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2022年11月02日  - No.41 - 1

ゴールドトリップ、感動的なメルボルンカップ優勝をもたらす(オーストラリア)[その他]


 世界最高峰のレースを取材しているジャーナリストが突然、感極まった見知らぬ人に抱きつかれるのは異常な出来事である。しかし、決して嫌な経験ではない。実際、ゴールドトリップがメルボルンカップ(G1 11月1日 フレミントン)を制したときに幸福感に包まれたことはめったにない喜びだった。

 豪州ではメルボルンカップはどのレースも達することができないような領域に達している。国民の心に根づいたターフの宝物である。第162回メルボルンカップの優勝馬関係者の中には、スターダムにのし上がった英国人もいて、彼の躍進ぶりには目を見張るものがある。しかし、デヴィッド・ユースタス調教師はびっくりするほど落ち着いていたが、この瞬間の重要性をしっかりと理解していた。"ザ・ビッグ・D"の異名をとる彼にとって非常に重要な日になった(彼は非常に大きな赤ん坊だったらしい)。

 メルボルンカップデーは早くから始まった。第1レースは午前10時45分の発走であり、その35分後にはマクドナルド主催のハンデキャップ競走が行われた。メルボルンカップの3時間以上前のそのレースで来年のメルボルンカップの優勝馬を発掘したと信じる者がいる。

 「2023年メルボルンカップ! 2023年メルボルンカップ!」ととりわけ熱狂的な馬券購入者が叫んだ。かつてジョセフ・オブライエン厩舎にいたホワイトマーリンがそのレースでたやすく5戦5勝を達成して、ガイ・ウォーターハウス調教師に気の早いエールを送ったのだ。この調教師には驚くべき自然の力があるのか、月曜日のメルボルンカップパレードで常にセルフィーのために呼び止められていた。そして、ここでもかなり多くの人に呼び止められていた。

 豪州競馬界のファーストレディは、「この馬がメルボルンカップに出られない理由が分かりません。素晴らしい馬でトモも力強いのです。ワクワクするような馬ですよ」と語った。

 ウォーターハウス調教師の帽子も同様だ。小さいシルクハットのようなもので、この有名人の頭の上にどうにか止まっているといった状態である。彼女はこう説明した。「フィリップ・トレーシー(英国の帽子ブランド)のものなのです。ロイヤルアスコット開催の前に欲しかったのですが、フィリップは時間がないと言っていたのです。この帽子には素晴らしい逸話があります。英国が朝になったら彼にメッセージを送ってその話を聞いてみてください」。

 これは野心的な帽子業界の提案であったと言わざるを得ない。同様に野心的だったのは、ウォーターハウス調教師とエイドリアン・ボット調教師のコンビが出走させた2頭のうちの1頭、ナイツオーダーが残り½マイル(約800m)の地点で見せた動きである。

 ナイツオーダーは先頭に躍り出ると後続を引き離しにかかったが徒労に終わった。道悪を得意とするこの馬は大好きな馬場状態で行われたレースで燃え立ってしまったのだ。そのすぐ後に続いたのが、英国から遠征してきた大本命のドーヴィルレジェンドだ。しかしこの馬にとって馬場は重すぎ、距離は長すぎた。

 マーク・ザーラ騎手が騎乗していたゴールドトリップは、ドーヴィルレジェンドのすぐ後ろについてフレミントンの最後の直線に入り、その後はまさに完璧な展開となった。

 2年前、ゴールドトリップは凱旋門賞(G1)で4着となった。そのときはまだ1勝しかしていなかった。フレミントンの発走ゲートに入ったときも、1勝馬のままだった。

 それまでにゴールドトリップはシンジケート会社のオーストラリアン・ブラッドストックに購買され、キアロン・マー調教師と英国人のユースタス調教師の厩舎に移籍した。

 ゴールドトリップは2021年コックスプレート(G1)でレーシングヴィクトリア(RV)の獣医検査で除外され物議を醸した。2022年のコーフィールドカップ(G1)では最後の数完歩でとらえられてしまい、今年のコックスプレートでは何度も抜け出すチャンスを逃して、多くの馬の後塵を拝した。しかし今回は何の問題もなかった。

 残り1½ハロン(約300m)で先頭に立ったゴールドトリップは2馬身差でエミッサリーを破り、同厩舎のハイエモーシャンが3着に入った。ドーヴィルレジェンドは4着、同じく英国調教馬のウィズアウトアファイトは13着だった。

 ユースタス調教師はこう語った。「今日勝てたのはコックスプレートでの走りのおかげです。あの日、トラックギャロップをしたぐらいだったのですが、そのことがここに来る自信につながったのです。本当に信じられません」。

 その言葉どおり、ユースタス調教師は冷静で落ち着いていながらも、何ひとつ信じられないような表情をしていた。ユースタス調教師はニューマーケットで生まれ育ち、父ジェームズは元調教師で、兄弟のハリーも調教師である。8年前に豪州に来て、そのまま帰国しないことを選んだ。

 休日に向けて準備することは、今はきっと無理だろう。マー調教師とともに運営している調教事業が巨大であるだけになおさらだ。2人は豪州の6つの拠点で、現役馬250頭を管理していて、600頭が入厩予定である。

 ユースタス調教師はマー調教師との関係についてこう語った。「キアロンが中規模の調教事業から始めて急成長しつつあったとき、素晴らしい機会を与えてくれたのです。彼は調教助手を必要としていました。今では幸運にも、素晴らしいホースマンであり頭の切れる彼と一緒に働くことができています。私たちはますます力をつけています。彼には本当に感謝しています」。

 2人の調教拠点の1つは、マー調教師の兄弟であるデクランによって経営されている。デクラン・マー氏はこう述べた。「夢のようです。まだ信じられませんね。キアロンと私はウィンズロウ(ヴィクトリア州西部)出身の酪農家ですが、メルボルンカップで勝ったのですよ。おそらく酪農家よりも調教師に向いているのかもしれませんね」。

 ゴールドトリップはそれが本当であることを証明したように見えた。

 表彰式が始まると、デクラン・マー氏がユースタス氏に「さっさと表彰台においで、ビッグ!」と叫んた。すでにそこには、オーストラリアン・ブラッドストックのディレクターであるジェイミー・ラヴェット氏の姿もあった。彼は2014年にプロテクショニストで初めてメルボルンカップを制している。今回の優勝はまったく特別なものだった。

 ラヴェット氏は「これは頂点に立ったようなものです。エベレストです」と言ったが、それはシドニーのスプリント競走のことではなかった。そして、「メルボルンカップに出走させられるほど優秀な馬を手に入れようとして、毎年25頭から30頭を購買しているのです。正直言って衝撃をうけています。メルボルンカップを勝ったのです!」と続けた。

 そのときラヴェット氏の声は震えていた。豪州競馬界の最も崇高な山に彼は2回も登頂したのだ。そして「信じられません。メルボルンカップだなんて」と言って首を横に振った。

 そのあと声は完全に途切れ、彼は私に抱きついた。

 メルボルンカップを制覇するとは、なんと驚異的に素晴らしいことなのだろう。

By Lee Mottershead

[Racing Post 2022年11月1日「Joy for Newmarket's Eustace as the training duo with 600 horses capture the Cup」]


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