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2021年04月22日  - No.15 - 2

カラン騎手の香港でのキャリアを終わらせる騎乗停止処分には疑問が残る(香港)[開催・運営]


 香港ジョッキークラブ(HKJC)の裁決委員は、2月3日のハッピーバレー競馬場でのニール・カラン騎手の不注意騎乗について混沌とした審議を行った。その後、4月7日の理由開示審問で同騎手に厳格な制裁が言い渡された。そして4月12日に、カラン騎手がこの制裁があまりにも厳しいことに対して上訴通知を提出したことで、今回の騎乗停止処分をめぐる騒動は新たな展開を見せている。

 アイルランド出身のカラン騎手は、2人の一流調教師や大物馬主など、香港競馬界の名士からの支援も受けて弁明したが、3ヵ月を超える長期の騎乗停止処分を受けた。

 この異常に長い騎乗停止処分は、とりわけSNSや挑発的な競馬関係の匿名掲示板サイト(中国語)で憶測・当てこすり・不確実な説を煽ることになった。HKJCは3本の短いプレスリリースを出したが(合計で230語にしか満たない)、一体全体カラン騎手のどのような行為が不適切だったのかという疑問にこたえるものにはなっていない。

 ルール14(2)条に基づいて、裁決委員による審議後も自身の騎手免許の保持が認められるべき理由を示すために、カラン騎手はHKJCの免許委員会に召喚された。

 このルールでは、免許委員会は「競馬に関係するかどうかに関わりなく、騎手が発行された騎手免許を継続して保持するのに適さない行為を行ったと判断した場合」、騎手免許を取り消すもしくは停止する権限がある。

 さて、香港の最も経験豊かなジョッキーの1人が、香港でのキャリアが終わりそうなほどの厳格な罰を受ける原因となった2月3日の夜、裁決室で何が起こったのだろうか?

 本紙(アジアブラッドストックニュース)の取材に対して、HKJCの上級役員たちは言質を与えず、違反についての詳細を明らかにしなかった。彼らはこれを、カラン騎手・裁決委員・免許委員会の間の機密事項であると考えている。

 しかしHKJCの消息筋によると、カラン騎手が無礼だったというよりもむしろ、懲戒手続きとその統制力を受け入れなかったことが原因であったようだ。同騎手は他で報道されているように"怒りっぽい"とも"無礼"とも見なされていなかった。

 カラン騎手も上訴しようとしている最中なので、この件について公にコメントしたがらなかった。それでも、競走中の出来事についての不正確な描写だと自身が思っている件については、審査員団の議長であるスティーヴ・レイルトン氏とは意見が異なると大きな声で念を押したと述べた。なお、裁決委員長のキム・ケリー氏は出席していなかった。

 カラン騎手が立ち上がり、座るように求められる場面もあった。レイルトン氏とのやりとりの中で、同騎手は「主張しても無駄です。遮られてばかりですし、審査員団は関係なくやりたいように決定するでしょう」と述べた。引退を間近に控えたベテラン裁決委員のレイルトン氏は、その意見に反論した。

 裁定が下されようとしているとき、レイルトン氏、HKJCのフィリップ・チェン会長、ジョセフ・フォック氏(香港終審法院の主席判事で政府任命の国家安全保障法の判事)の3人からなる審査員団は、カラン騎手があくびをしているのを目にした。そしてレイルトン氏は同騎手が敬意を払っているかどうかを疑問視した。カラン騎手は「室内でマスクをしていると暑くて煩わしいのです」と話し、レイルトン氏はその説明を認めた。

 カラン騎手は裁決室を出ようとしたときに不満を訴え続けた。レイルトン氏は「カラン騎手は空港までの道を知っているようですね」と答えたと言われている。同騎手は「そんなに時間はかからないでしょう」と言い返し、それはシーズン終了後に自らの意思で香港を去る可能性を示唆していた。

 カラン騎手が出て行って検量室エリアに入るのを目撃した人々は、この騎手はそのときHKJCのCEOウィンフリード・エンゲルブレヒト-ブレスケス氏に基本的に「もう十分です」というニュアンスの言葉を伝えていたと述べた。カラン騎手は、汚い言葉も罵倒するような言葉も使っていないと語った。

 本紙がHKJCのある役員に、カラン騎手の理由開示審問を実施した詳細な理由を説明するように依頼したところ、HKJCのプレスリリースに再び言及し、2月3日の審議での同騎手の行動を指摘した。

 2ヵ月後の4月7日、3人の免許委員会メンバーの前でカラン騎手の審問が行われた。その3人は、筋金入りの親北京派である政治家マーティン・リャオ氏、香港政府の元経済発展・労働長官スティーブン・イップ氏、香港の元立法議会議員エリック・リー博士で、いずれもHKJCの理事会メンバーでもある。

 ブレスケス氏とHKJCの競走担当専務理事アンドリュー・ハーディング氏もその審問を傍聴していたが、積極的に参加する権限は与えられていなかった。留意すべきは、HKJCの理事会が理由開示審問を始めると、裁決委員がそのプロセスに一切関与しないことである。

 カラン騎手は、自身の弁護士でありハルダネス社(Haldanes)のパートナーであるジェフリー・ブース氏とともに審問に出向いた。ブース氏は、裁定を下す3人のメンバーがカラン騎手の弁明書を読んでいないと考え、自らそれを読み上げた。

 カラン騎手は騎乗停止期間のあまりの長さにショックを受けた。免許委員会は、カラン騎手が11月にジョッキールームで同僚のヴァグネル・ボルヘス騎手に暴言を吐いたことを考慮に入れていた。そのときは、2万5,000香港ドル(約35万円)の過怠金が科されていたので、その重大性が勘案された。

ハーディング氏は本紙の取材に対して、カラン騎手が騎手免許を失うかどうかが問題となった一方で、審査員団は騎手自身が審問に提出した具申書の内容を考慮しなければならなかったという見解を示した。それには、"騎乗免許を失うことが家族、とりわけ学校に通う子どもたちに与える影響"、"英国に転居することの難しさ"について記されていた。

 HKJCの理事会は、騎手免許を取り消すのではなくシーズン終了時まで停止とする審査員団の裁定は思いやりがあると述べた。これにより、カラン騎手はHKJC所有のアパートに住み続け、HKJCの自動車を維持し、HKJCの健康保険が適用され、子どもたちが学校を終え、家族に転居のための航空券を用意することが可能になる。

 しかしカラン騎手はそのようには考えていない。車は彼の所有物で、HKJCのものではない。それに、今回の裁定により3ヵ月間働けなくなったことを問題にしている。シーズンが本格化する前に、荷物をまとめて出ていき英国で騎乗を始めるために適切な予告期間が与えられていた方が、よほど思いやりがあるというものだと、同騎手は考えている。この点でも、騎乗停止期間の長さに注目が集まっている。

 最近では2020年4月に、グラント・ファン・ニーカーク(Grant van Niekerk)騎手がドメスティックバイオレンスによりただちに騎手免許をはく奪された。また、アルベルト・サナ騎手は競走中に馬の全能力を最大限に発揮させることができなかったことで2019年12月11日から2020年1月20日まで騎乗停止処分を受けた。そして、ハワード・チェン騎手はすでに3ヵ月間の騎乗停止と競馬関与停止の処分を受けていたときに審問で銀行記録を提出することを拒否したことで6ヵ月間の騎乗停止処分を受けた。

 HKJCの関係者は、カラン騎手に言い渡された長い騎乗停止処分は、免許を保持することで同騎手とその家族が得られる恩恵に結びついていると見ている。そしてそれこそが、免許委員会が騎手免許を取り消すのではなく停止とした根拠であると述べた。

 カラン騎手の騎乗停止処分が他の競馬管轄区でも適用されるかどうかは、今回同騎手が上訴したので将来決定されることとなる。

 HKJCには海外の競馬統括機関からの騎乗停止処分の相互適用を望むかどうかを決定する特権があり、それは要請書によって行われる。もしそうなれば、カラン騎手は英国においても7月15日まで騎乗できなくなる。免許委員会が下した異例の処分を考えれば、HKJCがIFHA(国際競馬統括機関連盟)を通じて先頭になって推し進めてきた国際ルールの調和に関する疑問が持ちあがることになるかもしれない。

 香港競馬のさまざまな要素に不満を持つ騎手は珍しくないが、それを公言する騎手はほとんどいない。クリストフ・スミヨン騎手は最近短期免許で騎乗した際に、2度の騎乗停止処分を科され、良質馬がいないことにいくらか不満を示していた。また、現在サンタアニタを拠点として活動するウンベルト・リスポリ騎手はカラン騎手と同様に率直な物言いで、以前から不満を表明していた。

 ハーディング氏は、「カラン騎手が厳罰を受けたのは、香港の著名人がいる前で異議を唱えて面目を損なわせたことに関係するのではないか?」、もしくは、「理由開示審問に入る前にカラン騎手の運命は決定していたのではないか?」といった憶測には答えなかった。

 サウスチャイナモーニングポスト紙は、HKJCの3月22日付の「ハリー・ベントレー騎手が4月17日からHKJCの騎手チームに加わる」という発表に言及し、それはカラン騎手の後任が審問前に調達されていたという"強力な手掛かり"だと指摘した。その見解は、上級役員により否定された。

 留意すべきは、HKJCが通常、シーズン末に少なくとも1人の追加騎手を迎えることになっている点である。ルアン・マイア騎手はまだ加わったばかりで、チャド・スコフィールド騎手が腰痛を患っていることを考えると、カラン騎手がいようといまいと、HKJCが騎手チームを補強しなかったのは愚かだったと言えるだろう。

 しかしHKJCが詳細をほとんど発表しなかったことで、騎乗停止処分の性質と長さに関して憶測と答えのない疑問が増大している。香港内外のジョッキーたちもまた、何が起こっているのか訝しがっているのだ。

By David Morgan of Asia Bloodstock News

(1香港ドル=約14円)

[Racing Post 2021年4月13日「Plenty of questions unanswered as Neil Callan suspension saga rumbles on」]

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