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2021年07月01日  - No.24 - 3

アル・ザルーニ氏、8年間の調教停止処分が終了し活動再開(ドバイ)[その他]


 競馬界に衝撃を与えたドーピングスキャンダルにより8年間の調教停止処分を受けたゴドルフィンの元調教師、マームード・アル・ザルーニ氏がカムバックすることになった。

 アル・ザルーニ氏は、数週間以内にアラブ首長国連邦(UAE)でシャールジャ馬術・競馬クラブを拠点として、新たな馬主と20頭の馬とともに調教を再開する予定である。

 このニュースは、アル・ザルーニ氏が2013年4月にBHA(英国競馬統括機構)の懲罰委員会により有罪とされた、悪名高いドーピング事件の記憶を呼び起こすことになるだろう。同委員会は、アル・ザルーニ氏が管理馬15頭に禁止薬物アナボリック・ステロイドを投与していたと裁定した。当時アル・ザルーニ氏への評価は、エンキーが前年の英セントレジャーS(G1)を制していたことで大きく高まっていた。

 ニューマーケットを拠点にしていた4年足らずの期間にG1・12勝を挙げたアル・ザルーニ氏は、ゴドルフィンのモールトン調教場にいた11頭から陽性反応が出たことで、競馬施行規程に違反していることを認めた。

 これら11頭はすべて出走停止となり、アル・ザルーニ氏は禁止されている2種類のアナボリック・ステロイドのうち1つをさらに4頭に投与していたことをBHAに打ち明けた。懲罰委員会は、同氏の行為は「競馬界に求められる適切なガバナンス基準から非常に大きく逸脱している」、「英国競馬の評判を傷つけた」と判断した。

 当時ゴドルフィンのレーシングマネージャーを務めていたサイモン・クリスフォード氏は声明において、アル・ザルーニ氏の行為に「衝撃を受け、完全に憤慨している」と述べた。

 BHAが科す中で最も厳しい処分の1つ、8年間の騎乗停止処分がアル・ザルーニ調教師に言い渡された。そしてその処分期間は4月に終了し、同氏は調教再開プロセスの最終段階に入っている。

 アル・ザルーニ氏はこう語った。「評判を取り戻さなければなりません。私は大きな過ちを犯しました。多くの教訓を得ましたので、今はもう一度自分の価値を立証して、このような過ちが二度と起こらないことを示さなければなりません」。

自分が不正をしていなかったことを証明したい

 アル・ザルーニ氏(45歳)は2010年にモハメド殿下によりゴドルフィンの調教師に任命される前、アリ・アル・ライヒ調教師の助手を10年間務め、出身地のドバイで頭角を現していた。

 同氏はエミレーツ競馬協会(​Emirates Racing Authority:ERA)に調教師免許を申請し、面接に合格し、厩舎を確保した。マルワン・アブドゥル・ラーマン氏を助手に迎え、スタッフや馬主を集めたアル・ザルーニ氏は、10月29日にジェベルアリ競馬場で開幕する競馬シーズンに間に合うように、最終的な事務手続きが完了するのを待っている。ERAは本紙(レーシングポスト紙)に対し、アル・ザルーニ氏の申請の詳細について認めた。

 アル・ザルーニ氏の新たな拠点は、以前の拠点、モールトン調教場とは全く異なる環境である。現在モールトン調教場は同氏の助手だったチャーリー・アップルビー調教師により監督されており、190頭が在厩している。しかし英国クラシック競走を2勝したアル・ザルーニ氏は、自身が罰を受けるべきだったことに異論はない。

 「調教停止処分を受けるべきでした。私が犯した過ちは、その処分に100%値するものでした。異論はありません。ただ罰を受けるべきでしたが、その長さには納得できませんでした。2年か3年、もしくは最長でも4年の調教停止処分だと思っていました。8年と言われたときは、とても厳しいと感じました」。

 2013年のスキャンダルへの反応は、広く不信感が抱かれるというものだった。BHAの審査員団が発表した手厳しい報告書は2,500語にも及んだ。それには、アル・ザルーニ氏が、出走しない馬であればアナボリック・ステロイドを使用できると考えていたこと、厩舎の診療記録へのアナボリック・ステロイド投与の不記載に対して何の説明もしなかったことが記されていた。同氏は審査員団に対し、ドバイから英国に戻る際に自ら手荷物で禁止薬物を持ち込んだと話した。この報告書の中で、審問における「英国でアナボリック・ステロイドの使用が認められていないことを知らなかった」というアル・ザルーニ氏の主張を審査員団は「単に事実ではない」と感じたとしている。

 アル・ザルーニ氏は、競走能力を向上させることが禁止薬物使用の動機ではなかったと断言してこう語った。「汚名をそそぎたいのです。アル・ザルーニという名前を聞いた多くの人は、馬にドーピングをしたという汚点を見て、『彼は不正をしている』と言うでしょう。私は自分が不正をする人間ではなかったと証明したいのです。そんなこと考えたこともありません」。

 「不正をしていたわけではありません。それは過ちでしたが、管理馬は競走のためではなく、治療を促すために禁止薬物を投与されたのです。それらの馬の大半はハードな調教をこなし、軽微な不具合を抱えていたのです。繋靭帯や腱に不具合のある馬もいて、それを治すためのものでした。そういう考えでした。出走する馬に薬物を投与したことは決してなかったので、競走当日に薬物使用が発覚することは一度もありませんでした」。

 アル・ザルーニ氏は、当時この一連の出来事を"破滅的な過ち"と表現したが、それから8年間、苦難の日々を過ごしてきたと主張した。

 「かなり困難な時期を経験しました。家族と子どもがいるのに、収入がありませんでした。彼らは生きること、食べること、学校に行くこと、多くのことをするのを望んでいます。できる範囲であらゆることをやりくりしてコントロールしていかなければなりませんでした。収入がなければとても大変なので、皆さんには私の失敗から学んでもらいたいです」。

 「何もせず日々を過ごしていました。レースを見たり、馬に関するニュースを読んだりしていました。私にとって馬は麻薬のようなもので、離れていると、すごく一緒にいたいと思うようになります。今朝、馬の声を聞いて、調教するのを見ました。特別なことです。自分の好きなことが再びできるのはとても嬉しいし、すべてを捧げようと思います」。

 アル・ザルーニ氏は英セントレジャーSのほかにも、英1000ギニー(G1)、プリンスオブウェールズS(G1)、愛オークス(G1)、ドバイワールドカップ(G1)など競馬界の名立たるG1競走の勝利を自らの経歴に加えている。

 同氏はこう続けた。「成功を繰り返し、できる限り多くの勝利を手にしたいと思っています。大好きなスポーツから長いあいだ離れていたので、レースの規模は関係ありません。すべてがダービーだと思って臨みます。どのレースで勝っても大きな意味があります。私はベストを尽くしますし、このような過ちをふたたび犯す可能性はありません。なぜなら、もう二度と同じ目に遭いたくないからです」。

 「ふたたび情熱を持って取り組めることに、とてもワクワクしていて満足しています。これは私が知っている唯一のことですから。新たなチームやパートナーとともに一生懸命仕事をしていきたいと思います。またゼロからのスタートですが、素晴らしいチームがいるので、馬主のためにベストを尽くします。ここにいる皆さんの支援に感謝したいと思います」。

 英国に戻る予定はあるかと聞かれたアル・ザルーニ氏はこう答えた。「英国から多くの人々が連絡してきて、向こうで働かないかと誘ってくれました。ニューマーケットは大好きですが、今あちらで働くことはできません」。

 「向こうで働くには、良い調教場とチームが必要です。もしかすると、将来の計画になるかもしれません。あるいは、ドバイカーニバルに馬を遠征させる英国の調教師がいるならば、彼らとともに働けるかもしれません。また国際的に活躍する馬を管理したいと思っています」。

 このニュースへの反応を求めて連絡したものの、BHAはコメントを控えた。

By Stuart Riley

 (関連記事)海外競馬情報 2013年No.5「アル・ザルーニ調教師に8年間の調教停止処分(イギリス)」、海外競馬ニュース 2014年No.9「アル・ザルーニ事件の独自調査報告発表される(イギリス)

[Racing Post 2021年6月24日「Mahmood Al Zarooni to return to training following eight-year ban」]

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