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2021年10月28日  - No.40 - 4

ゴスデン調教師の管理馬からケタミン検出(イギリス)[獣医・診療]


 フランコニア(Franconia)はケタミン(全身麻酔薬の一種)の陽性反応が出たため、昨年ニューベリー競馬場で制したリステッド競走の優勝資格を失った。このケタミンはおそらく同馬を担当していた厩務員が娯楽目的に使用した薬物に由来すると考えられると、BHA(英国競馬統括機構)の懲戒委員会は10月21日(木)に裁定を下した。

 フランコニアを管理するジョン・ゴスデン調教師には、懲戒委員会から異例の低額である500ポンド(約7万7,500円)の過怠金が科された。同委員会は、ゴスデン調教師はこのような不測の事態を防ぐために予防装置を講じてはいたが、おそらくはもっと多くのことができたのではないかと判断した。

 BHAの主張を発表したトーマス・ノーラン氏は、ケタミンという薬物は、一般に馬診療所でのみ使用される強力な麻酔薬であり調教場で見かけるものでないことから、捜査員は当初その原因について困惑していたと説明した。一方ゴスデン調教師は、拠点とするクレアヘイヴン調教場(ニューマーケット)でその薬物を使用したことは一度もないと語っていた。

 しかし調査を開始して数週間後、厩舎スタッフの1人が週末の休みにかぎりケタミンを娯楽目的で使用していたことを認めた。ゴスデン調教師はこのスタッフを"傷つきやすい人"と表現し、"少々精神的混乱を抱えた人"であると分かって雇っていたと説明した。懲戒委員会はこの状況において、彼の名前は公表すべきではないと指示した。

 厩務員はその薬物を使用してから仕事に戻るまでのあいだに自身の体と服を洗うように注意を払っていたが、小物入れの中にケタミンを入れていることがあり、ニューベリーへの移動中もそれを携帯し使用していたと語った。

 ノーラン氏はこう説明した。「本人は小物入れの中に残留物があり、陽性反応が出た日にこの小物入れを使っていたことで、残留物が手に付着してフランコニアの体内に入る可能性があったと考えています」。

 ノーラン氏によると、BHAは熟練した薬理学者にこのことが陽性反応の原因として妥当だと考えられるかどうか助言を求めたところ、その可能性はあると伝えられた。その薬理学者は、この馬から検出された濃度は人間の使用者が通常吸引するとされる25mgのわずか50分の1の量に接触したことで起こりえるものと結論づけたと述べた。

 ゴスデン調教師は、厩務員がそのような習慣があったと率直に申し出てくれたことに満足していると語った。また、この厩務員にどのような懲戒処分を下したかを聞かれてこう答えた。「もしかしたら彼をクビにすべきだったかもしれませんね。多分そうすべきだったのでしょう」。

 「しかし彼は嘘をついたり否定したりすることもできました。そうしたら誰にも気づかれなかったでしょう。彼が隠しだてしなかったこと、そして事件全体が解決されたことで、言ってみれば結局彼は立派だったのだと感じました。彼は愚かな過ちを犯しましたが、悪意あることをしようとしたわけではありませんでした」。

 「私は彼を擁護しました。これからもそうするつもりです。彼は今とても満足していて、おそらく少しばかりのん気かもしれません。でも彼を停職処分にしても意味がありません。そうすればこの出来事が公になり、誰もが彼を知ることになります。彼を解雇することも正しいことだとは思いません。どうすればいいのでしょうか?減給すること、それも正しいことだとは思いません。たぶん私は甘すぎるんでしょうね」。

 ゴスデン調教師は、薬理学の報告書に目を通して検査機器の感度に感銘を受けたと語った。「感知したのは270〜400ピコグラムだったようです。1ピコグラムは1兆分の1グラムです」。

 その量はフランコニアに影響を与えるには明らかに不十分で、ニューベリーでのパフォーマンスは彼女の5戦のキャリアで2番目に良いものだった。"馬にケタミンを投与するつもりだったのではないか"という考えをゴスデン調教師は一笑に付した。

 「ケタミンは人間に一種の恍惚状態を作り出しますが、影響を及ぼすほどの量を馬に投与すれば、馬はすぐに運動感覚を失い、悲惨な事故を起こすに違いありません。そのため診療所で麻酔薬として使われる場合を除いて、馬に近づけたくない類の薬物なのです」。

 そのことを踏まえて、10月21日(木)にBBCラジオ4の番組『トゥデイ』がフランコニアからケタミンが検出されたという事実だけを根拠にゴスデン氏の調教師免許が停止されるかもしれないとの憶測を報道したことを、ゴスデン調教師は非難した。

 ゴスデン調教師は懲戒委員会でこう語った。「最近のいじめ事件やブライオニー・フロスト騎手の問題で、競馬界は今や新たなスケープゴートになっています。ラジオ4では競走馬にケタミンを投与して長期の追放処分を受ける可能性のあるリーディングトレーナーとして私の名前が挙がり、それは芝居じみた内容でした」。

 「この調査の結果をわざわざ読もうとしない人は皆、レースで勝たせるために私が馬にケタミンを投与して回っていると決めてかかっているのでしょう。聞くに堪えないような非常にショッキングな内容でした。人格が傷つけられてしまいます」。

 懲戒委員会のフィリップ・カール議長はこう語った。「ゴスデン氏の厩舎の運営状態は良好で効率的であることを認めたいと思います。またこの問題の真相を極めるためにゴスデン氏がBHAに全面的に協力してくれたことを称賛します」。

 「今回の特殊なケースにおいて、ゴスデン氏は大半の合理的な予防措置を講じていましたが、そのような予防措置をすべて講じていたことを証明したとは考えられないと結論づけました。私たちは、(近日中に発表される)理由書の中で、取るべきだったと考える追加の予防措置について詳細に説明する予定です」。

 懲戒委員会では、数年前からクレアヘイヴン調教場では薬物に対するゼロ・トレランス主義(どんな小さな違反も見逃さない考え方)が実施されていることに言及された。問題の厩務員は英国競馬学校(British Racing School)を卒業している。同校は「薬物とアルコールに関する認識」という科目を設け、混入を避けることの重要性を教えている。

 ゴスデン調教師は混入について、「馬房で排尿しないようにあちこちに注意書きがあります。スタッフには清潔さについて言い聞かせています。そして正しい行動をとるように常に話しています」と語った。

 しかしノーラン氏は、娯楽目的の薬物使用が馬の陽性反応を引き起こして失格につながるという具体的なリスクをスタッフに強調するためにもっと多くのことができたはずだと主張した。ゴスデン調教師はこの指摘を「それは一理あります」と認めた。

By Chris Cook

(1ポンド=約155円)

[Racing Post 2021年10月21日「John Gosden fined after ketamine used by groom led to Listed winner failing test」]


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