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2022年05月26日  - No.18 - 1

アーリーヴォーティングがプリークネスS優勝(アメリカ)[その他]


 チャド・ブラウン調教師はケンタッキーダービー(G1)でゼンダンが激戦の末3着に敗れたのを見たとき、長く落胆することはなかった。

 アーリーヴォーティングが控えていることを心得ていたのだ。

 ブラウン調教師はこう語った。「この馬はレース経験があまりありません。ケンタッキーダービーに管理馬を出走させるようになってある程度たつと、20頭立てのレースがいかにタフであるかを実感します。調教師としてレース後の馬への影響に対処しなければならず、肉体的もしくは精神的な疲労が取れないときがあります。空振りすると3歳馬としての重要な期間を駄目にしかねません。この馬はただその経験をしなかったということに尽きます」。

 もし別の厩舎に所属していたら、アーリーヴォーティング(父ガンランナー)はウッドメモリアルS(G2 4月7日)で首差の2着になったほどの快速馬なので、5月7日のケンタッキーダービー(G1)に出走することになっていたかもしれない。しかしブラウン調教師はその誘惑に負けなかった。

 アーリーヴォーティングをケンタッキーダービーに出走させることはなかった。そしてこの馬が序盤の激しいペースに巻き込まれ直線で息絶え絶えになるのを避けたのだ。

 その代わりに、ブラウン調教師は5月21日のプリークネスS(G1 ピムリコ)に照準を合わせ、その辛抱と鋭い判断力は報われることになった。この三冠競走の2戦目となる総賞金165万ドル(約2億1,450万円)のレースでアーリーヴォーティングが1番人気のエピセンターを退け1¼馬身差の勝利を果たしたのだ。そしてブラウン調教師と馬主クララヴィッチステーブルスのセス・クラーマン氏はクラシック2勝目(いずれもプリークネスSでの勝利)を達成した。またこの日はクラーマン氏の誕生日でもあった。

 ブラウン調教師は「セスの誕生日に、しかも彼が育ったボルチモアで勝利を挙げてこのようなプレゼントができるなんて、どう表現していいか分からないほど嬉しいことです。クラシック勝利をもたらすことができると、この仕事もやりがいがありますね」と述べた。

 億万長者の投資家でありヘッジファンドマネージャーであるクラーマン氏は、ブラウン調教師と組んで競馬界屈指の厩舎を作り出している。彼にとって65歳の誕生日は決して忘れられないものになっただろう。

 クラーマン氏は、「これはすごいことです。チャドとホセ・オルティス騎手による鮮やかな作戦でした。これに勝る誕生日は考えられませんね。なんという爽快な気持ちなんでしょう。このスポーツは浮き沈みが激しいものですが、好調なときには信じられないほど甘美なものがもたらされます」と述べた。

 アーリーヴォーティングが6週間の休養の恩恵を受けてプリークネスSを制したあと、ブラウン調教師はこの馬を3週間後の三冠競走の最終戦ベルモントS(G1  6月11日 ベルモント)に出走させないと述べた。単勝81倍でケンタッキーダービーを制したリッチストライクの関係者たちがプリークネスSをスキップすることを決めたとき、三冠をめぐる戦いはかなりのドラマを失っていた。

 その代わりに、ブラウン調教師はトラヴァーズS(G1 サラトガ)に挑戦するだろう。それによりニューヨーク州メカニックビル生まれの彼には、クラーマン氏が2度のプリークネスS制覇により故郷で感じたようなスリルを味わうチャンスがもたらされるだろう。

 ブラウン調教師はトラヴァーズSについてこう語った。「少し距離は伸びますが、1¼マイル(約2000m)なら問題はないでしょう。サラトガから20分ほどのところで育ったので、トラヴァーズSは私にとって、セスにとってのプリークネスSのようなものです。だから欲しいものリストのトップに来るのです」。

 ブラウン調教師とクラーマン氏にとって、プリークネス2勝目をもたらしたこの計画はお馴染みのものだった。2人は2017年に、アーリーヴォーティングと同じくウッドメモリアルSに出走しダービーを回避したクラウドコンピューティングでこの約1900mのクラシック競走を制している。また冬のあいだニューヨークを拠点としていただけでなく、キャリア3戦でプリークネスSに臨んだこともこの2頭の共通点だ(クラウドコンピューティングはクララヴィッチステーブルとウィリアム・ローレンス氏の共同所有だった)。

 ブラウン調教師は、「2頭ともレース経験の少ない馬でした。ダービー出走に向けてウッドメモリアルSで走らせるということもあるでしょうが、それは馬次第です。スタッフに、とりわけ冬場のスタッフには感謝してもしきれません。ニューヨークはこの手の馬を育てやすい場所だと常々感じています」と語った。

 スリーチムニーズファーム(ケンタッキー州)が生産したアーリーヴォーティングは、2017年米国年度代表馬ガンランナーのファーストクロップである。2020年キーンランド9月1歳セールにおいてトリップハンマーファームにより20万ドル(約2,600万円)で購買された。母アムールデテはBCクラシック(G1)連勝馬ティズナウの娘であり、6頭の仔のうち第3仔のアーリーヴォーティングは唯一のステークス3着内馬である。ほかにも1歳のコンスティチューション牝駒、今年生まれた当歳のヴォラタイル牝駒などを送り出している。

 戦術的な観点から、ボルチモアの気温90度(摂氏32度)の蒸し暑い日にアーリーヴォーティングのスピードを最大限に生かして、できればターゲットを射程圏内に置くというプランが立てられていた。

 単勝18倍のアルマニャックがイラッド・オルティスJr. 騎手を背に先頭に躍り出て、½マイル(約800m)を47秒44で通過したときにアーリーヴォーティングがその1½馬身うしろの2番手につけていたのも、このプランが完璧に機能したからだ。

 ブラウン調教師は、「セスにはターゲットがいるほうが良いと言ったのです。馬群がバックストレッチを走っていてお互いに顔を見合わせたときに、彼は『望みどおりになったね』と言ってくれました」と語った。

 一方、ケンタッキーダービーで2着となりこのレースで単勝2.2倍の1番人気を背負ったエピセンター(父ノットディスタイム)にとって、スタートはきわめて不利だった。序盤に2度圧力をかけられ、最初の½マイル(約800m)を9頭立て8番手で通過するという彼らしくない位置取りをしていた。

 スティーヴ・アスムッセン調教師は、「ゲートを出ていかなるポジションも取れずにいるときに、他の馬が飛ばして行って¼マイル(約400m)を24秒32で通過するとします。ある程度スピードがある馬にそこまで遅れを取ってしまうと、明らかに挽回するのが大変になります」と述べた。

 ジョエル・ロザリオ騎手は、序盤でアーリーヴォーティングと一緒に走るという考えは発走時に消えてしまったと語った。

 「すぐに遮られてしまい自分のポジションが取れませんでした。不運でした。道中思うような走りができませんでした」。

 リードしていたアルマニャックが6ハロン(約1200m)を1分11秒50で通過した後、アーリーヴォーティングはこの馬を退けて先頭に立った。オルティス騎手はちらっと振り返って何度か様子をうかがった。そしてその光景に満足した。

 2017年のタップリットでのベルモントS制覇以来2つ目のクラシック優勝を手に入れたオルティス騎手はこう語った。「残り3ハロン(約600m)の地点で後ろを振り返ったとき、信じられない光景を目にしました。道中はただ気持ちよく走っていました。好位置につけていることも、ペースが穏やかなことも分かっていました。エピセンターがどこにいるか見ようとしました。それにシークレットオースがどこにいるのか確認したかったのです。彼女にも勝つチャンスがあると思っていたからです」。

 アーリーヴォーティングがラスト1ハロン(約200m)で3½馬身のリードを奪った。そこで差を詰めてきて唯一の脅威となったエピセンターは、アーリーヴォーティングが1分54秒54という速い時計でゴールを通過したときに1馬身あまりの差で惜しくも敗れた。3番人気だったアーリーヴォーティングの単勝の払戻金は2ドル(約260円)につき13.40ドル(約1,740円)。

 エピセンターが一冠目も二冠目も2着となったことをうけ、ロザリオ騎手は「よく動いていたのですが、他の馬が襲い掛かってきたのです」と述べた。

 またアスムッセン調教師は、「輸送も影響しましたね。それが気分を左右したようで、悪い展開でした」と語った。

 少なくともウィンチェルサラブレッズのオーナーであるロン・ウィンチェル氏は、スリーチムニーズで供用されているガンランナーの株を過半数持っていることで、ある程度の慰めがあった。そしてガンランナーを管理したのはアスムッセン調教師だった。

 ケン・マクピーク調教師が管理するクリエイティブミニスター(父クリエイティブコーズ)は初めてのステークス競走となるこのレースでエピセンターの2¼馬身差の3着に入った。

 マクピーク調教師は、「このレベルでも遜色のない出来でした。経験不足を考えると、見事な走りっぷりでした」と語った。

 プリークネスSの7頭目の牝馬優勝に挑んだ、シークレットオースは最初の½マイル(約800m)で最後方につけていたが、その後ゆっくりと追い上げ、クリエイティブミニスターから2¾馬身差(勝馬から6¼馬身差)の4着に入った。

 ケンタッキーオークス優勝馬で単勝6倍の2番人気に推されたシークレットオースについて、D・ウェイン・ルーカス調教師(86歳)は「このようにラップタイムが遅かったので、他馬を追い詰めるのは大変でした。ラスト1ハロン(約200m)でちょっと伸びを欠いてしまいました。今日は彼女の日ではありませんでしたね」と語った。

 単勝9倍で4番人気だったシンプリフィケーションは6着に敗れ、レース中に鼻出血があった。

 アントニオ・サーノ調教師は、「すぐに牧場に送って休養させます。今日はついていませんでしたが、彼は頑張りました」と語った。
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By Bob Ehalt

(1ドル=約130円)

[bloodhorse.com 2022年5月21日「Early Voting Defeats Epicenter in Preakness」]

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