騎手のレース前の懸念は時として無視される(アメリカ)[その他]
騎手は、レース直前の馬の状態について懸念を感じた場合、州競馬ルールと開催執務委員は騎手をサポートすべきと考えている。
エクリプス賞受賞騎手であるジョン・ベラスケス(John Velazquez)騎手はチャーチルダウンズ競馬場で施行された2010年BCレディースクラシック(G1)でライフアットテン(Life At Ten)に騎乗に関する訴訟に対し回答するだろう。その訴訟とは、発走数分前にESPN(Entertainment and Sports Programming Network 娯楽スポーツテレビ放送ネットワーク)のジェリー・ベイリー(Jerry Bailey)氏のインタビュー受けた際に懸念を表明していたにも拘わらず、出走するには十分ではない健康状態の同馬の騎乗を引き受けたというものである。
また、そのレースのわずか2週間前に、同じくエクリプス賞受賞騎手であるギャレット・ゴメス(Garrett Gomez)騎手がキーンランド競馬場のクレーミング競走の返し馬で、ストリームオブゴールド(Stream of Gold 9歳・愛国産)について懸念を表明したことがあるが、ケンタッキー州競馬委員会(Kentucky Horse Racing Commission: KHRC)は騎手と競走馬の安全性に無頓着であったと複数の騎手は述べている。ゴメス騎手は騎乗を辞退したが、KHRCの獣医であるブラッド・ベンツ(Brad Bentz)博士はG2勝馬である同馬の出走を容認した。ゴメス騎手に代わりヴィクター・レブロン(Victor Lebron)騎手が騎乗することになったストリームオブゴールドは、凡走し7着に終わった。同馬はそれ以来、3月12日現在まで再出走していない。
ゴメス騎手のエージェントであるロン・アンダーソン(Ron Anderson)氏は、「私は1973年からエージェントとして働いていますが、それは私が目にした最も奇妙な事態の1つでした。決して理解できないであろう理由によって、州の獣医師が世界一流の騎手を批判したのです。私はその決定が信じられませんでした」と述べた。
その数日後にストリームオブゴールドを管理するマイク・メーカー(Mike Maker)調教師はゴメス騎手が騎乗予定であった数鞍を他の騎手を変更した。レブロン騎手はその後、自身もストリームオブゴールドの状態については心配していたが、もし騎乗を拒否すれば仕事に悪影響が及ぼされると考えたと語った。
ゴメス騎手は次のように語った。「私が考えたことは、もしストリームオブゴールドが落馬事故を起こしたら、2〜3頭の後続馬が故障するか予後不良になったかもしれない、あるいは2〜3人の騎手が怪我をするか亡くなっていたかもしれないということです。私たちは出走直前の馬に関わる人間です。競走馬はどの段階においてもよくチェックされているかもしれませんが、パドックや馬道において悪い出来事が発生することもあります。最終段階の馬の状態判断をするのは私たちの仕事です」。
「私たちは馬を出走させるのに多くのお金と手間が掛けられていることを理解していますが、私たちはその馬に細心の注意を払わなければなりません」。
ニューヨーク州の他いくつかの州は騎手が騎乗を拒否した場合、馬の出走除外を義務付けている。騎手組合(Jockeys’ Guild)はこのルールが一般的なものになるべきであると考えている。
騎手組合のテリー・ミックス(Terry Meyocks)事務長は、「このルールはファン、馬、騎手を保護します」と述べた。
著名な馬主でもあり、ベラスケス騎手の弁護を行うマギー・モス(Maggi Moss)弁護士は、ケンタッキー州でベラスケス騎手に対して起こされた訴訟について、ストリームオブゴールドの件を不条理な規則に縛られて身動きの取れない騎手の例として挙げた。
モス弁護士は、「ベラスケス騎手が言った自明の理は以下のことです。“私は何千頭もの馬に騎乗してきました。返し馬でぱっとしなくてもレースで素晴らしい走りを見せる馬もいます。逆に返し馬が完璧であってもレースでは平凡な走りを見せる馬もいます”」と述べた。
ライフアットテンに関するケンタッキー州の裁決委員の報告において、騎手組合の代表者たちは、マイク・スミス(Mike Smith)騎手とアレックス・ソリス(Alex Solis)騎手が懸念を表明した馬に騎乗することを強要され、それらの馬が予後不良となったカリフォルニア州での事故に言及している。
ゴメス騎手が騎手の懸念は適切に扱われるべきであると発言した10月23日のキーンランド競馬場での会議を受けて、同競馬場は騎手が返し馬の時に要求すれば馬を出走除外にすることを義務付ける開催に関する内規を施行した。ゴメス騎手は、調教師の多くがレースの前に馬に関してすべて良好であると確信しているかどうかを騎手に積極的に確認していると付言した。
By Frank Angst
[Thoroughbred Times 2011年3月19日「Jockeys’ prerace concerns sometimes ignored」]