ムルタ騎手、チーム戦術で懲罰委員会に出頭(イギリス)[その他]
9月23日英国競馬統括機構(British Horseracing Authority: BHA)は、2日後の懲罰委員会のチーム戦術に関する審理に、エイダン・オブライエン(Aidan O’Brien)調教師とコルム・オドノヒュー(Colm O’Donoghue)騎手のほかに、ジョニー・ムルタ(Johnny Murtagh)騎手を出頭させると発表し、世間を驚かせた。
懲罰委員会は、8月にニューマーケット競馬場で施行され、デュークオブマーマレード(Duke of Marmalade)が優勝したインターナショナルSにおいてチーム戦術に関する規程違反があったかどうかを審理する。
レース当日には、懲罰委員会への審理要請はなかったが、その後レースの再検討がなされ、3週間前に審理の実施が発表された。BHAはその時、ムルタ騎手がオドノヒュー騎手に「君は残り4ハロンのところで、柵からはなれて内側を開け道を譲ってくれ」と言ったとされているにもかかわらず、ムルタ騎手にはいかなる制裁も課さないと述べていた。
懲罰委員会は、問題のレースにおいてオドノヒュー騎手の実際の騎乗ぶりとムルタ騎手の指示・誘導がチーム戦術規定違反に該当するかどうかを判定するように求められている。
BHAの広報担当ポール・ストラサーズ(Paul Struthers)氏は9月23日、この180度の方針転換について次のように説明した。「チーム戦術の規程はジョニー・ムルタ騎手を咎める根拠とはなりません。しかし検討を重ねたところ、同騎手には施行規定220条(i)および220条(iii)違反の疑いがあります」。
220条(i)は規程違反の幇助や扇動に関するものであり、220条(iii)は英国競馬の公正確保、適切な実施および名声を侵害する行為に関するものである。
先行馬レッドロックキャニオン(Red Rock Canyon)に騎乗していたオドノヒュー騎手は後ろを振り返り、内柵から離れて速度を落とし、ムルタ騎手のデュークオブマーマレードに進路を譲って、5回目のG1勝利に導いた。
ムルタ騎手が懲罰委員会に出頭することで、審理に対する関心が高まるだろう。出席が決まるまでは、審理の対象は、? オドノヒュー騎手が同厩馬の利益のためにチーム戦術を取ったことが、施行規程153条(iv)違反に該当するかどうかと、? オブライエン調教師が153条(vi)に違反したかどうかの2点に絞られていた。なお、153条(vi)では、153条(iv)に違反した騎手の騎乗馬を管理する調教師は、その騎手に競走で他の馬すべてを公平に扱うように指示したと裁決委員を納得させることができる場合を除いて同罪であると見なされる。
もし違反と判断されれば、罰則によって調教師は2000〜1万ポンド[約48万〜240万円 平均は5000ポンド(約120万円)]の過怠金が課され、騎手は2〜10日間(平均7日間)の騎乗停止となる。
ムルタ騎手については、220条(iii)違反とされると3年の騎乗停止を受ける可能性がある。しかし、同騎手が規程違反とされる場合、制裁の程度はオドノヒュー騎手と調和が取られることになる見込みである。
9月23日午後にレーシングポスト紙が連絡を取った時、ムルタ騎手はこの件について詳細を語らなかったが、9月25日の審理への出頭を求められたことを認めた。
アイルランド騎手協会(Irish Jockeys’ Association)の最高経営責任者で開業弁護士であるアンドリュー・クーナン(Andrew Coonan)氏は、この審理のゆくえについて慎重な見方をを示した。
同氏は、「私は、この件はレース当日に検討されたが、裁決委員はそれ以上の措置を全く取らなかったと認識しています。本件は二重の危険の防止(一事不再理)に反する問題を含んでいます。BHAは懲罰委員会に審理を求めていますが、アイルランドとイギリスではこの二重の危険を防止する法原則が昔から確立されています」と語った。
イギリスとアイルランドにおいて、オブライエン厩舎のペースメーカーを使ったチーム戦術は今年も数回批判の対象となったが、今回は2007年3月に関係規定が改正されてから初めての審理である。
2006年のクイーンエリザベス2世Sでジョージワシントン(George Washington)が優勝した後バリードイル勢(Ballydoyle:クールモア牧場+オブライエン調教師)がチーム戦術を使ったと非難されたことが契機となって、チーム戦術に関する規定が定められた。この事件は、その後の審理ですべての不正行為の嫌疑が晴らされた。
By Graham Green
(1ポンド=約240円)
[Racing Post 2008年9月24日「Murtagh must face team tactics inquiry」]