにその治療を報告していました。ルール違反はありませんでした」。

 「審問で立証された反論や異論の余地のない事実は次のとおりです。(1)メディーナスピリットは注射ではなく軟膏で治療された、(2)検出された微量のベタメタゾンが馬に何らかの影響を与えることはなかった、(3)検出された微量のベタメタゾンが競走結果に影響を与えることはありえなかった」。

 「言いかえれば、軟膏はまったく無関係でありそれがあってもなくてもメディーナスピリットは勝っていたのです。この馬が挙げた勝利を奪うという裁決委員の裁定は法に従ったものではなく、偏りがあり意図的で不当な措置です」。

 ベタメタゾンは一般的に関節注射として投与され、治療目的での使用が認められている。しかしケンタッキー州の基準は競走前の14日間を休薬期間とすることを要求している。2021年のダービーの9ヵ月ほど前、バファート厩舎のガミーンは、9月4日のケンタッキーオークス(G1 チャーチルダウンズ)の競走後検査でベタメタゾンの陽性反応を示したため3着の資格を剥奪されていた。獣医師がオークスの18日前にガミーンに注射したことで体内に薬物が残留していたとバファート氏は主張したが、過怠金1,500ドル(約17万円)を科された。

 メディーナスピリットのダービー後のベタメタゾン検出により、バファート氏の管理馬が禁止薬物の陽性反応を示したのはちょうど1年間で5回目となった。バファート氏への制裁が上訴でも維持されれば、2020年5月2日から始まった競走後薬物検査での失格による同氏への制裁は、ちょうど1年間で5回目となる。そうは言っても、過去4回の制裁には出走停止処分は含まれておらず過怠金のみだった。

 メディーナスピリットを所有して出走させてきたゼダンレーシングステーブルのレーシングマネージャーであるゲイリー・ヤング氏はこう語った。「ゼダン氏が上訴するかどうかは分かりません。チャーチルダウンズ社(CDI)は明らかに、コールダー競馬場・アーリントンパーク競馬場・ハリウッドパーク競馬場よりも、この1つのレースに関心を持っています。もしガミーンがオークスで陽性反応を示さなければ、おそらくこれについては取りざたされなかったでしょう。この馬には注射をされておらず、誰もその事実に異議を唱えていないのです」。

 メディーナスピリット(父プロトニコ)は12月6日、サンタアニタパークでの追い切りのあとに急死した。心臓発作によるものだと思われるその突然死は、カリフォルニア州の規制当局によって調査されている。同馬はBCクラシック(G1)でニックスゴーの2着に入り、2021年のシーズンを終えていた。

 バファート氏が5月9日にメディーナスピリットが競走後検査で陽性反応を示したと発表したとき、この馬にそれまでベタメタゾンを使用したことはないと当初説明していた。その2日後の5月11日になって、ロバートソン弁護士が陽性反応はオトマックスが原因だとする声明を発表した。オトマックスのパッケージにはベタメタゾン吉草酸エステルが成分として記されており、なぜそれを使用することにしたのかが疑問視された。

 バファート氏とゼダンレーシングステーブルの弁護士たちは法廷において、馬が定期的にこの軟膏で治療されていたことが診療記録に示されていると主張している。メディーナスピリットの当初の検査とフォローアップの分割サンプル検査では、いかなるレベルでも競走当日の使用が禁止されているベタメタゾンの存在が示された。2つの検査では、血液または血漿1mlあたり21ピコグラムと25ピコグラムが検出された。

 製薬会社メルクは犬の耳の感染症の治療薬としてオトマックスを販売している。しかしバファート氏はロバートソン弁護士を通じた声明において、ケンタッキーダービーに向けてメディーナスピリットの後躯の発疹を治療するためにこの軟膏が使われたと述べている。

 ファーストレーシング(1/ST Racing)の最高獣医責任者であるディオンヌ・ベンソン博士によると、オトマックスによる治療はカリフォルニア州で報告されていたという。2月20日のケンタッキー州の裁決委員たちによる裁定ではダービーの前にケンタッキー州でその治療が報告されたかどうかは示されず、ギルフォイル専務理事がKHRCの広報担当に対してその質問を問い合わせた。

 バファート氏はダービーの検査結果が発表されて以来、CDIおよびNYRA(ニューヨーク競馬協会)が運営する競馬場での管理馬の出走を禁止された。同氏の管理馬はダービー出走資格を得るための"ロード・トゥ・ザ・ケンタッキーダービー・シリーズ"でポイントを獲得できない。これらの措置はケンタッキー州の競馬を統括するKHRCではなく、各競馬場運営者が取ったものである。

 競馬場の決定は、運営者が異なる競馬場とのあいだに相互性がない。しかし、競馬統括機関による裁定はほかの州の競馬統括機関によって尊重される。バファート氏の出走停止が上訴で覆らなければ、ケンタッキー州での出走停止処分は相互性に基づいてほかの競馬統括機関によって尊重されることなる。

 そのうえほかの競馬場運営者は、競馬場運営者としての措置を選択できる。ファーストレーシングが運営するバファート氏が主要拠点とするサンタアニタパーク競馬場(カリフォルニア州)は、CDIとNYRAが出走停止を決定したときに同氏に対して何の措置も取らなかった。同競馬場は6月2日、「KHRCの措置を待ち、その規制プロセスが終了した時点で判断を下すでしょう」との声明を発表している。

 ベンソン博士は2月20日、サンタアニタ競馬場とファーストレーシングが措置を講ずるにしても上訴の手続きのあとになるだろうと述べた。

 バファート氏はNYRAの裁定に対して上訴を行い、初めに法的勝利を収め、昨年のサラトガ競馬場での開催に管理馬を出走させることができた。NYRAは出走停止に関する方針を更新し前進した。この事案は1月28日に同氏の前で行われた最終弁論を経て、審問審判官の手に委ねられている。

 NYRAはこのプロセスに関する声明においてこう述べている。「聴聞報告書には事実の調査結果、結論、推奨される処分が含まれます。もし審問審判官がNYRA運営の競馬場への上訴人のアクセス権や何らかの活動に携わる権利の取消しまたは停止が正当であると判断した場合、聴聞報告書には取消しまたは停止が発効する期間が記載されなければなりません」。

 バファート氏がCDIの出走停止に対して法的な異議申立てを行うつもりであるという報道もあったが、2月20日時点ではそれは行われていない。

 メディーナスピリットの優勝資格が取り消される前、バファート氏はケンタッキーダービー7勝を挙げ、このレースの最多勝トレーナーとして君臨していた。しかし今では1938年~1952年に6勝を挙げたベン・ジョーンズ氏とダービー勝利数でふたたびタイになった。

 CDIが現在言い渡している出走停止により、バファート氏は2024年までダービーに管理馬を出走させることができない。バファート氏はプリークネスS(G1)を7勝、ベルモントS(G1)を3勝しており、それらの勝馬の中には三冠馬のジャスティファイ(2018年)とアメリカンファラオ(2015年)が含まれる。

By Frank Angst and Byron King

(1ドル=約115円)

[bloodhorse.com 2022年2月21日「Medina Spirit Disqualified From 2021 Kentucky Derby Win」]


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