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2021年11月04日  - No.41 - 1

ブリーダーズカップ、初めてラシックスフリーで開催(アメリカ)[開催・運営]


 ブリーダーズカップ協会(BCL)は数年前の一進一退を経て、ついに今年、競走当日の薬物投与を禁止する国際基準にもとづいてブリーダーズカップ開催を施行するという長年の目標を達成する。この変更は、世界のホースマンにより受け入れられている。

 このたび初めて、ブリーダーズカップ開催(11月5日・6日 デルマー)の全14競走は競走当日の薬物使用なしで施行される。すなわち競走当日に出走馬にラシックスが使用されることはない。競走当日の薬物使用の全面禁止は、このポリシーの段階的導入の最後の一歩となる。昨年のブリーダーズカップ開催では、2歳戦でのラシックス使用が禁止されていた。

 BCLの会長兼CEOであるドリュー・フレミング氏は、長年検討されてきたこの変更が実現することを喜んでおり、こう語った。

 「ブリーダーズカップ開催にとってこれはきわめて重要なことです。なぜならこの開催は競馬の国際舞台で施行されるものであり、世界中で統一されたルールと規制を持つことが望ましいからです。世界全体ではかなり前からラシックスフリーの競馬が施行されており、ブリーダーズカップ開催が今それに加わることが重要なのです」。

 世界中の人々は、ブリーダーズカップ開催に利益をもたらす形でこの変更をすぐに称賛した。今年のブリーダーズカップ開催には、過去最多の外国馬56頭が出走登録した。その中には日本調教馬8頭が含まれており、このうち7頭が出走する予定だ。

 日本中央競馬会(JRA)の理事長兼CEOである後藤正幸氏はこのポリシーを"競馬の基本方針"と呼び歓迎している。そして、これにより今年は多くの日本のホースマンの参加が促されたと考えている。

 「近年のラシックス規制の強化は、多くの日本の競馬関係者により肯定的に評価されています。競馬の公正確保を維持しすべての関係者に公平な競走環境を確保するのに、大いに貢献するからです。今年の日本馬の参戦が増えた要因の1つであると確信しています」。

 デルマー競馬場の執行副社長でありブリーダーズカップ選考委員会の議長を務めるトム・ロビンス氏は、一貫したルールを設けることで、ブリーダーズカップへの参戦を検討している海外のホースマンの懸念の1つを解消できると述べた。

 「競馬界では常に公平な競走環境が望まれていると思います。それゆえ出走登録頭数が過去最多となるのに、この動きはある程度影響を与えたのではないかと考えています」。

 フレミング氏は、国際的な支援が高まったのはブリーダーズカップ開催がラシックスなしで施行されようとしていることと確実に関連していると述べた。

 一般的にラシックスと呼ばれるフロセミド(別名サリックス)は利尿剤であり、米国競馬界では運動誘導性肺出血(EIPH)の予防や抑制のために広く使用されている。世界中のほとんどの主要競馬国では、その競走当日の使用は認められていない。

 BCLがラシックスを漸次禁止しようとするのは、今回が初めてではない。BCLは2011年、2012年の2歳戦をラシックスなしで施行する計画を承認していた。その計画は2013年以降のブリーダーズカップ開催の全競走をラシックスなしにすることを要請していた。2012年の2歳戦はラシックスなしで行われたが、著名な馬主であるゲイリー&メアリー・ウエスト夫妻が書簡で訴訟の可能性をほのめかしてきたため、BCLは当初の計画を撤回した。

 2013年ブリーダーズカップ開催では2歳戦にかぎってラシックス使用を禁止し、禁止範囲を広げることはなかった(奇しくもウエスト夫妻のニューイヤーズデイは、競走当日の薬物使用が禁止された状態で施行された2013年のBCジュべナイル(G1)を制した)。

 2014年ブリーダーズカップ開催では全競走でラシックス使用が許可された。この方針は2歳戦でふたたびラシックスが禁止される昨年まで続いた。

 今年のブリーダーズカップ開催の全競走からラシックス使用を禁止するように進める中、BCLは米国で孤立無援の状態にあるわけではない。BCLは2019年、主要な競馬場オーナーであるチャーチルダウンズ社(CDI)・ストロナックグループ(TSG)・NYRA(ニューヨーク競馬委員会)・デルマーサラブレッドクラブ・キーンランド協会とともに、創設メンバーとしてサラブレッド安全連合(TSC)に加わった。TSCもラシックスの禁止に取り組んでいる。

 TSCは、2020年には2歳戦で、今年にはメンバー競馬場のすべてのステークス競走でラシックスを漸次禁止した。その結果、2021年の重賞競走の大半がラシックスフリーで施行されるようになった。たとえば今年の三冠競走はラシックスフリーで実施された。

 フレミング氏はこう語った。「ブリーダーズカップ開催をはじめ米国のレースは全般的にこのような変化を遂げていると思います。2019年12月を振り返ると、BCLは5つの主要な競馬場オーナーとともにTSCを創設しました。TSCは安全性を向上させるだけでなく全員にとって公平でクリーンな競走を提供するために、これまでに30以上の改革を実施してきました」。

 アイルランドを拠点とするエイダン・オブライエン調教師は、ブリーダーズカップ開催のトレーナーズランキング(獲得賞金別)第2位であり2,660万ドル(約30億5,900万円)以上の賞金を獲得している。同調教師は他の出走馬と同じ条件にするために、ブリーダーズカップ開催でラシックスを使用して参戦することを考えるだろう。しかし、今や競走当日の薬物使用なしで出走することが"同じ条件"となることに満足している。

 「アイルランドでは管理馬に薬物を使用することはまったくありませんし、何かを投与することもごくまれにしかありません。管理馬に与える薬物は、風邪やインフルエンザや感染症のための抗生物質だけです。これらは私たちが使用する唯一の薬物です。私たちはいつもブリーダーズカップに行くのを楽しみにしているので、今回の変更は絶対に良いことだと思います」。

 ブリーダーズカップ開催での変更に合わせて、今年のBCチャレンジシリーズの全競走もラシックスフリーで施行された。フレミング氏は、この方針により他のレースで薬物使用禁止を検討するのにも拍車がかかることに期待している。

 フレミング氏は今年、BCチャレンジシリーズの方針を発表した際に、「この基準をブリーダーズカップ開催に関連する全競走に拡大することが、今後の安全性や公正確保を向上させる措置を他の競馬場や関係者が受け入れるための模範となることを望んでいます。それらの措置には、より安全な新時代を迎えるための競馬の段階的なアプローチとしての競走当日の薬物使用の禁止が含まれるでしょう」。

 BCLは獣医学アドバイザーのウィル・ファーマー氏が主催するウェビナーを調教師に向けて公開しており、ラシックス以外にも今年のブリーダーズカップ開催における薬物使用・安全性・獣医学的なルールやプロトコルのすべてについて説明している。フレミング氏は、ブリーダーズカップ開催が薬物使用ルールについて可能なかぎり透明性を高めようとしていると指摘した。

By Frank Angst

(1ドル=約115円)

[bloodhorse.com 2021年10月31日「Breeders' Cup Presents Lasix-Free World Championships」]


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