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海外競馬ニュース
2016年09月29日  - No.39 - 1

ゴスデン調教師、スピード重視の生産は競馬を破滅に向かわせると警告(イギリス)[その他]


 ニューマーケットを拠点とするジョン・ゴスデン(John Gosden)調教師は9月5日、サラブレッド生産が商業重視になっていることで、セントレジャーS(G1・約2937m)のような長距離競走は危機に瀕していると警告した。そして、クールモア牧場とその姉妹施設バリードイル(Ballydoyle ジョン・マグニア氏が所有する調教センター。1995年からエイダン・オブライエン氏がヴィンセント・オブライエン氏の後を継ぎ、ここの調教師を務める)が中距離部門で優位を占め、成功を収めていることを褒めたたえた。

 クラシック三冠競走の最終戦であるセントレジャーSは、9月10日にドンカスター競馬場で施行される。現在、出走登録馬15頭のうち7頭がエイダン・オブライエン(Aidan O'Brien)調教師の管理馬であり、中でもアイダホ(Idaho)は1番人気に推されている。同レース5勝目を狙うゴスデン調教師は、ムンタハー(Muntahaa)をアイダホと対戦させる。

 セントレジャーSのメディア向けイベント(ロンドンで開催)に出席したゴスデン調教師は、クールモア牧場ではスピードとスタミナが適切にブレンドされた馬を生産しているので、オブライン調教師は中距離部門で支配的地位に立つことができると語った。

 そして熱のこもった口調で、「貴族階級のオーナーブリーダーの減少とセリで売るための生産パターンによって、セントレジャーSやアスコットゴールドカップ(G1・約4023m)に出走する馬は大幅に減りました」と警告した。

 ゴスデン調教師はこう語った。「英国の競走馬はますます短距離血統になっています。結果として、短距離レースにおいて退屈で同じような競馬が繰り返されていることを憂慮しています。だからこそ、セントレジャーSは重要なのです」。

 「長距離レースが得意な馬は、このレースから出てきます。クールモア牧場とバリードイルは、物怖じせずに管理馬をアスコットゴールドカップに挑戦させます。彼らは競馬界の複雑な構造と商業市場のせいで、長距離馬の多くが他に追いやられているのを分かっています」。

 「これは、私たちが大いに意識しなければならないことです。さもなければ、1½マイル(約2400m)の距離は突然私たちにとって、米国におけるマラソンレースのようなものになるでしょう」(訳注:米国では通常2000mを超える競走をマラソンレースと呼ぶ。米国馬は長距離を得意とせず、これらのレースは廃れつつある)。

 そしてこう続けた。「私が言いたいのは、今やこれは深刻な問題であるということです。人々は以前、競走させるために馬を生産していました。しかし今ではセリのために生産しています。セリのためであれば、よく売れるように、スピードを重視して生産します。時代遅れの馬を生産するわけにはいきません。セリで売るためには、2歳で6~7ハロン(約1200~1400m)を得意とするか、3歳で1マイル(約1600m)を得意とするといった強味を持たせなければなりません」。

 「その結果として、馬のスタミナはますます欠如してゆきます。古いタイプのオーナーブリーダーは絶滅危惧種であり、いなくなったも同然です」。

 「それ程までに、1½マイル(約2400m)や1マイル6ハロン(約2800m)の競走において、"スタミナが持ち、末脚を使え、垂れない馬"を十分に作れなくなっているという危機に陥っています」。

 オブライエン調教師は、これまでにセントレジャーSで4勝している。また、今シーズンは英オークス(G1)、愛オークス(G1)、ヨークシャーオークス(G1)、アスコットゴールドカップで優勝し、英ダービー(G1)と愛ダービー(G1)の2着馬を出している。

 ゴスデン調教師はこう語った。「クールモア牧場が中距離部門で卓越している理由は、故ヴィンセント・オブライエン(Vincent O'Brien)調教師がノーザンダンサー(Northern Dancer)、サドラーズウェルズ(Sadler's Wells)、ガリレオ(Galileo)、モンジュー(Montjeu)を管理していた時代から、彼らがそれにふさわしい努力をしてきたからです。クールモア牧場が多くの馬を出走させることができる理由は、1¼マイル~1½マイル(約2000m~2400m)を持ちこたえ、終盤で追い込むことのできる馬を手にしているからです」。

 「エイダンは、純然たる中距離馬で私たちを負かしてきました。セントレジャーSの出走馬の半分が彼の管理馬だということは驚くに値しません」。

 「ヴィンセント・オブライエン氏は誰よりも一歩先を行っていました。スピードとスタミナを併せ持つのは珍しいことであり、私たちは生産計画において失ってはならないものとして十分注意を払わなければなりません。私は幸運にも、1½マイル(約2400m)までスタミナが持つマイル馬になるべく生産されたゴールデンホーン(Golden Horn)のような馬を管理することができました。彼はマイル馬と言ってもよい馬でした」。

 ムンタハーはグレートヴォルティジャーS(G2・ヨーク競馬場)でアイダホと対戦せずに、ハンデ戦のチェスターS(L)に出走した。そのレースをアタマ差で制したことで、セントレジャーSではオッズ11-2(6.5倍)の2番人気に推されている(9月5日現在)。

 ゴスデン調教師はこう付言した。「ムンタハーは、スタミナのある素晴らしい馬です。チェスターSで優勝して多くのことを学んだようです。グレートヴォルティジャーSでアイダホと対戦させたくはありませんでした。臆病というわけではなく、馬にとって適切なレースを選択したということです」。

 「調教でもよく動きましたし、ヨーク競馬場での対戦を回避したのは調子が悪かったわけではありません。結果的にそれが大きな助けとなりました。とはいえ、ムンタハーは遅めの馬場を得意としていますが、9月10日にはそのような馬場状態にならないかもしれません」。

 [訳注:セントレジャーS(9頭立て)を制したのはオッズ22-1(23倍)で7番人気のハーバーロウ(Harbour Law)。アイダホは残り約800mでつまずきへファーナン騎手が落馬。ムンタハーは4着に敗れた]。

By Jon Lees

[Racing Post 2016年9月6日「Gosden: breeding for speed will be the ruin of racing」]


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