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2022年04月14日  - No.14 - 1

単勝51倍のノーブルイェーツがグランドナショナル制覇(イギリス)[その他]


4月9日(土)エイントリー競馬場:グランドナショナル(G3)

 グランドナショナルは昔からおとぎ話のようなレースであるが、エイントリーの有名な芝コースで繰り広げられるすべてのストーリーの中で、これほど素晴らしく完璧なものはそうないだろう。4月の晴れた午後に、かつてロッキングホースに揺られてグランドナショナルでの栄光を夢見る少年だったサム・ウェイリー-コーエン騎手が最後の騎乗でついにその夢を現実に変えたのだ。

 障害競走史上最も卓越したアマチュア騎手の1人は40歳の誕生日をわずか数日後に控えたその日、父ロバート・ウェイリー-コーエン氏の勝負服を誇らしげに身にまとっていた。そしてノーブルイェーツに乗ってグランドナショナルで勝利し、最も壮麗なかたちで引退したのだ。

 ウェイリー-コーエン親子がロングランでチェルトナムフェスティバルの最高峰レース、チェルトナムゴールドカップ(G1)を征服したのは11年前のことである。彼らはその日を一生大事な思い出とするだろうが、グランドナショナルはどのレースよりも思い入れのあるレースである。過去に2着、4着、5着、8着に入ったが、今年は単勝51倍の障害競走に転向したばかりのノーブルイェーツと才能溢れるエメット・マリンズ調教師のおかげで世界一有名な固定障害競走で勝つことができた。

 サム・ウェイリー-コーエン騎手がグランドナショナルで一度も勝利を達成できなかったら、もはや滑稽とも言える話だったのかもしれない。第174回グランドナショナルに出走した40人の騎手の中で、この象徴的なエイントリーのフェンス(固定障害)で6勝を挙げて最多勝を達成しているからだ。そしてつい14ヵ月前にバンパー競走(障害に転向する馬に経験を積ませるためのフェンスのないレース)に出走し、10月に障害競走デビューしたばかりの馬で7勝目を挙げた。

 ツイッターを通じてお祝いの言葉が殺到し、ケンブリッジ公爵夫妻(ウィリアム王子&キャサリン妃)が友人として王室から祝福の言葉を贈る中、勝利ジョッキーはこう語った。「現実感がありませんね。ふとした瞬間、目を覚ましてしまうかもしれません。まったくこれほど素晴らしく甘美なことはありえませんね」。

 これ以上ないほど見事なタイミングだったのかもしれない。というのも、その2日前にウェイリー-コーエン騎手は、父ロバート氏が2月に購買したノーブルイェーツ(せん7歳)に騎乗した後に引退することを発表したばかりだったからだ。

 以前チェルトナム競馬場の会長を務めたロバート・ウェイリー-コーエン氏の買い物は素晴らしいものだったことが証明された。というのも、ノーブルイェーツにはこの最も過酷な試練に耐える力量が十二分にあると判明したからだ。レース終盤で昨年の3着馬エニーセカンドナウとの長丁場の一騎打ちに果敢に決着をつけたのだ。3着にはデルタワーク、4着にはサンティーニが入った。

 父ロバート氏はこう語った。「叫びすぎて声が出なくなりそうでした。サムと一緒に楽しくて素晴らしい時間を過ごすことができました。とても誇りに思っています。彼が最高に素晴らしいレースをしてくれたのですから」。

 「チェルトナムゴールドカップ、ビーチャーHチェイス(G3)、ベット364ゴールドカップ(G3)で優勝し、キングジョージ6世チェイス(G1)とトッパムチェイス(G3)をそれぞれ2勝するなどリストは長々と続きますが、非常に多くの素晴らしい幸せな日々を一緒に過ごしてきました。終わってしまうのは本当に寂しいです。彼はこれらのフェンスでは驚異的に優れています。瓶詰にして保存できるなら、そうしたいくらいです」。

 このとき主役となったウェイリー-コーエン騎手は例のごとく慎み深く、エイントリーでの功績を控えめに扱うように努めた。そして、ノーブルイェーツが初めてチークピーシーズをつけたのは自身の提案であったことを明かさなかった。

 「たくさんの運も必要ですし、いい馬に乗らないといけません。ほとんどの騎手よりもこのフェンスのレースに多く乗ることができましたし、経験も役立ちましたね。しかし正直なところ、これは運だと思います」。

 「父にもお礼を言わないといけませんね。周りが他の騎手を乗せるように言っても、揺らぐことなく愛情をもって私をサポートしてくれました。私たちはコンビを組んでいますが、一度も言い合ったことがありません。ただ楽しんできました」。

 誰にとってもこれは楽しい結末だったが、胸が張り裂けるようなものでもあった。2004年に20歳の若さでがんのため亡くなったトーマス・ウェイリー-コーエン氏がこの幸せな場面にいないからだ。

 その弟のイニシャルの入った鞍に乗っていたサム氏はこう語った。「家族にとって記念すべき日です。トーマスもその一員ですが、ご覧のとおりここにはいません。このところいつも彼のことを考えていました。たくさんの運が必要であり、たぶん今日は彼が幸運をもたらしてくれたのでしょう」。

 相変わらずグランドナショナルでは多くの参加者が運に見放された。レイチェル・ブラックモア騎手は昨年の覇者ミネラタイムズに騎乗したが、9番目のフェンスで落馬した。それでもまたもやアイルランド勢が支配するレースとなった。マリンズ調教師(32歳)はアイルランド競馬界で最も印象的な若い才能の1人である。

 マリンズ調教師はこう語った。「長期計画でしたが、どうしたものか、うまくいったようですね。1ヵ月前はおそらくもっと自信があったと思います。レースが近づくにつれて誰もがチャンスがあると盛んに口にするようになったのですが、馬には何の違いも現れませんでした。馬の状態はまあ良かったのです。最後の一周で本当に良いかたちに収まったと思います」。

 サム・ウェイリー-コーエン騎手はそれを確実なものにすることができたのだ。また引退の決断を覆すつもりはなく、鞭使用違反により受けた9日間の騎乗停止処分が高くつくことがないことをも認めた。彼は大手デンタルクリニックチェーンの経営者でもある。

 「いやいや、これっきりですね。いつも最高のかたちで引退したいと思っていました。グランドナショナル開催のオープニングデーである木曜日にそれを達成できると思っていましたが、グランドナショナルで勝つこと以上には素晴らしいことはありませんね。だから引退します。終わりです」とウェイリー-コーエン騎手は力説した。

 彼がエイントリーに戻ってくることは間違いないだろう。ただし騎手としてではない。

 彼は「幼い頃の最初の記憶のひとつは、5歳か6歳のときにロッキングホースに座ってグランドナショナルで乗っているふりをしたことです」と語り、すべての始まりに思いを馳せた。

 「子どもの頃はいつもここに来ていましたね。アイスクリームのスタンドがあって無料で味見できたことさえも覚えています。この場所は子ども時代の一部であり、毎年通い続けているのはここに来ればあの頃の気分を味わえると分かっていたからです」。

 ノーブルイェーツというロッキングホースよりも速い乗り物に乗って、ウェイリー-コーエン騎手はほかにはない感覚を味わった。

By Lee Mottershead

[Racing Post 2022年4月9日「Grand National fairytale as 50-1 Noble Yeats wins for retiring Sam Waley-Cohen」]

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