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2022年12月22日  - No.48 - 3

タイガーロールでグランドナショナル連覇のラッセル騎手が引退(アイルランド)[その他]


 史上最高の障害ジョッキーの1人、デイヴィ・ラッセル騎手(43歳)が騎手を引退した。ゴードン・エリオット調教師は彼のことを競馬界のレジェンドだと称賛した。

 12月18日(日)にサーレス競馬場で、ラッセル騎手がリバティダンス(エリオット厩舎)に騎乗してメイン競走であるアイリッシュEBFメアズノヴィスハードル(L)を制した後、この発表がされた。ラッセル騎手の23年以上にわたる輝かしいキャリアにおいて、リバティダンスは1,579頭目にして最後の勝馬となったのだ。初勝利は1999年5月20日にゴーランパーク競馬場でのハンデキャップハードルでライトンロイヤル(Right'N'Royal)に騎乗して達成したものだ。

 ラッセル騎手の引退は以前から囁かれてきた。そして、彼のように障害競馬界に深く根ざしている騎手が引退レースとしてサーレス競馬場のこの控えめなレースを選ぶのはぴったりのことだった。

 サーレスのリステッド競走での勝利はそれほど大きな栄光をもたらすものではなく、ラッセル騎手にトレードマークである手を振って天を仰ぐしぐさ(自ら考えた西部劇映画へのオマージュ)を促すほどのものではなかった。しかし皆を油断させたのはむしろうまいやり方に思えた。それに、彼はそこにいないはずだった。騎乗を予定していたナヴァン競馬場でのレースが中止になり、デニス・オリーガン騎手に代わって騎乗することになったのだ。

 ラッセル騎手はこの決断のタイミングについてこう語っている。「格好の機会でしたし、ここで引退するのは素晴らしいことなのです。毎週木曜日にここで騎乗しているときのような気分です。サーレスは私たちのスポーツの中心地のようなものです」。

 「ここで引退できたのは特別なことですし、最後にティム(・オドリスコル氏)の馬で勝利を挙げられたのも特別なことです。ティムは私とエリオット厩舎を素晴らしくサポートしてくれました。またゴードンの管理馬で終わることができたのも言うまでもなく特別なことです。彼は私にとって長年にわたってとても重要な存在でした」。

 「ちょうど良いタイミングがめぐってきたように思います。引退することは少し前から頭の中にあったのです。次に勝利を挙げたら引退すると言っていたのですが、天候のせいで多くのレースが中止になっていたのです」。

 この20年間でのハイライトを聞かれたラッセル騎手は、「初勝利も最後の勝利も記憶に残るものになるでしょうが、タイガーロールのことを避けることはできないでしょう」と述べた。

 ラッセル騎手はタイガーロールでグランドナショナル(G3)を連覇し、ロードウィンダミアでチェルトナムゴールドカップ(G1)を制した。最も成功した現役の障害ジョッキーであり、フランキー・デットーリ騎手が2023年末に引退することを発表したわずか24時間後に、この電撃的な引退が宣言されたのである。

 今年のチェルトナムフェスティバルではめずらしく勝利に恵まれなかったが、ラッセル騎手は最後のシーズンに見事なビッグレース制覇を果たした。ガルヴィンでサヴィルズチェイス(G1)、コンフレーティッドで愛ゴールドカップ(G1)を制したほか、スリーストライプライフに騎乗してマージーノヴィスハードル(G1 エイントリー)で勝利を収めたのだ。

 ジャック・ケネディ騎手がエリオット厩舎の主戦騎手の座に引き上げられたが、ラッセル騎手は引けを取らず、リバティダンスでの勝利は今季27勝目となった。ケネディ騎手の昇進を考えれば、騎乗を依頼された馬の質は同じではなかっただろうが、依然として多くの馬に乗り続けていたことはその柔軟性を証明するものだ。

 エリオット調教師はラッセル騎手に敬意を表してこう語った。「デイヴィは競馬界の伝説的存在です。大一番になればなるほど、素晴らしいパフォーマンスを見せました。信頼できる存在であり、今や20年以上になりますが、安定して見事な騎乗をしてきました。私の成功に大きく貢献してくれ、厩舎のチームにとって常に大きな存在でした」。

 「厩舎にいるすべての若者に尊敬されています。アドバイスや正しい方向への指導が必要な時、まずはデイヴィの所に相談にいくのですが、彼は多くの人に惜しみなく力を貸したものでした。今やジャックがその役割を引き継ぐときであり、彼はそのチャレンジに向けて十分意欲的だと思います」。

 ラッセル騎手は重傷を負って11ヵ月間戦線離脱していたが、2021年9月に復帰して騎乗を再開した。2020年のマンスターナショナルで騎乗したドクターダフィーが他馬と衝突して転倒したときに、彼は椎骨のC6とC7を骨折しT1を脱臼した。しかし、多くの傍観者の予想を裏切り、最終的に復帰を果たした。

 ラッセル騎手は当時を振り返った。「首を骨折したときは少しショックでした。人々は私が引退すると思っていたのです。怪我で引退となってもしようがないことですが、自分のやり方で最後をむかえたほうが満足できると考えたのです。当時それは普通じゃないと思われたかもしれませんが、家族は私の決断に疑問を挟まずにいてくれました。家族のおかげですね。でも、リハビリをやり遂げるためには背中を押してくれるものが必要だと思っていましたし、復帰を果たすことが一番のインセンティブになっていたのです」。

 ラッセル騎手はチェルトナムフェスティバルで通算25勝を挙げてこの祭典で最も活躍した現役騎手として舞台を去っていく。

 その年齢と負傷歴にもかかわらず、半分の年齢の男性がもつようなハングリー精神と颯爽とした振舞いで騎乗を続けてきた。

 2014年チェルトナムゴールドカップではジム・カロティ厩舎のロードウィンダミアに騎乗し、2着のオンヒズオウンの走行を妨害したとして裁決委員の審議を受けながらも劇的な勝負を制した。それでもラッセル騎手の最も物語に満ちたタッグはタイガーロールに騎乗して達成された。

 彼らは2019年に1974年のレッドラム以来となるグランドナショナル連覇を達成し、エイントリーの歴史に画期的な一コマを残したのだ。

 今年3月のチェルトナムフェスティバルではグレンファークラスチェイス(クロスカントリーチェイス)で最後の障害を先頭で通過して、タイガーロールの物語にロマンティックなクライマックスが用意されたかのように見えた。しかしジャック・ケネディ騎手が騎乗するデルタワークだけに先着され、パーティーは台無しになった。デルタワークも同じくエリオット厩舎の所属で、ギギンズタウンハウススタッド(オーナー:マイケル・オリアリー氏)の所有馬である。

 タイガーロールにとって望んだとおりのラストランではなかったかもしれない。しかし、このレースは間違いなくチェルトナムの伝説において最も忘れがたい瞬間の1つになっただろう。

 コロナ禍によりタイガーロールのチームが2020年に史上初のグランドナショナル3連覇を達成する機会は失われた(訳注:レッドラムはこのレースを3勝しているが連覇ではない)。そして2021年と2022年は馬主のオリアリー氏がハンデキャッパーの定めた斤量に異議を唱えたためタイガーロールはこのエイントリーの看板レースを回避することになった。

 タイガーロールの3月の引退は決まっていた。ラッセル騎手自身もその華々しい23年間のキャリアに終止符を打つことになった。

 コーク州出身であることを誇りとするラッセル騎手は、エデル夫人とのあいだに5人の子どもがいる。近年では最も尊敬される大一番に強い騎手の1人となっていた。通算でG1・58勝を挙げており、その中には2019年パリ大障害(G1)でカリアクー(Carriacou 馬主:イザベル・パコー氏)に騎乗して達成した記憶に残る勝利が含まれている。

 しかし彼の類まれな落ち着きと凄まじい信念の真価があからさまになったのは、毎年3月に行われるチェルトナムフェスティバルにおいてである。このフェスティバルでの記録を保持しながら引退する。これまでチェルトナムフェスティバルで活躍した名手のリストにおいて、ラッセル騎手はルビー・ウォルシュ騎手、バリー・ジェラティ騎手、サー・アンソニー・マッコイ騎手に次いで、パット・ターフ騎手とともに4位に入っている。

 2018年には4勝を挙げてチェルトナムフェスティバルのリーディングジョッキーとなっている。2006年にネイティブジャックに騎乗してクロスカントリーレースを制してフェスティバル初勝利を挙げて以来、これまで参戦した16回のうち14回のフェスティバルにおいて1勝以上を達成した。

 英国とアイルランドで通算1,579勝を挙げたラッセル騎手は最多勝ランキングで9位に入っている。

 このランキングでラッセル騎手の上にいるのは、マッコイ、ジョンソン、ウォルシュ、ジェラティ、リチャード・ダンウッディ、ピーター・スカッダモア、ヒューズ、ポール・カーベリーの各騎手であり、10位にはトム・スカッダモア騎手が入っている。

By Richard Forristal and David Jennings

(関連記事)海外競馬ニュース 2019年No.14「タイガーロール、レッドラム以来のグランドナショナル2勝を達成(イギリス)

[Racing Post 2022年12月18日「'The stars just seemed to align' - legendary rider Davy Russell retires」]


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