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2018年11月01日  - No.42 - 4

ニューヨーク競馬界のリーダー的存在、ヴァイオレット調教師が死去(アメリカ)[その他]


 リック・ヴァイオレット(Rick Violette)調教師(65歳)は1021日、フロリダ州デルレイビーチの自宅において、がん治療に関係する合併症で亡くなった。同調教師は数年前から肺がんの闘病生活を送っていた。

 ニューヨーク州のホースマンと厩務員を精力的に支援したヴァイオレット氏は、1977年に調教活動を開始した。マサチューセッツ州のウースター出身の同氏は、10代のときに初めて馬の魅力に引き付けられた。同氏は出身校であるマサチューセッツ大学ローウェル校のインタビューにこう答えている。「モントリオール万国博覧会(1967428日~1027日)から車で帰ってくる途中、両親と私はニューヨーク州北部の農場のような所で休憩しました。子供たちはポニーに体験乗馬ができ、私も30分ほど乗りました。それだけで馬に夢中になりました」。

 ヴァイオレット氏は優秀な馬術競技の選手となり、1975年に学位(政治学)を取って大学を卒業するとすぐに、調教師免許を取得した。そして1978年にロッキンガムパーク競馬場(ニューハンプシャー州。2016年に閉場)で初勝利を挙げた。その後ウッドバイン競馬場(オンタリオ州トロント)で3年間、デヴィッド・ホワイトリー(David Whiteley)調教師の助手として働いた。そして1989年にレキシントンS(芝G3 ベルモントパーク競馬場)をクーサラッガ(Coosaragga)で制して、重賞初勝利を果たした。

 ヴァイオレット氏はニューヨーク競馬界で頭角を現し、ニューヨーク州産馬リードザフットノーツ(Read the Footnotes 父スモークグラッケン)で2003年にナシュアSG3)とレムセンSG2)を制した。同馬は2004年ファウンテンオブユースSG2)で優勝し、ケンタッキーダービー(G1)では7着となった。

 近年で注目された活躍馬は、同じくニューヨーク州産馬のサムラート(Samraat 父ノーブルコーズウェイ)である。同馬は2014年にウィザーズSG3)とゴッサムSG3)を制し、ウッドメモリアルSG1)で2着となった。長年の常連馬主レオナード・リッジオ(Leonard Riggio)氏のマイメドウビューステーブル(My Meadowview Stable)に所有され、ケンタッキーダービーでは5着となった。

 ヴァイオレット氏は2015年、再びケンタッキーダービーに管理馬を出走させた。それは30年来の付合いのラルフ・エヴァンス(Ralph Evans)氏とウィンスターファーム(WinStar Farm)が所有したアップスタート(Upstart 父フラッター)だ(結果は最下位の18着)。同馬は重賞を複数回制して、獲得賞金170万ドル(約18,700万円)で引退した。

 ニューヨーク州産馬での快進撃は続き、ヴァイオレット氏は最近では2017年ジョッキークラブゴールドカップSG1)をダイヴァーシファイ(Diversify 父ベラミーロード)で制した。これはドリームラッシュ(Dream Rush)の2007年テストSG1)優勝以来のG1優勝だった。ダイヴァーシファイは今年7月にサバーバンSG2 ベルモントパーク競馬場)、8月にホイットニーSG1 サラトガ競馬場)も制している。ダイヴァーシファイの馬主はラルフ・エヴァンス氏とその娘ローレン氏。

 エヴァンス氏はこう語った。「ヴァイオレット氏は家族も同然で、彼のお母様や兄弟とも親しくしていました。大きな喪失感をおぼえます」。

 ヴァイオレット氏はそのキャリアにおいて、重賞勝馬13頭を送り出し(重賞36勝)、獲得賞金は4,450万ドル(約489,500万円)以上に上っている。

 しかしこのような調教師としての素晴らしい成績にもかかわらず、同氏はそれ以外の分野においても競馬産業に大きく貢献したことで有名だった。ヴァイオレット氏は25年間ニューヨーク州サラブレッドホースメン協会(New York Thoroughbred Horsemen's AssociationNYTHA)の理事を務めた後、10年にわたって理事長を務めた。

 NYTHAの現理事長ジョー・アッペルバウム(Joe Appelbaum)氏はこう語った。「ホースマン、厩務員、そして競馬界全体は本日、喪に服しています。私たちは、聡明で粘り強く不屈の精神をもつリーダーを失いました。彼はこれまでに例がないほど競馬界のために尽力しました。労災補償から競馬番組、労働者の福祉にいたるまで、リックが深く関わらなかった分野はなかったほどです。この4年間、沢山のことを学ばせてもらいました。リックは私と働きながら、非常に多くのことを教えてくれました。競馬の歴史、厩舎地区の内部の動き、現代の調教師が直面している経済状況。彼がいなくなり寂しくなります」。

 ヴァイオレット氏は様々な問題を解決するために努力とエネルギーを絶え間なく注ぎ、慈善事業のためにNYTHAから数百万ドルを寄付した。中でも、厩務員のための福祉と奨学金制度、NYTHAの財政安定化、薬物方針の統一化などに取り組んだ。

 ホースメン協会(Thoroughbred Horsemen's Association)のアラン・フォアマン(Alan Foreman)会長は1021日の声明でこう述べた。「私たちは友人・同僚・リーダーだったリック・ヴァイオレット氏の死去に際し、深く悲しんでいます。リックの競馬産業への貢献を的確に言い表す言葉が見つかりません。端的に言えば、競馬産業の偉人であり、ニューヨーク州そして全米の競馬産業に大きな影響力を持っていました。競馬産業のリーダーはしばしば批判されるものですが、リックは愛されていました」。

 「リックの友人や同僚が8月にサラトガ競馬場で彼の功績を称え、ヴァイオレット賞の設立を発表したことを有難く思っています。これにより、彼の偉業は長く記憶にとどめられるでしょう。ヴァイオレット賞は、① 競馬界の公正確保・最善の利益、② ライブ競馬の存続、③ レースの公平性、④ 人馬の健康・安全・福祉、⑤ ホースマンと厩務員の最善の利益のために、リックのように尽力した個人を表彰します。私たちは適切でふさわしい受賞者を見つけるために産業内をくまなく探すつもりです」。

 ヴァイオレット氏はサラブレッド・アフターケア同盟(Thoroughbred Aftercare Alliance)の創設メンバーであり、引退競走馬も積極的に支援した。また、NYTHA TAKE2セカンドキャリアサラブレッドプログラム(NYTHA TAKE2 Second Career Thoroughbred Program)とTAKE THE LEADサラブレッド引退プログラム(TAKE THE LEAD Thoroughbred Retirement Program)を創設した。

 アンディ・ベルフィオア(Andy Belfiore)氏はNYTHAでヴァイオレット氏が理事長を務めた頃からの専務理事であり、以前は厩舎地区でヴァイオレット氏のもとで働いていた。同氏はこう語った。「リックはニューヨーク競馬界に貢献することを何よりも優先しました。ホースマン・厩務員・競走馬を支援することに情熱を傾けており、"厩務員サービスチーム(Backstretch Employee Service TeamBEST)"の共同議長やNYTHA TAKE2セカンドキャリアサラブレッドプログラムの理事長も務めていました。かけがえのない指導者であり上司でした。それに、信じられないほど思慮深く寛大で素晴らしい人物でした。彼と友人になれて幸運でした」。

 遺族はリックを偲ぶ人々に対し、花を手向けるよりもTAKE2BESTに寄付するよう望んでいる。

By Teresa Genaro

1ドル=約110円)


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