レイチェル・ブラックモア騎手、女性で初めてグランドナショナル優勝(イギリス)[その他]
今日、一人の人生が永遠に変わった。そしておそらく、競馬界も同様に変わった。
エイントリー競馬場では今日、わずか数百人の観客の前で、世界中の人々にめまいを引き起こしたであろう偉業が達成された。世界で最も偉大で有名な障害競走の173回目の開催で、長いあいだ大胆なフィクションの中でしかあり得ないと思われていたことが、輝かしい事実として刻まれたのだ。
一人の女性がグランドナショナル(G3)で勝利を挙げた。レイチェル・ブラックモア、彼女こそがすべてを変えた女性でありジョッキーである。
ミネラタイムズ(Minella Times)に騎乗した彼女はまったく壮麗だった。ちょうど、ハニーサックル(Honeysuckle)でハイライトとなる勝利を収めてチェルトナムフェスティバル(3月16日~19日)で主役となったときもそうだった。いや、その時と同じくらい素晴らしかったというのは確かにそうなのだが、ここで起こったことはまったく桁外れだった。グランドナショナルは障害競走の世界において、他のあらゆるものを大きく超越している。そして今、この驚異的な騎手も大きく跳躍して、世界中の観客の前で最も高いガラスの天井を打ち破ってしまったのだ。
もちろんそれは彼女だけの力で達成されたことではなく、これほど謙虚な人物がそのように描かれるのを望んでいるはずがない。チェルトナムフェスティバルでチャンピオンハードル(G1)、チャンピオンチェイス(G1)、ゴールドカップ(G1)を制覇して歴史に名を残したヘンリー・ド・ブロムヘッド調教師は、自身にとって初めてのグランドナショナル優勝を手にしただけでなく、2着も達成した。
同調教師は単勝101倍で2着となったバルコデフロ(Balko Des Flos)も管理していた。また、アイルランド調教馬はエニーセカンドナウ(Any Second Now)が3着、バーロウズセント(Burrows Saint)が4着に入り上位11頭のうち10頭を占め、30の障害からなるマラソンレースを完全に支配した。
何が起こったかを書いてみると驚きだ。ブラックモア騎手がグランドナショナルを制した姿は、見る者を驚愕させた。"私はそこにいた"と言えるのはごく少数の幸運な人だけだが、ブラックモア騎手はまさにそこで快挙を達成した。正直言って、それが本当に大事なことだった。
ブラックモア騎手は優勝後にまだミネラタイムズの上に座っているとき、「信じられません。彼はまったくセンセーショナルな猛ダッシュをしてくれました。彼に乗れて本当にラッキーだったし、グランドナショナルで勝ったなんて信じられません。今、自分が男性だとも女性だとも感じていません。人間だとも思えないんです。信じられないことばかりです」と語った。
つい最近までは、本当にそうだった。
1977年、シャーロット・ブルー騎手がこの難関に挑んだ最初の女性として名を馳せた。その5年後には、ジェラルディーン・リーズ騎手が女性騎手として初めて完走し、当時「女の子のレースではない」とよく言われていたこのレースで、大差ながらも嬉しい8着でゴールした。その頃、グランドナショナルはそのようなレースではなかったけれど、それは主に女性に対する差別とチャンスの少なさによるものだった。
若い女性は、映画『緑園の天使(National Velvet)』(1944年)でエリザベス・テイラー演ずる主人公が先頭でゴールするのを見て満足するしかなかった。その映画ですら、彼女は騎手としての資格がないという理由で失格になるという不名誉を被ったのである。
今年の無観客のグランドナショナルの前には、2012年にケイティ・ウォルシュ騎手がシーバス(Seabass)で3着に入ったことが、分岐点となる革命に最も近いものだった。この時ブラックモア騎手は、勢いづくのに時間のかかったキャリアの初期段階にあった。しかし彼女はミネラタイムズの鞍上で好機を待ったように、自分の才能が報われるのを待った。ミネラタイムズは馬主のJ・P・マクマナス氏にとって、2010年にドントプッシュイット(Don't Push It)に続く2頭目のグランドナショナル優勝馬となった
今回のグランドナショナルでの悲しい出来事は、マクマナス氏が所有するザロングマイル(The Long Mile)が2周目で故障を発症し、命を落としたことだ。障害競走は勝利の喜びと絶望が入り混じることの多いスポーツである。そのことは今週、またもや明らかなものとなった。4月8日(木)にトーントン競馬場でローナ・ブルック騎手が重傷を負った。グランドナショナルを制したブラックモア騎手が祝杯をあげているときには、ブライオニー・フロスト騎手がリバプールの病院に搬送された。魔法のような瞬間は楽しみ味わうべきものである。これほどまでに甘美な瞬間を味わった者はまずいないのだから。
31歳のブラックモア騎手はこの夢を実現するために、サム・ウォーリー⁻コーエン騎手とジェット(Jett)が大きくリードする中、ミネラタイムズを制御して豊富な忍耐力を見せつけた。単勝6.5倍の1番人気馬クロスキャップ(Cloth Cap)は傑出したレースぶりを見せたが、すぐに失速し、最終的には最後から3つ目の障害の手前で競走を中止した。そして単勝12倍のミネラタイムズは楽に先頭に立つことができ、ほとんど空のグランドスタンドの前を力強く疾走し、6½馬身差の勝利を収めた。
ド・ブロムヘッド調教師はこう語った。「最高の気分です。彼女はずっと素晴らしい進路を辿っていました。運が私たちに味方してくれ、ミネラタイムズは彼女にこたえて障害を飛越していました」。
「子どもの頃からグランドナショナルを見てきました。本当にラッキーですし、レイチェルが乗ってくれて本当に良かったと思います。彼女が出てきたことで古い型枠は壊されました。彼女はきわめて優秀です」。
彼女は最も重要な舞台において、競馬界に真の意味での決定的な日をもたらした人物でもある。
ブラックモア騎手はこう語った。「このレースで騎乗することも、表彰台に立ってトロフィーを間近に見ていることも想像しませんでした。騎手としてキャリアを築くことを夢見たこともありませんでした。なぜならそれを実現できると思えなかったからです。夢は大きく持ち続けましょう。それが私からのメッセージです」。
「自分がレイチェル・ブラックモアだなんて信じられません。それが私であるなんて信じられません。このレースは、ポニーに乗った子どもたちの夢をかきたてるものです。まさに驚異的です。実際にこのようなことを達成できるなんて信じられません」。
もはや信じられないことではない。実際に起こったことであり、それを目にしたときの喜びはひとしおだった。レイチェル・ブラックモアとミネラタイムズのおかげで、このエイントリーで開催されたのは、最も壮大なグランドナショナルとなったのだ。
By Lee Mottershead