エネイブル、凱旋門賞に続きBCターフを制して歴史的偉業達成(アメリカ)[その他]
フランキー・デットーリ騎手は11月3日、チャーチルダウンズ競馬場の雨で湿った芝コースで施行されたBCターフ(G1 約2400m)において、名牝エネイブルのために一番走りやすいコースを通るように決めていた。エネイブル陣営は、同騎手のこの決意が同馬のレガシー(遺産)をどれほど増大させるかについて知る由もなかった。
ジャドモントファームの自家生産馬エネイブルは凱旋門賞(G1)を連覇した。そして今や、ブリーダーズカップ競走を制した初めての凱旋門賞馬となった。最終コーナーで大外を回ったことで、ファンはエネイブルが歴史的記録を作る瞬間をつぶさに見ることができた。
デットーリ騎手はウィナーズサークルに向かうときに、「やりました!彼女はアメリカを制覇しました!」と大声を上げた。
エネイブルは確かに、米国最強のターフ馬を置き去りにした。しかし最終コーナーからゴールまでは、同じく欧州から遠征してきたマジカル(Magical)と戦わなければならなかった。デットーリ騎手はレース前半でエネイブルが苦心していると感じ、体勢を整えるのに専念していた。クールモアの3歳牝馬マジカルに騎乗していたライアン・ムーア騎手は、コーナーで内側を回ったのを活かして直線で優位に立ち、決勝線まで古馬エネイブルに互角の戦いを挑んだ。しかしデットーリ騎手はエネイブルをコースの中央に向かわせ、同馬は4歳牝馬の貫録でマジカルに¾馬身先着し優勝した。
エネイブルは、病気と怪我のために活躍が妨げられたシーズンを最高の偉業で締めくくった。BCターフは同馬にとって2018年のわずか3戦目だった。これまで一敗しか喫していないエネイブルは、今回の勝利で連勝を9に伸ばした。
ジョン・ゴスデン調教師は、「エネイブルはとても勇敢で精神的に強く、実力を発揮しました。度胸と意志の強さで今日の偉業を成し遂げました」と述べた。
ジャドモントファームのレーシングマネージャーであるテディ・グリムソープ(Teddy Grimthorpe)氏はこう語った。「5月に怪我という挫折を味わいましたが、順調に回復しました。ただ馬房に戻されてからは、調教を控えていたこともあり、イライラしていました。ゆっくり休ませる必要がありました。その後、常歩・速歩・キャンターを再開しました。彼女が元気であることを確認するために必要なプロセスでした。今日素晴らしいパフォーマンスが達成できたのは、このプロセスがありとあらゆる効果をもたらしたからです」。
発走は完璧ではなかった。グロリアスエンパイア(Glorious Empire)が先行して馬群を率いており、エネイブルは5番手を走っていた。デットーリ騎手は好位をキープするのに手こずっていた。同時に、「2ハロン:24秒65」「4ハロン:49秒11」というタイムは、やや重の約2400mのレースでは速いと感じていた。
デットーリ騎手はこう語った。「エネイブルは混乱してぎこちなく走っていました。内埒から離して体勢を整えると、動きが良くなりました。満足したのでしょう。ジタバタしなくなりました。このペースではもたないと分かっていたので、彼女が"準備はできた"と合図するのを待っていました。そして"ただ待つだけだ。彼女に深呼吸させて、直線まで待とう"と自分に言い聞かせました」。
グロリアスエンパイアは依然として先頭を走り、マイル地点を1分40秒55で通過した。そのときエネイブルは7番手を走っていた。デットーリ騎手に促されて抜け出し、遮るもののない大外を回った。およそ9頭の外側を回ったエネイブルは一緒に上がってきたマジカルを追いかけるかたちとなり、この2頭だけが馬群を離れた。そして「やや重」とされている芝コースで2分32秒65のタイムを出してゴールしたときには、3着のサドラーズジョイ(Sadler's Joy)を9馬身も引き離していた。
デットーリ騎手は英チャンピオンズフィリーズ&メアズS(G1)を制して参戦したマジカルについて「彼女は私をにらみつけてきました」と述べ、「そのとき、エネイブルをトップギアに入れずに待つことにしました。行ってくれるかどうかは、ちょっとしたサスペンスなのですが、彼女は期待に応えました。神に感謝するのみです」と語った。
「エネイブルが私のために懸命に走ってくれました。ライアンは離れず、ずっと迫ってきました。彼女は重馬場を得意としますが、この馬場は苦手だったようです。ギブアップするような瞬間がいくらもあったのですが、彼女は果敢に立ち向かいました。とても我慢強い馬です。3着馬との着差がそれを物語っているでしょう。物凄い牝馬です」。
エネイブル(父ナサニエル 母コンセントリック 母父サドラーズウェルズ)は、ペブルス(Pebbles)、ミスアレッジド(Miss Alleged)、ファウンド(Found)に続きBCターフを制した4頭目の牝馬である。通算成績は11戦10勝(3着1回)。獲得賞金は1,070万5,631ドル(約12億3,115万円)。
エネイブルは今回のブリーダーズカップにおいて、BCマイル(芝G1)を制したエキスパートアイ(Expert Eye)に続き、カリド・アブドゥラ殿下の生産事業体ジャドモントファームの2頭目の勝馬となった。
グリムソープ氏はレース後の記者会見でこう語った。「2頭の偉大な優勝馬を出し、ジャドモントファームにとって歴史的な日となりました。それにエネイブルは他の馬が成し遂げたことのない快挙を達成しました。アブドゥラ殿下はブリーダーズカップの熱心なサポーターです。スケジュール帳を書き始めるときはいつも、ブリーダーズカップの日程と開催場を知りたがります。殿下はブリーダーズカップの設立当初からの忠実な支持者であり続け、このイベントのコンセプトを知り尽くしています。ですから、いつも最高の馬を出走させています」。
エネイブルが初めての米国遠征をファッションモデルのように落ち着きはらってこなしたこと、そしてマジカルをプロボクサーの気概で打ちのめしたことにより、競馬界はもっと同馬を見ていたいという気持ちにさせられただろう。しかしエネイブルの今後については、ファンは推測するしかないだろう。
グリムソープ氏はこう付言した。「この勝利を満喫することが、最も大切です。私たちは何事も早く決めてしまう傾向にあります。今回の偉業で、チーム全体が感動しました。殿下もこの勝利を喜んでいることでしょう。急ぐことはありません。彼女はニューマーケットの厩舎に戻ります。彼女が元気であることを確認してから、今後について考えます」。
By Claire Crosby
(1ドル=約115円、1ポンド=約150円)
[bloodhorse.com 2018年11月3日「Enable Makes History With Brilliant BC Turf Win」]