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2021年10月07日  - No.37 - 1

トルカータータッソ、強豪を退け衝撃的な凱旋門賞制覇を達成(フランス)[その他]


 待望の第100回凱旋門賞(G1)には欧州の平地競走界を代表する強豪馬が集まった。しかしこのレースは観客を唖然とさせ、ただ「誰?」と尋ねさせるという結果に終わった。

 トルカータータッソの驚くべき勝利は、ドイツ競馬界に予想外だが素晴らしい祝福をもたらした。しかしそれ以外のほとんどの人々にはまず、あっけない結末と当惑がもたらされた。単勝73倍の伏兵は、先行していた有力馬タルナワ、ハリケーンレーン、アダイヤーを振り切り、ほとんどの人が予想できなかったことを成し遂げたのだ。

 ドイツ国旗の勝負服を背負ったこの馬はわずか2ヵ月前、地元でアルピニスタ(マーク・プレスコット厩舎)に敗れたばかりだった。そのため彼の凱旋門賞への挑戦が大きな利益をもたらすとは思えなかった。しかしその後にバーデン大賞(G1)を制覇し、彼は最高峰のミドルディスタンス競走にふさわしいパフォーマンスを実現するために、ふたたび前進し続けた。

 この馬の名前がこれまで多くの競馬ファンにとってほとんど重要でなかったのだから、マルセル・ヴァイス調教師やルネ・ピーヒュレク騎手の名前も自国以外では全く知られてなかった。しかし今や1975年のスターアピール、2011年のデインドリームに次いで3度目の凱旋門賞制覇をドイツにもたらしたことで、彼らは輝かしい功労者名簿に名を連ねるという栄誉に浴することになった。

 パリの街は土曜夜から日曜朝にかけて雨に打たれていた。開業2年目の調教師とコロナの感染拡大により外国人騎手がドイツに来なくなったことでチャンスを得たジョッキーの耳には、それは心地よく響いたにちがいない。彼らの馬はロンシャンの力を要する馬場を得意とし、勇気だけでなく卓越性のテストとなったこのレースで極めてふさわしい覇者となった。

 今回の凱旋門賞に向けた力強い前宣伝や、有力馬への多くの絶え間ない注目度を考えると、この結果は妙にシュールな感じがした。とりわけレース後の記者会見でジャーナリストのリズ・プライス氏が優勝トレーナーと優勝ジョッキーにドイツ語で話しかけ、その答えをフランス語、そして英語に完璧に訳しているときもそうだった。

 調教助手を20年間務めた後、ミュールハイムにあるイェンス・ヒルシュベルガー氏の厩舎を2019年末に引き継いだ44歳のヴァイス調教師はこう語った。「状況を理解するのがすごく大変で、このレースを制したことをすんなり消化できないのです」。

 「昨年の冬から凱旋門賞に向けての計画を練り始めました。ここ数年で最も強豪ぞろいの凱旋門賞だと思いましたが、それでも彼はスタート地点に立つのにふさわしいと考えました。もし3着~6着に入れば大満足だったでしょう。そうすれば成功だと思っていたのです。優勝したのは思いがけない喜びですね」。

 「凱旋門賞以上に重要なレースはありません。すべての調教師が夢見ています。私がそれを勝ち取ったということはまったくもって非現実的です」。

 ヴァイス調教師は大喜びで飛び跳ねていたわけではない。地味な黒のスーツを着ていて、控えめな税務調査官と間違えられそうだった。それでも、フランキー・デットーリよりもライアン・ムーアのタイプだと言える彼は、トルカータータッソがタルナワに¾馬身差をつけてロンシャンのゴール板を駆け抜けたときに自らの振舞いが変わったと述べた。タルナワは残り½ハロン(約100m)に到達しそうなところで、最終的に自らを負かすことになる馬とハリケーンレーンとともに、長く先頭にいたアダイヤーを追い抜いたばかりだった。

 ヴァイス調教師は「レース中はとても冷静だったのですが、勝ったときは叫びました。だけど誰も私を見ていませんでした」と認め、笑みを浮かべた。

 34歳のピーヒュレク騎手は喜びを露わにしていた。「道中あまりペースが上がらなかったので、すぐに先行馬のそばの位置を確保しようとしました。最後の直線に入ったときに自分の馬をフルに走らせられる位置にいたかったのです。直線が長ければ長いほど良いパフォーマンスをする馬なので、彼の実力を最大限に発揮させたいと思っていました」。

 「凱旋門賞で騎乗できただけでも光栄でした。このレースに参戦した経験もないのにトルカータータッソに騎乗させてくれた馬主、生産者、調教師の皆さんに感謝したいと思います。自分が勝ったなんて信じられません。明日が来れば、信じられるかもしれません」。

 タルナワを管理するダーモット・ウェルド調教師はすでに納得していた。「これは驚きではありません。私はドイツ競馬を高く評価してきました。彼らは時々良い馬を連れてきますね」。

 その極めて優れた馬の最新の例となったトルカータータッソは昨年の独ダービー(G1)で2着になっており、馬主はアウエンケル牧場(Gestut Auenquelle)である。ヘルガ・エンドレス氏(88歳)は夫のピーター・マイケル氏らとともに、この牧場のオーナーを務めている。

 彼女は残念ながら表彰台に上ることができなかったが、その代わりに表彰台の近くに立ち、凱旋門賞のシルバーのトロフィーを歩行器の上に乗せていた。彼女はドイツ国歌が流れている間、少し前にアン王女に祝福されたときと同じように、喜びの表情を浮かべていた。

 「素晴らしいです。勝ちを信じていました。とても自信があったのです。馬番が1だったので、彼はパドックで一番先頭でしたし、レースでも一番先頭でゴールを切ってしまいましたね。私にとってはいつも一番の馬です。彼はつねに心の中にいるのです」。

 「とても幸せです。信じられません。今は足を骨折していて、あまり多くのことができません。人生でずっとスポーツを楽しんできました。スキーをしてきて今まで一度も骨折したことがなかったのに、庭で転んでしまいました。足はすでに治りかけていました。今ではこの馬のおかげで、すっかり良くなってきているように思います」。

By Lee Mottershead

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[Racing Post 2021年10月3日「Torquator Tasso stuns big-name rivals to spring shock success for Germany in Arc」]

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