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2022年08月04日  - No.28 - 2

オーナービュー会議:競走馬の購買と所有(アメリカ)[生産]


 米国ジョッキークラブとサラブレッド馬主・生産者協会(TOBA)の共催による第8回サラブレッド・オーナービュー全米馬主会議(Thoroughbred OwnerView National Owners Conference)は、サラブレッド馬主になるための基本である"競走馬の購買と所有"についてのパネルディスカッションで開幕した。

 この2日間のイベントは初めてサラトガ競馬場(ニューヨーク州サラトガスプリングス)で開催され、初日の7月25日には合計7人の馬主とバイヤーが馬を手に入れて出走させる経験について話し合った。

 この会議はサラトガ競馬場の1863クラブで行われ、元レース実況者のトム・ダーキン氏が数百人の参加者を前に挨拶し、競馬場の歴史と建築物の発展を説明した。そして、1863クラブが2019年のオープン当初、"長い歴史を誇る競馬場に近代的な無用の長物が加えられる"との反発にあったが、その後サラトガの観客に受け入れられていったことに言及した。

 NYRAベッツ(NYRA Bets)の社長であり、NYRA(ニューヨーク競馬協会)の最高収益責任者(CRO)であるトニー・アレヴァト(Tony Allevato)氏は「伝統への愛着が変化を妨げる」としながら、このテーマについて「競走馬だけでなく馬主も不足しています。それゆえ競馬場運営者として馬主の満足度をできるだけ高める必要があります」と語った。

 会場には新しい馬主もベテランの馬主もいたが、これら両方に知識を与えていくことが彼らの満足度を高めることにつながる。

 最初のセッションでは、競馬産業での経験が豊かなキャロライン・コンリー氏が司会を務め、3人の馬主とバイヤーにセリで馬を評価する際の戦略について尋ねた。

 エージェント(馬売買仲介者)のジェイコブ・ウエスト氏、ドリームメーカーレーシングとトーマス・J・ギャロIIIセールスエージェンシーの創設者兼経営所有者のトム・ギャロ氏、ウエストポイントサラブレッズの社長兼CEOのテリー・フィンリー氏がそれぞれのアプローチを示し、さまざまな視点から馬主としての経験について意見を述べた。

 ウエスト氏は血統についてはあまりこだわらず、身体的特質や運動能力を重視するという。

 一方ギャロ氏は最初に検討するのは血統だとし、「実績のある繁殖牝馬と種牡馬を探します。能力が証明されていない種牡馬や繁殖牝馬の産駒や仔を購買することはほとんどなく、実績のない馬同士のペアが送り出した馬を購買することはまずありえませんね」と語った。

 しかし、比較的低予算の25万ドル(約3,500万円)で購買を行うギャロ氏は、父が一流種牡馬で母がステークス勝馬である1歳馬をターゲットにできない。

 「"ミート&ポテト"のような基礎のできた種牡馬、つまり堅実な競走馬を送り出す種牡馬を探しています。"閑散期"を迎えているような優良種牡馬を、ちょうど種付料が下がっているときに見つけることができるのです」。

 ウエスト氏も"ベテラン種牡馬"の魅力を触れてこう同意した。

 「ベテラン種牡馬の能力は実証済みなのですが、セリではあまり人目を引きません。でも私にはそれは少々おかしなことに思えます。私たちのビジネスでは"最近何をしてくれた?"ということをベースにしてしまう面があります。そしてその近接バイアス(直近の出来事が印象に残る傾向)によりある種牡馬がレースで活躍していたのを覚えていて、その産駒を見て引き寄せられます。そして12年~15年前に競走を引退した種牡馬のことを忘れてしまうのです」。

 2つ目のセッションでは、とりわけパートナーシップを通じて馬主になることに焦点が当てられた。NYRAの放送局アナウンサー、アカシア・コートニー・クレメント氏が司会を務め、ティナ・ボンド氏、ジョー・アッペルバウム氏、ドン・リトル・Jr.氏、ジャック・ノールトン氏に、ビジネスプラン・分割所有権の価値・維持費・預託料などにまつわる経験について尋ねた。

 パネリストはさまざまな形態で馬を所有している。ティナ・ボンド氏は夫ジム(調教師)とともに、新型コロナ感染拡大により生産馬の販売計画が中断されてしまったことで、ボンドレーシングステーブルを設立した。彼らは購買もしくは生産した馬の所有権を50%保有している。

 アッペルバウム氏は少数の友人とともに数十年間にわたり盤石なパートナーシップを組んでおり、"オフ・ザ・フック"名義で所有馬を出走させている。リトル氏は40年前に設立したリトルズセンテニアルファーム(Little's Centennial Farms)に、現在も新規の馬主を積極的に迎えている。ノールトン氏は高校時代の友人グループとともにサッカトガステーブル(Sackatoga Stable)を始め、今では13もの州から馬主を集めている。

 サッカトガステーブルはもっぱらニューヨーク州産馬を購買し、リトルズセンテニアルファームは種牡馬になれるほどレースで活躍すると見込まれる馬に重点を置いている。クレーミング競走出走馬・自家生産馬・1歳馬のどれを重視するかを明らかにすることがステーブルを成功に導くのに欠かせないと、パネリストたちは語った。

 オフ・ザ・フックは馬の購買・ピンフック(転売)を行い、所有馬を出走させている。共同創設者であるアッペルバウム氏は「難しい決断を要するゲームです」と述べた。ニューヨーク州サラブレッド・ホースマン協会の会長でもある同氏は「どの馬を購買し、手放すか、どのレースに出走させるかを決めなければなりません。プランがあればそうした判断もしやすくなりますね」と語った。

 最初のパネルディスカッションに参加したバイヤーと同様に、これらの馬主も種牡馬についてさまざまな意見を持っている。サッカトガステーブルの2大傑作、ファニーサイド(父ディストーテッドヒューマー)とティズザロー(父コンスティチューション)はいずれも初年度産駒だった。

 ノールトン氏は、「私たちは皆、初年度産駒に注目しているのです。ティズザローの初年度産駒が来年セリに上場されれば、また積極的に購買するでしょう」と語った。

 リトル氏は、「私たちが購買したダンジグ・ファピアーノ・プライベートアカウントの初年度産駒はステークス勝馬になってくれました。これらの種牡馬が地位を確立するのを助けたのです」と述べた。

 アッペルバウム氏は賛成せず、「初年度産駒は買いませんね。プレミアム価格を支払うことになるからです」と語った。

 そして数年前にニューヨーク州産の当歳のムーチョマッチョマン産駒を2万ドル(約280万円)で購買したことを引き合いに出した。

 アップルバウム氏はムーチョマッチョマンについてこう話した。「彼にはさまざまな面があります。血統はあまり良くないのですが、たくさんの産駒を送り出しているという点では成功した種牡馬生活を過ごしていると言えるでしょう。しかし、商業的にはあまり成功しませんでした。バイヤーとしては競走で活躍できる馬を送り出す種牡馬の産駒を購買するチャンスなのです。種付料5万ドル(約675万円)の種牡馬のレベルで産駒を送り出しています。1万2,500ドル(約169万円)ですむのになぜ5万ドルも支払うのでしょうか?

 アッペルバウム氏はその当歳馬が2歳となったとき、ムーチョマッチョマンの所有者であるディーン・リーヴス氏に18万5,000ドル(約2,498万円)でピンフック(転売)した。シティマンと名付けられたこの馬は賞金65万3,050ドル(約8,816万円)を獲得しており、7月15日のフォービドゥンアップルS(芝G3 サラトガ)を制して重賞勝馬となった。

 アッペルバウム氏は「価値を生み出すことに期待しているのです。できるだけ長くゲームを続けていきたいですからね」と付言した。

By Teresa Genaro

(1ドル=約135円)

[bloodhorse.com 2022年7月25日「OwnerView Conference: Buying and Owning Racehorses」]

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