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海外競馬ニュース
2009年11月05日  - No.44 - 3

ブラウン首相のトート社売却の決定は 自暴自棄か(イギリス)[開催・運営]


 ゴードン・ブラウン(Gordon Brown)首相は10月12日に、今後2年で160億ポンド(約2兆7200億円)の国有財産の売却計画を発表し、トート社(パリミューチュエル方式の 発売公社)が売却対象となることを明らかにした。トート社に関する突然の方針変更について、BHA(英国競馬統轄機構)のポール・ロイ(Paul Roy)会長は同日夜、「自暴自棄のようです」と批判した。

 ロイ会長は、「この方針変更のタイミングは、金融市場の動向や政権交代の可能性など、あらゆる観点から見て非常に奇妙です。自暴自棄なのでしょう か。(政権末期の)ドタバタです」と述べた。(訳注:英国では、2010年6月までに実施される総選挙で労働党から保守党への13年ぶりの政権交代の可能 性がある)

 トート社のCEOであるボーモント氏は、この発表に非常に驚き、「発表があることを全く知らされていませんでした」と述べた。

 同氏は、「とりわけ長い間苦労してきた誠実なスタッフに事情を説明する必要があります。私は状況を把握するために、所管官庁である文化・メディア・ス ポーツ省(Department of Culture, Media and Sport: DCMS)に緊急会合を開くよう要請中です」と語った。

 DCMSから迅速な回答が得られていないことから見て、DCMS自体ブラウン首相の早朝の発表に不意をつかれたようだ。

 ボーモント氏は、「政府が2004年にトート社売却のために法律を制定して以来、トート社を売却する動きがこれまで3度ありました。その間に競馬コン ソーシアム(racing consortium)は買収額を4億ポンド(約680億円)、そのあと経済情勢の変化に基づき3億2000万ポンド(約544億円)と提示したのですが 財務省に却下されました」と述べた。

 金融街シティーの情報筋は、「現在金融市場は低迷しているので、トート社の売却は2億ポンド(約340億円)以上では実現しそうにありません」と述べた。

 ゲリー・サトクリフ(Gerry Sutcliff)スポーツ大臣は約1年前の2008年10月22日(公開市場で売却する合意ができてから7ヵ月後)、金融市場が危機的状況にあることを理由として、売却を当分の間凍結すると発表した。

 その後ボーモント氏、マイク・スミス(Mike Smith)新会長などトート社経営陣は、企業価値を高めることと、厳しい経営環境を乗り切ることを目標として取り組んできた。

 ところが10月14日、ブラウン首相が金融情報メディアのブルームバーグ社(Bloomberg)で、財界人たちの聴衆を前に講演した際に、「国有財産 を今後2年間に160億ポンド(約2兆7200億円)売却するつもりです」と発表したことで、トート社の事業経営の行方がふたたび不確実になった。

 ブラウン首相は売却物件として、学生ローン債権、ダートフォード・クロッシング(テムズ川にかかる橋とトンネル)、クロスチャンネル・レイルリンク(英 仏海峡トンネルの英国側出口とロンドンのセント・パンクラス駅を結ぶ鉄道路線)、ウレンコ(Urenco:政府が3分の1の株を有している核燃料会社)お よびトート社を例示し、総額は30億ポンド(約5100億円)になると述べた。

 ブラウン首相は、これらの売却物件に続いて他の施設や資産も売却し、その総額は今後2年間で130億ポンド(約2兆2100億円)になる見込みと付言した。

 紆余曲折を経て1年間棚上げ状態となっていたトート社の売却手続が再開されるかどうかは、ボーモント氏がDCMSに尋ねれば明らかになるだろう。

 政府に対して以前に買収を申し出ていたガラ・コーラル社(Gala-Coral)のニール・グールデン(Neil Goulden)会長は、ダウジョーンズ・ニュース社(Dow Jones news agency)に対して次のように語った。「ゲーミング営業に関する税制や規制について、政府の方針が定まらない状況にあります。トート社を最大限高く売 却するタイミングだと考えているなら、それは奇妙です」。

 資産運営会社ニュースミス・キャピタル・パートナーズ社(NewSmith Capital Partners)の創設者でもあるBHAのロイ会長は、この時期のトート社売却は現実的ではないと批判した。

 ロイ会長は、ガラ・コーラル社は経営リストラを進めており、またラドブロークス社(Ladbrokes)とウィリアムヒル社(William Hill)はそれぞれ株主割当による新株発行にまさに着手していることを指摘した。

 同会長は次のように語った。「資金調達には深刻な問題があります。ガラ・コーラル社は買収資金を集めることができませんし、ウィリアムヒル社とラドブロークス社は株主たちに株主割当発行は負債を減らすためのものでありトート社の買収のためではないと説明しています」。

 「彼ら3社以外に購買者となる可能性のある企業はないでしょう。特に新規株式公募(initial public offering: IPO)市場はまだ低迷が続いており、新規株式に対する信用供与に慎重なので、まったく期待が持てません。私は、トート社を市場に出して民営化しようとす る政府の見識を深刻に疑っています」。

 「特に来年に総選挙を控えていることを考慮すると、トート社売却の発想が考え抜いた末に出てきたものとは、到底信じられません。これはまるで、家を抵当に入れたので家具などの家財はひとまとめに捨ててしまえと言うようなものです」。

 馬主協会(Racehorse Owners' Association)のポール・ディクソン(Paul Dixon)会長は即座に、政府に対して“売却収入の半分を競馬に譲る”という公約の存在を指摘した。

 ディクソン会長は「ゲリー・サトクリフ大臣は、売却収入の50%は競馬に与えると繰り返し約束しています。だから、もしトート社が競馬界以外に売却されるなら、政府にその約束を尊重してもらいたいと競馬関係者は思うでしょう」と述べている。

 10月14日にこの問題を貴族院で取り上げたリプシー卿(Lord Lipsey)は、「法的には政府がトート社を所有しておりますが、心情的には同社は競馬界のものです。トート社の売却収入によって国の借金を返済するの は、競馬界を犠牲にするものであり、競馬界が憤慨するのは当然です。首相はそれを理解しているのですか?」と述べた。

By Howard Wright
(1ポンド=約170円)

[Racing Post 2009年10月13日「Brown u-turn on Tote sale ‘smacks of desperation’」]


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